1004.物件巡りに、行こう。
炊き出しは、無事に終わった。
被災した人も、そうでない人も数多く集まってきて、最終的にはかなりの人数になっていた。
焼き場をいくつも増設して、大量の肉串を焼いた。
大きな災害の後だが、みんな元気を取り戻してくれている感じだった。
炊き出しに集まった人たちの中で、いろんな噂が飛び交っていた。
俺の仲間たちの活躍の様子を見ていた人が、結構いたようなのだ。
多くのスライムたちが、人を助けたり魔物を倒したりという話や、犬に乗ったアライグマが助けてくれた話や白い馬たちが傷を癒してくれた話などが多かった。
この子たちは広範囲に動いていたから、目撃した人も多いのだろう。
『コボルト』のブルールさんが、かなりの数の鶏魔物を屠っていたようで、変わった形の盾で魔物を殴りまくるすごい女冒険者がいたという噂も広まっていた。
それから、ニアが空中にいる鶏魔物を一瞬で倒した様子を見た人もいたようで、妖精女神の噂も広まっていた。
ただニアについては、重傷者特に部位欠損の人を治したり、瀕死の人を心肺蘇生したりという活動をしていたので、皆“癒しの女神”様と呼んでいた。
前もセイバーン公爵領の兵士たちを治療した時に“癒しの女神”と言われていた。
今回も、治療の方がより感謝されているようだ。
リリイとチャッピーとアイスティルさんは、太守の屋敷に直行して、その周辺の魔物を倒していたので、あまり多くの人には目撃されていなかったようである。
最強の八歳児たちが目立ちすぎずに、ある意味良かったと思う。
ただ太守邸に鶏魔物のキングが現れたという話が広まっていて、それを倒したのは小さな二人の女の子だと証言していた人が何人かいたが、周りの人たちが全く信じていなかった。
実際、リリイとチャッピーが倒したのだが、駆けつけた冒険者が倒したということになっている。
まぁリリイもチャッピーも冒険者登録しているので、間違いではない。
リリイとチャッピーも炊き出しを手伝っているのだが、目撃した人もちゃんと顔を見ていたわけでは無いようで、今のところ気づいていない。
パトとラッシュ及びラスとカルと一緒にいるブルールさんを見た何人かの人が、助けてもらった礼を涙ながらにしていた。
誰が言ったのかわからないが、スライムと馬たちは俺が使役していることを知り、わざわざ俺に礼を言いに来てくれる人もいた。
当然、ニアさんにも多くの人が礼を言いに来ていて、皆ニアの子分や信者になっているような感じだった。……ちょっと怖い。
俺は、ニアとリリイとチャッピーを連れて、メーダマンさんと出かけることにした。
もともと予定していた物件確認に行く為だ。
事業を引き継ぐ予定の商会の資産となっている物件を、確認しなければならない。
あとは、メーダマンさんが俺たちの拠点の候補としてリストアップしてくれていた物件の確認だ。
ちなみにアイスティルさんと『コボルト』のブルールさんは、旧知の仲の副ギルド長ハートリエルさんと話したいことがあると言うことで、俺たちには同行しなかった。
ハートリエルさんとは、挨拶をした程度なので、俺もしっかり話をしたいと思っているが、焦る必要はないだろう。
冒険者パーティー『
俺たちは、今いる中区にある物件から確認することにした。
中区には、引き継ぐ予定の商会の物件は無いので、メーダマンさんが俺の拠点として候補に挙げてくれた物件の確認だ。
中区は、南区から北区へと続く大通りを起点に、その西側の『西ブロック』と東側の『東ブロック』に大きく分かれている。
それぞれ長方形の形状になっているが、そのブロックの中に『上級エリア』『中級エリア』『下級エリア』『農業エリア』が置かれている。
太守の屋敷は、『西ブロック』の『上級エリア』にあるのだが、今から見に行く物件は、それとは反対側の『東ブロック』の『中級エリア』にあるとのことだ。
『西ブロック』の『上級エリア』や『中級エリア』には貴族の屋敷が多く、『東ブロック』の『上級エリア』や『中級エリア』には貴族の屋敷もあるが、裕福な商人の家も多いらしい。
そんなこともあり、『東ブロック』を選んでくれたようだ。
確かに貴族に囲まれるよりも、気が楽でいい。
候補の物件は、裕福な商人のお屋敷だったところらしい。
拠点となる物件は、本格的に探索する迷宮がある南区に作るのがいいと思っているし、メーダマンさんもそう考えてくれているようだが、一応中区にも北区にも候補物件を用意したとのことだ。
そして、中区はともかく、もし余裕があるなら北区にも拠点を構えておいた方が良いともアドバイスしてくれた。
移動するのが大変だからだ。
まぁ実際には、転移の魔法道具を使えるのだが、オープンにしたくない情報だから、一応拠点を作っておいた方がいいかもしれない。
……中区の物件に着いた。
思ったよりも大きな屋敷だ。
『中級エリア』と『下級エリア』を隔てている広い通りに面していて、中央の大通りに繋がる道と交差する角地だ。
人や馬車の通りが多い二つの道が交差する場所にあるが、敷地が広くて家屋が奥のほうにあるので、騒がしさはあまり感じずに済むだろう。
ピグシード辺境伯領の『マグネの街』にある最初に手に入れた屋敷に、近い広さがあるのではないだろうか。
本館、別館、倉庫、厩舎があり、庭もかなり広い。
建物の中には入れないが、門を開けて敷地の中に入ることができるそうなので、みんなで入ってみることにした。
最近まで使われていたようなので、庭の草木も手入れされた状態を維持している。
建物の中は見れないが、おそらく問題ないだろう。
かなり良い物件のようだ。
売却価格は、約五千万ゴルと言われているそうだ。
場所と広さを考えれば、妥当な値段ではないかと思う。
メーダマンさんの話では、中区は全般的に相場が高いらしい。
この物件は、『中級エリア』の中でも『下級エリア』に近い為、安いほうなのだそうだ。
二つの大きな道の交わる角地に位置しているので、屋敷の一部を改装して店舗を作っても面白いかもしれないとメーダマンさんが言っていた。
確かに二つの大きな通り沿いには、屋敷の一部を改装して店舗にしているところも、いくつかあるからね。
俺の個人の屋敷ではなくて、『フェアリー商会』の拠点とするにはすごくいい物件かもしれない。
ただ、今のところ『フェアリー商会』が進出する予定は、全くないけどね。
この物件は、『商業ギルド』が買い上げて直接保有している物件らしく、値段交渉には応じてくれるとのことだ。
ん……なんだ?
厩舎の方から人の気配がする……。
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