1012.子供たちの救出と、証拠品押収。
俺は、南区の林を出て、北区にある奴隷商館に移動した。
普通に動けばかなりの距離であるが、『闇の掃除人』スタイルで『隠れ蓑のローブ』を装着し、姿と気配を消した。
そして、『飛行』スキルを使って移動した。
既に潜入して下調べをしてくれていた『エンペラースライム』のリンちゃんと合流する。
「あるじ、悪い奴眠らせた。子供たち元気ない。可哀想」
リンちゃんがバウンドしながらそう言って、俺を商館に誘導した。
気を効かせて、商館の奴らを無力化してくれていたようだ。
『状態異常付与』スキルで、『眠り』を付与したのだろう。
商館の奥の個室に隠し扉があって、地下室に繋がっている。
降りていくと、移動式の檻がいくつも並んでいる。
檻の中には、十歳から十三歳までの子供が十四人いた。
ツリッシュ君の例があるので、今回は最初に『波動鑑定』をさせてもらった。
『波動鑑定』で分かる範囲での訳ありっぽい子はいなかった。
みんな怯えていたが、助けに来た旨を告げ、静かにするように伝えた。
そして、全員の奴隷契約を解除した。
これで、ここから逃げても奴隷契約による拘束で、肉体的苦痛を受けることはない。
通常、奴隷になっている場合、逃げないように命令が下されていて、それに反くと大きな肉体的苦痛に襲われるのである。
俺は、子供たちを安全に脱出させるために『箱庭ファーム』の魔法道具を取り出し、一旦そこに避難してもらうことにした。
『闇の掃除人』スタイルで仮面をつけているので、子供たちが怪しんでもしょうがない姿なのだが、みんな素直に『箱庭ファーム』に入ってくれた。
ぐったりしていて、警戒する余裕もないのだろう。
この商館は、地上部分が二階建てになっていて、二階に販売している奴隷が置かれていた。
念の為、二階の様子を確認したのだ。
十人の奴隷が、檻の中に入れられている。
俺は仮面をつけたまま、一人づつに同じ質問を二つ投げかけた。
一つ目は奴隷になった理由、二つ目は今まで罪を犯したことがあるか、ある場合はその罪状だ。
事情は様々だろうが、この質問を投げかけることによって、重大な犯罪者や悪意のある者を弾くためだ。
『虚偽看破』スキルがあるので、嘘をつけばすぐわかる。
この質問の結果、五人を助け出すことにした。
残りの五人は、『状態異常付与』スキルで『眠り』を付与し、そのままにした。
奴隷制度自体には反対であるが、だからと言って問題がある者まで解放するつもりはない。
他の誰かを害する可能性がありそうな者を、解き放つわけにはいかないしね。
助け出したのは……長年支えた主人に捨てられたという初老の男性と、旅の途中で盗賊に襲われ捕まって売り飛ばされたという十五歳の少年が四人だ。
少年四人は、冒険者になろうと公都から来る道中で、盗賊に襲われたとのことこだ。
この五人についても、奴隷契約を解除して『箱庭ファーム』に入ってもらった。
それから俺は、商館の中の書類を確認し、押収した。
最後に奴隷商人の『眠り』を解除し、いつものように優しく尋問した。
そして奴隷商人が知っている限りの影の犯罪組織……いわば犯罪ネットワークの関係者を吐かせた。
この話の裏付けは、押収した書類でも確認ができた。
この奴隷商人が、盗賊団が拐った子供たちを買い上げて、他国で販売していることを示す書類や、他の犯罪行為とその繋がりを示す書類を見つけたのだ。
他にも、盗賊団が盗品を捌いている商会や関係者が分かる覚書のようなものが出てきた。
それらの各商会が上納金を、犯罪者ネットワークのトップに納めていることも記入されていた。
そのトップが、クレーター子爵であることも記入されていたのだ。
奴隷商館で出てきた資料としては、かなり良い成果だ。
この商館が直接関わっていない部分については、覚書程度のものだが、全くないよりはいいだろう。
それらの取引の証拠は、これから新たに確保すれば良いのだ。
対象さえわかれば……同様に忍び込んで証拠を確保することができる。
上級貴族であるクレーター子爵も含め、この一大犯罪ネットワークに関係している商人や衛兵は、『闇の掃除人』として一気に掃除してしまうことにした。
子供たちを拐って売っていることが、俺の逆鱗に触れているんだよね。
実は、俺はかなり怒っているのだ!
ただ掃除するといっても、殺したりはしないけどね。
まとめて拘束し、書類とともに太守のムーンリバー伯爵の屋敷に置いてこようと思っている。
ムーンリバー伯爵を100%信用できるかは、現時点では不明だが、今日の襲撃事件の対応を見る限り大丈夫だと思う。
それに、クレーター子爵を問題視していたから、悪事の証拠と一緒に突き出せば喜んでくるのではないだろうか。
当然『闇の掃除人』として突き出すので、どこの誰ともわからない者が集めた証拠を信じるかは、わからないけどね。
ただ、おそらくムーンリバー伯爵は、俺の期待するような対応してくれると思う。
◇
俺は一旦南区の林に戻って、助けた奴隷の子供たちを『箱庭ファーム』から出してあげた。
「兄ちゃんっ」
「姉ちゃんっ」
待っていた子供たちが、泣きながら出迎えた。
助け出した人たちに、まず『スタミナ回復薬』を飲ませてあげた。
この後、ゆっくり食事をしてもらうつもりだ。
「あの……ほ、ほんとに助けてくれて……あ、ありがとう…… ご、ございまし……た」
リーダー少年というか本当は少女だが、ツリッシュ君がバツが悪そうに俺に礼を言った。
「これで少しは……俺のことを信用してくれるかな?」
「い、一応……信用するよ……」
「まったく……素直じゃないわね。まぁいいけどさ」
ニアがツリッシュ君の目の前に止まって、腕組みをしている。
ツリッシュ君は更にバツが悪そうな感じで、うつ向きながらこめかみを掻いている。
「ニア、悪いけど今助けた人たちの面倒も頼むよ。俺はまだやることが残ってるから、片付けてくる」
「いいけど……何するわけ?」
「悪い奴らを、一網打尽にしてくるよ」
「そういうこと。オッケー、こっちは任せて!」
「じゃあ行ってくる」
俺は再び、林を後にした。
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