1013.犯罪ネットワークを、壊滅。
今夜中に『闇の掃除人』として、犯罪ネットワークにかかわる奴を根こそぎ捕まえる……そんな決意をした俺は、まず中区にある購入候補物件だった屋敷に向かった。
そこの厩舎には、昼に捕らえた盗賊たちが縛ってある。
俺は盗賊たちの『眠り』を解除し、全員目覚めさせた。
「「「ひぃっ」」」
「「「誰だ!?」」」
「何なんだお前は!?」
「何をする気だ!」
「俺たちに危害を加えたら、ただじゃ済まないだぞ!」
盗賊たちが、一斉に驚きの声を上げた。
『闇の掃除人』の出で立ちで仮面をつけているので、自分たちを拘束した俺が来ているとは思っていない。
そう思わせるために、あえて『眠り』から覚ましたのだ。
こいつらもまとめて太守に突き出すが、俺……グリムが突き出したと思わせない為の処置だ。
「お前たちが盗賊なのか……。奴隷商人から子供を拐っていることと、このアジトのことを聞いて来てみたが、すでに誰かに捕まっていたようだなぁ。悪い事はできないもんだなぁ。お前たちを捕まえた奴には悪いが、お前たちは俺が奪わせてもらう」
俺は、ここに来た理由がわかるような話を盗賊たちに聞かせ、『箱庭ファーム』に放り込んだ。
これで最初に拘束したのはグリムでも、後から仮面の男が現れて、連れ去られたと証言することだろう。
しかもその情報の出所は、奴隷商人だと理解したはずだ。
これで今回のすべての捕縛は、『闇の掃除人』の仕業にできる。
◇
俺は、犯罪ネットワークに関わっていると判明している者の屋敷を訪れ、関係者を全て拘束した。
盗品を買い取っている商会の会頭と幹部、中区の衛兵隊長と副隊長、北区の衛兵隊長、『商業ギルド』のギルド長と副ギルド長、会計係……これらの者たちはクレーター子爵の子飼いで、犯罪ネットワークにどっぷり関係していた。
それから冒険者パーティーのリーダーと思われる者が三人関わっていた。
またクレーター子爵に次ぐ大物は、中区の区政官だった。
日中に太守のムーンリバー伯爵の屋敷で行われていた緊急会議のメンバーの中に、犯罪ネットワークに関係している者が三人もいたのだ。
中区の区政官と中区の衛兵隊長、北区の衛兵隊長だ。
この三人は、『冒険者ギルド』のギルド長が、クレーター子爵派だと教えてくれていたが、犯罪組織でも中核的な役割を担っていたようだ。
犯罪ネットワークのトップであるクレーター子爵も、屋敷に侵入し拘束した。
犯罪に関わる資料も発見し、押収した。
クレーター子爵の息子は、犯罪ネットワークには直接関わっていなかったので、拘束はしなかったが部屋の捜索はした。
一応、犯罪ネットワークに関係した書類がないか調べたのだ。
その中で、スライムに関する書物を発見したので、押収させてもらった。
犯罪ネットワークと直接関係する書類ではないが、スライムを捕まえる行為は許せないし、スライムに関する都市伝説についても調べたかったからだ。
俺は、犯罪ネットワークに関係していた者たちを縄でぐるぐる巻きにして、太守屋敷の前に置いてきた。
証拠資料も一緒だ。
いつものように『闇の掃除人』としての手紙も添えた。
後は太守が証拠資料の確認及び追跡調査をして、厳正に処罰してくれることを祈ろう。
南区の林に戻ると、子供たちは皆眠っていた。
俺も一眠りするとしよう。
◇
迷宮都市 中区——太守ムーンリバー伯爵邸
「父上、この資料は凄いです。奴らが行っていた犯罪の構図、金の流れ……全てわかりますよ」
太守長男のムーディーが、もたらされた資料を見ながら興奮気味に言った。
「やはりそうか。これほどの核心的な資料を一体どうやって……」
太守のムーンリバー伯爵も、信じられないといった様子で腕を組む。
「置き手紙に書いてあったようにー、犯罪ネットワークに関わっている主要な人物はー、すべて拘束してあるようだねー。すべての屋敷に侵入したんじゃないかなー。そこで資料を入手したんでしょー」
