1014.商業ギルドで、物件購入。

 翌日の朝、俺はメーダマンさんと一緒に『商業ギルド』を訪れた。


 ニアとリリイとチャッピーは、林に残ってもらった。

 子供たちと一緒に朝食をとった後、ゆっくりしてもらうことになっている。


 俺が朝一で『商業ギルド』に来た目的は、あのツリーハウスがある土地を購入する為だ。

 購入してしまえば、子供たちの住む場所にすることができるからね。


「はじめまして、私は『ヨカイ商会』さんの担当させていただいてますビジネリアと申します」


 ビジネリアさんは、緑髪を肩まで伸ばした優しそうな顔つきの女性だ。

 黄色の半袖の丈の短いローブを着ている。

 これが制服のようだ。


「はじめまして、グリムと申します。よろしくお願いします」


「早速ですが……実はいま『商業ギルド』は、大変なことになっているんです。ギルド長、副ギルド長、会計担当が不正行為で捕まっちゃったんですよ」


「え、そうなんですか!? じゃぁ商談するのは無理ですか?」


 メーダマンさんが驚いて、険しい顔になった。


「いえ、いいんです。一般業務には支障ありませんから。大きな声では言えませんけど、本当は良かったんですよ。ギルド長も副ギルド長も、ギルド会員のことを考えない酷い人たちでしたから。商業市政官のクレーター子爵の腰巾着で言いなりだったんです」


「やっぱりそうだったんですか。実は、あまりいい噂は聞かなかったんですよ。もちろん我々商人は、表立っては話せませんでしたけど……」


 メーダマンさんが、納得という感じで頷いている。


「実は、昨日の夕方になって、グリム=シンオベロンという『コウリュウド王国』の貴族が来たら、一切の取引をさせるなと指示が出ていたんですよ。おそらくクレーター子爵からの指示だと思うんですけど」


