1018.『クラン』を、作ろう。

「『美火美びびび』のメンバーから聞いたのですが、グリムさんは、すでに冒険者の中で有名人だそうです。

 『キング殺し』は、『クラン』を作らないのかと注目もされているようです。

 今ある『クラン』は……良い『クラン』もあるのですが悪質なものもあって、駆け出し冒険者を食い物にしているようなところもあるんですよ。

 私としては、グリムさんが『クラン』を作ったら、若手の冒険者たちを入れてほしいです。

 育成してもらうとか……お金がない冒険者たちを助けてあげてほしいのです」


 話を聞いていたメーダマンさんが、そんな提案をした。


「そうじゃのう。せっかく『クラン』を作るのじゃから、子供たちを所属させるだけじゃなくて、駆け出し冒険者も受け入れて、育成してくれると助かるのう。

 本当は『冒険者ギルド』でできれば良いのじゃが……簡単な講習会しか開けんからのう。

 すべての駆け出し冒険者に、充実した教育をしたり、装備の支援をする事は、とてもできんのじゃ。

 プライベートギルドである『クラン』に期待するのは、本当はそういう役割なのじゃよ。少しずつでも駆け出し冒険者の支援をしてくれる『クラン』が増えれば、それだけ生存率も高まるからのう」


 ギルド長も、メーダマンさんの話に乗ってきた。


 なんとなく……雲行きが怪しくなってきた。

 俺が作る『クラン』に対する期待が、必要以上に膨らまれても困る。


「グリムさんは、『コウリュウド王国』では『ハンター育成学校』を作っていますし、この迷宮都市でも『冒険者育成学校』を作ったらどうですか? ねぇギルド長?」


 メーダマンさんが、ノリノリでそんな提案をした。

 ちょっと暴走気味なのが困る……。


「そうじゃのう。ギルドでも考えている事はあるが……時間も予算もかかりそうじゃからのう。もし『冒険者育成学校』を作ってくれるなら、全面的に協力するぞい。ワッハッハ」


 ギルド長が、愉快そうに笑った。


 やはりあらぬ方向に話が膨らんできている。


 『冒険者育成学校』を作って、新人冒険者の支援をしてあげたり、生存率を高めることについては大賛成だが、あまり目立つ活動はしたくないんだよね。

 なし崩し的に、活動が拡大しそうで怖い。


 将来的には『冒険者育成学校』を作るというのはありかもしれないが、当分はおとなしくしていたいのだ。

 それに『冒険者ギルド』で学校を作るのが一番いいと思うんだけどなぁ。

 むしろ俺がそっちに協力する方が、いいんじゃないだろうか。


 まぁ今この話に突っ込むと、話がどんどん進んでしまいそうなので、苦笑いでスルーしておくけどね。


 と思って、苦笑いで誤魔化したのだが……


 ギルド長が、俺が『コウリュウド王国』でやっている『ハンター育成学校』について教えて欲しいと掘り下げてきた。


 俺は、『ハンター育成学校』の仕組みや行っていることなどを簡単に説明した。

 そして校長や講師をやっているのが、この『冒険者ギルド』に所属していた『炎武えんぶ』の皆さんであることも話した。


「それはすごいのう。ギルドで考えていたよりも、はるかに優れたもののようじゃ。そんな学校が作れたら、ほんとに良いのう。それにしても……あの『炎武えんぶ』の皆が協力していたとはのう」


「『冒険者ギルド』では、どんな学校を考えていたのですか?」


「まだ構想段階じゃがのう。今任意で行っている講習会を、初心者の場合は強制にして、五日間とか十日間みっちり行う形式にしようかと思っておったのじゃ。

 まぁ冒険者になりたいとやって来る人間が、お預けを食って長い期間学校に入ると言うのは、なかなか難しいじゃろうから、五日とか十日の講習が限界と思っておったのじゃよ。

 だがおぬしのやっている『ハンター育成学校』の話を聞く限り、しっかりした学校という形式もできそうじゃのう」


「そうですね。

 でも最初からしっかりした学校にしなくても、今考えていらっしゃる講習から始めてもいいんじゃないでしょうか。

 最初は一日二日の講習から始めて、五日十日と長くしていくのもいいでしょう。

 その後で学校を作っても良いかと思います」


 俺は、なるべくギルド主導でやって欲しいので、そんな話をした。

 万が一にも、話の勢いで俺に学校を作れと押し付けられても困るからね。

 ただ教育事業は結構好きだから、『冒険者育成学校』を作るのは、将来的にはやぶさかではない。

 今は、迷宮都市に来たばかりで、目立ちすぎるのが嫌だというだけなのだ。


 もっとも……『キング殺し』として有名になっているみたいだから、すでに手遅れかもしれないが……。

 深く考えると切ないので、考えないようにしよう……トホホ。


「そうじゃな。『冒険者ギルド』としては、若い冒険者たちが準備不足で命を落とすことを少なくしたいと考えておるから、できることからでも始めるとするわい」


「私もどこまでできるか分かりませんが、『クラン』を作って、若手冒険者も受け入れる方向で考えてみようと思います」


「そう言ってくれるだけでも、ありがたい。

 ただ問題は……おぬしが『クラン』を作るとなったら、若手冒険者のみならず、中堅の冒険者ですら『クラン』に入りたいと言ってくるじゃろう。

 殺到しそうじゃのう。絞るのが難しそうじゃ、ワッハッハ」


「そんなに来ますかね?」


「ワッハッハ、大変なことになりそうじゃのう。

 何か明確に、入会の条件のようなものを、公表した方が良いかもしれんのう。

 断る冒険者が多くなって、反感を買う可能性もあるからのう」


 ギルド長が愉快そうに笑ったが、後半は思案顔でアドバイスしてくれた。


「そうですね……何か考えてみます。アドバイス、ありがとうございます」


 作ったら作ったで、面倒くさいこともありそうだが、プライベートギルド『クラン』を作ることにしようと思う。

 『クラン』なら冒険者という範疇の中でいろんな活動ができるから、対外的にも筋が立つし、俺の“冒険者の活動以外はできるだけしない”という自主規制にも合致するからね。


 実は……子供たちに文字を教えたりしたいと思っていた。

 また、鶏の世話や農作業をしてもらって、自活できる技術もつけてもらおうとも思っていた。

 年嵩の子供たちには、ちょっとした屋台のようなものを運営してもらっても、いいかもしれない。

 直売所を作ってもいいかもしれないし。


 セイバーン公爵の『領都セイバーン』で、貧しい家の子供たちのために養鶏場を作った。

 今後は直売所を作って、そこの卵を直売したり、卵を使ったお菓子の販売もしようと計画している。

 それと同じようなことをやってもいいよね。

 『クラン』ならそんな活動も、無理なくできそうである。


 良いアイデアをもらった。

 ギルド長とメーダマンさんに感謝だ。




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