次男で衛兵隊独立部隊隊長のムーニーが、独特の間延びした話し方で指摘した。
「ある意味……嬉しいですが、ある意味……悔しいです。我々が一年以上もかけて内偵して得られなかったものを、こうもたやすく入手されると」
少し悔しそうに拳を握ったのは、次男のムーニーの妻ミッティだ。
彼女は元衛兵隊独立部隊の隊員で、現在はムーンリバー伯爵の反対勢力の極秘調査に当たっていたのだ。
「この『闇の掃除人』というのは、一体何者なのでしょう?」
長男ムーディーの妻ベニーが、訝しげに腕を組む。
「……『闇の掃除人』の噂は、以前冒険者たちの噂話で聞いたことがあります。『コウリュウド王国』のピグシード辺境伯領で、悪事を働いた者や盗賊などを衛兵に突き出す謎の人物という話でした」
長女のムーランが記憶をたどりながら答えた。
「……『コウリュウド王国』のピグシード辺境伯領……もしや……この『闇の掃除人』というのは……シンオベロン卿なのか?」
伯爵が、目を見開いた。
「そこはー、わからないけどー、とても偶然とは思えないよねー」
「確かに、偶然とは思えませんわ」
ムーニーとムーランの言葉に、他の者たちも頷いた。
「仮にシンオベロン卿だとして……訊いても答えんだろうな。答えるくらいなら『闇の掃除人』として突き出してはいないだろう。
……まぁ事実がどうであれ、我々にとっては助かった。
これだけの証拠があれば、クレーター子爵を中心とした犯罪ネットワークを葬ることができる。これなら公都も横槍を入れづらいだろう」
「父上、その通りです。これを機会に、奴らを一網打尽にしましょう」
長男のムーディーがそう言いながら視線を、次男のムーニーに流した。
「はいはい、裏どりは私とミッティでやりますよ」
ムーニーは、証拠資料をめくりながら、面倒くさそうに答えた。
「お父様、一度シンオベロン卿に話を訊いてみてはどうでしょう?」
ムーランの問いに、伯爵は腕組みしながら目を閉じ、深呼吸をした。
「まぁ訊いてもいいが……とぼけるだろうな。
盗賊たちの話では、物件を見に来た者に拘束され、その後『闇の掃除人』に連れ去られたと言っていた。
どうもその物件を見に来た者というのは、シンオベロン卿のようだ。
もしシンオベロン卿が『闇の掃除人』だとしたら、わざわざ『闇の掃除人』が別人だと思わせるように工作したことになる。尋ねても、素直に答える事はないだろう」
「なるほど……そうかもしれませんね。でもリリイとチャッピーの件もあります。真実を打ち明けて、我々の仲間に引き込んだ方が良いのではないでしょうか?」
「父上、それは私も思います。私はあの幼い二人が、キングチキンをあっという間に倒してしまう姿を見ました。信じられない強さでした。
そしてあのリリイという子には、前公王の面影が。間違いなくダグラスの忘れ形見だと思います」
ムーランの問いかけに、ムーディーが追随した。
「そうであれば、なおさら慎重を期した方が良い。
彼らは武者修行のために迷宮都市に来たと言っているが、本当の目的はおそらく別だろう。
それがわからないうちは、慎重にならざるを得ない。警戒されて、この迷宮都市を去られても困るしな。
今はやはり様子を見ながら接するのがベストだろう」
「歯がゆいですわね。まぁ今回助けてもらったのが良い機会になります。私が彼らに近づいて、自然に状況がわかるような関係になっておきますわ」
「私もお手伝いしましょう。ルージュが、リリイちゃんとチャッピーちゃんと遊びたがっていますし」
「そうだな。我々は一定の距離を保ちつつ、ムーランとベニーに自然にシンオベロン卿に近づいてもらうことにしよう。
さて、まずは『闇の掃除人』が置いていった犯罪者どもを速やかに裁きにかけよう」
伯爵の言葉に皆が首肯し、動き出した。
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