「え、そんなことが……」


 メーダマンさんが驚いて、俺の顔を見た。

 確かに驚きだ。

 俺を名指しで、取引させるなとは……


「はい。でも捕まったんで、もう大丈夫だと思います。噂によれば、クレーター子爵も捕まったみたいですから」


 ビジネリアさんは、満面の笑みを浮かべた。

 相当……ギルド長やクレーター子爵に思うところがあったらしい。


「それにしても、どうして、グリムさんと取引をするななんて指示を……?」


 メーダマンさんが、首を傾げた。


「そうですね。クレーター子爵には、会ったことがありませんからね。昨日息子と一悶着ありましたから、それが原因としか考えられませんね」


 俺はそう答えた。

 それ以外考えられないからね。

 あのバカ息子が、父親に告げ口したのだろう。

 全くどうしようもない親子だ。


「やはりそれしか心当たりは無いですよね。それにしても、そんなことで取引をさせないなんて……親子揃って、ほんと呆れたもんですね」


 メーダマンさんも呆れ顔だ。


「ほんとそうですね。あの息子のほうも、みんなほんとに困ってるんですよ。残念ながら息子は逮捕されてないみたいなんですけど……」


 ビジネリアさんが、ため息をついた。

 あのバカ息子は、相当あちこちで迷惑をかけていたようだ。

 やはりあのバカ息子も拘束しておくべきだったかなぁ。

 見つけた資料には、直接息子の名前が出てなかったんだよね。

 息子の部屋の資料を見た時も、直接犯罪行為を示すような書面は残ってなかった。


 スライムを捕まえること自体は、犯罪ではないし。


 あいつがいつも周りに迷惑かけていたのは、おそらく場当たり的に、感情のままに迷惑をかけていたのだろう。

 だから、当然、書面として残っているわけでは無い。

 そういうことだろう。

 ああいう奴は、傍若無人な振る舞いをしているときに、現行犯で逮捕するしかないんだよね。


「確かにあの息子は、逮捕されてもよさそうなもんですけどねぇ。今までは、父親がもみ消してたんでしょうけど。

 それにしても、『商業ギルド』の新しい体制が決まってない中で、ほんとに取引して大丈夫なんですか?」


 メーダマンさんが、心配そうに確認した。


「ええ、大丈夫です。新しいギルド長が誰になるかわかりませんけど、取引を私的な理由で規制することはしないと思います」


「わかりました。じゃあ早速なんですが……紹介いただいた物件の中で購入したいものがあります。

 そうだ、その前に……中区の物件を見に行った時、実は盗賊のアジトになっていまして……盗賊たちは厩舎に縛っておいたんですよ。……すみません、すぐに連絡ができなくて」


 メーダマンさんが、拘束した盗賊の話を出してくれた。

 俺もうっかり忘れるところだった。

 まぁ奴らは、既にそこにはいないんだけどね。


「その件は、私もお詫びしようと思っていました。変な物件を紹介してすみませんでした。

 実は衛兵から連絡があって、その件は知っています。

 『闇の掃除人』という義賊みたいな人が、悪い奴らを根こそぎ捕まえて太守様のお屋敷の前に置いていったみたいなんですけど、その中に盗賊も入っていたそうです。

 盗賊が、最初は屋敷を見に来た者に捕まったが、その後覆面の男に拐われたと証言したみたいです。

 その確認が、さっきギルドに来て、私たちも知ったのです」


「そうだったんですか……」


「ギルド長が、盗賊たちに提供してたみたいなんですよね。物件情報も目につかないところに隠されていたんですけど、私が見つけて、良い物件だったので紹介してしまったのです。まさか、盗賊のアジトになっているとは思わなくて……本当にすみませんでした」


「いえいえ、いいんですよ。お気になさらないでください。それで……購入する物件なんですけど……」


 メーダマンさんはそう言って、購入に関する商談を切り出してくれた。


 購入するのは、南区にあるツリーハウスがある土地だ。

 そして道を挟んだ向かいにある農地、それから候補地にはなかったが、その更に奥の西側にある林も購入できないか尋ねた。


 ビジネリアさんがすぐに調べてくれて、林も購入することが可能とわかり、この三箇所を購入することにした。


 それから北区にあった宿屋をしていたという物件も、購入することにした。

 この迷宮都市はかなり広いので、北区にも屋敷があった方がいいと判断した。

 それに、かなり良い作りだったので、今後何かに使える可能性もあると考えたのだ。


 元々提示されている価格は、南区のツリーハウスがある敷地が二千五百万ゴルで、農地も同じく二千五百万ゴルだった。

 新たに追加した林も二千五百万ゴルとのことだ。

 農地は、ツリーハウスのある敷地の六倍の面積があり、林は十倍の面積があるが、用途の違いで相場が違うので、同じ値段になったようだ。


 北区の宿屋が五千万ゴルなので、四物件合計で一億二千五百万ゴルになる。

 これをメーダマンさんが頑張って交渉してくれて、一億一千三百万ゴルになった。

 ツリーハウスのある敷地と農地は、仲介物件らしく百万ゴルずつしか値引きしてくれなかったが、林と宿屋だった物件はギルドが所持している物件で、五百万ずつも割り引いてくれたのだ。


 早速購入手続きを進めてもらおうと思ったが、ビジネリアさんから一つ提案があった。

 それは、盗賊のアジトになっていた中区の物件を格安にするから買ってくれないかとの申し出だった。


 今回盗賊のアジトになっていた事が表沙汰になったので、今までの値段では販売することができないだろうとのことだ。


 そこで、土地売買の部門長であるビジネリアさんの判断で、格安に設定し直すのだそうだ。

 お詫びの意味も込めて、かなり安くするので、よければ買わないかというのだ。


 俺としては、完全に事故物件なので、あまり気が進まなかったが……ビジネリアさんは、純粋に善意で提案してくれているようなので、一応値段を確認した。

 元々の提示価格は五千万ゴルだったが、それを半額にするという提案だった。

 金額だけ考えれば、かなりお得な金額である。


 もしこの迷宮都市で、貴族として活動し、誰かを招待するような事でもあるなら、あの屋敷は使えると思うが……そんな予定は今のところない。

 いくらお得といっても、あまり使い道は思い浮かばない。


 そんなことを考えながら、返事を保留していたら……なぜかさらに割引して二千万ゴルにすると言われてしまった。

 そんなに無理して俺に売らなくてもいいと思うのだが……。

 いくら事故物件とは言え、値段が安かったら他に買う人がいると思うんだよね。

 普通なら……怪しむところだが、ビジネリアさんは純粋にお詫び的な意味合いで提案してくれているようなので、購入することにした。

 破格の安値だしね。


 ビジネリアさんは喜んでくれて、今後ギルド長が変わることで、ギルドが所有している不良不動産が売りに出される可能性が高いから、お得な物件情報を優先して流すとも言ってくれた。

 別に頼んではいないのだが……俺は苦笑いしながらお礼を言った。


 ……即金で代金も払って、手続きを完了させた。

 これで、あの子供たちの住む場所も確保できた。




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