1005.不法占拠者に、尋問。

「メーダマンさん、厩舎の方から人の気配がするので、ちょっと見てきます。ここで待っていてください」


 俺は、厩舎のほうに向かった。

 ニア、リリイ、チャッピーもついて来るようだ。


「まったく……魔物騒ぎには驚いたぜ」

「この屋敷に降って来なくて助かったなぁ」

「ああまったくだ」

「ついてたな」

「まだ混乱の最中だ。どさくさに紛れて、盗みに入っちまおうぜ! 絶好の機会だ」


 『聴力強化』スキルで強化された聴力が、そんな会話を拾った。


 どうもこの厩舎にも、地下室が作ってあるらしく、地下の方から聞こえてくる。

 屋敷に住んでいる人はいないわけだから、勝手に居着いているのだろう。

 そして会話の感じからして、まともな奴らとは思えない。

 ……たぶん、盗賊だろう。


「やぁ君たち、ここで何をしているのかな?」


 俺が密かに近づき声をかけると、奴らは一斉に振り向いた。


「な、」 

「何者だ!?」

「なんだお前は!?」

「まずい、見られた」

「やっちまえ!」


 盗賊たちは、剣を構えて戦闘体勢をとった。

 まぁ当然の反応ではある。


「フクロウのネズミさんなのだ! おとなしく観念なさいなのだ!」

「火付盗賊改であるなの〜、御用だなの〜」


 リリイとチャッピーがそう言って、地下室を走り回って盗賊五人を気絶させた。

 いつもながら一瞬の早業だ。

 八歳児に一捻りにされる小悪党……小気味良い。


 それはいいのだが……“フクロウのネズミさん”ってなに……?

 ……“袋のネズミ”だよね。

 “火付盗賊改”って何よ!?

 そんな役職……この世界にはないでしょうよ!

 てか……これ誰が教えてるわけ……?

 『ライジングカープ』のキンちゃんの『ランダムチャンネル』による情報かな……?

 それと絡んだニアさんの影響か?

 あるいは……見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんかなぁ……?

 まぁそんなことは、どうでもいいが。


 驚いたことに、地下の倉庫になっている場所の奥には扉があって、開くと地下通路があった。


 進んでみると……本館の地下室に繋がっていた。

 おそらく……何かあったときに、緊急避難するための通路だろう。


 それを盗賊たちが見つけて、屋敷の中に入り込んでいたようだ。


 本館の中に入ると、さらに十人の盗賊がいた。

 どうも、ここをアジトにして暮らしていたらしい。


 当然そいつらも拘束した。


 中はかなり荒らされていた。

 ちょっとした事故物件だ。


 俺は全員を縄でぐるぐる巻きにして、厩舎の柱にくくりつけた。


 エントランス付近で待っていたメーダマンさんのところに戻って、事の次第を報告した。


「まさかそんな状況だったとは……。変な物件を紹介してしまって、申し訳ありません……」


「いえいえ、メーダマンさんが謝ることではありません。誰にも知られないうちに、密かに入り込んでいたようですから。引っ越した後ですから、中には金目のものはほとんどなかったでしょうが、だいぶ汚されている感じでした」


「分かりました。私の方から『商業ギルド』に連絡をしておきます。盗賊も『商業ギルド』から、衛兵隊に突き出してもらいます。彼らの管理物件ですから、体面も保たれるでしょう」


「そうですね。よろしくお願いします」


「あ! ……もしかしたら……」


 メーダマンさんが、何か思い出したようだ。


「どうかしましたか?」


「捕まえた盗賊はもしかしたら……最近この迷宮都市を騒がせている盗賊団かもしれません。確か……金品を盗むだけじゃなく……人拐いもやっているはずです。特に孤児を拐って奴隷商人に販売しているっていう話です……」


 おっと……聞き捨てならない。

 子供を拐っているだと……


「もしそうなら、子供たちを助けないとですね。もう少し尋問してみましょう」


 俺たちは、みんなで厩舎に移動した。


 子供を拐って奴隷商人に売り飛ばすなんて……そんなことをしている奴らだったとしたら、絶対に許せない!


 ……そんな気持ちがついつい圧として出てしまったのか……奴らは素直に白状した。

 もちろん、いつものように物理力は使っていない……つもりだ……。

 ほんの少し……足の小指を踏んづけただけなのだ。

 グシャっという音はしていたが……後から回復薬もかけたから問題ないだろう……。

 決して拷問ではないのだ……これ以上はノーコメントなのだ!


 ……メーダマンさんの予想が当たっていた。

 奴らは、迷宮都市を騒がせている盗賊団だった。

 そして子供を拐って、奴隷商人に売り飛ばしているのも事実だった。

 奴隷商人とグルになっていて、拐うとすぐに奴隷商人の商館に連れて行くらしい。

 秘密の地下室があって、そこに集めているのだそうだ。

 人数がまとまったら、他国に売りに行くという手順になっているが、最近子供の確保が遅れていて、まだかなりの数が商館に残っているだろうとのことだ。

 人拐いの噂が広まって、ホームレスの孤児たちがどこかに逃げていなくなったのだそうだ。


 もう一つ、盗賊たちから面白い話を聞くことができた。

 奴らは、自分たちは迷宮都市を牛耳る闇の組織の末端に過ぎないと言い出したのだ。

 そんな口を滑らしたら、当然、より深く追求する。

 そして明らかになったのは、奴らは無作為に盗みに入っているわけではなく、大体は指示があってやっているということだった。

 盗品を買い上げる商会から、ターゲットの情報をもらうのだそうだ。

 ほとんどのターゲットは、中区らしい。


 盗賊たちは、中区の衛兵隊の中に、組織の協力者がいるはずだと証言した。

 ただこれは盗賊たちの予想であって、奴隷商人や盗品を買い上げる商会に確認しても、明確には答えなかったらしい。


 盗賊団は、あくまで末端組織なのだろう。

 当然“闇の組織”の実態についても、知り得る立場にないのだが、たまたま奴隷商人の会話を耳にして、ある貴族が大きく関わっていることを知ったそうだ。


 その貴族というのは……俺の知っている貴族だった。

 それは……クレーター子爵だ。

 クレーター子爵に会った事はないが、奴の息子は先ほど怒鳴り込んできたあのスライムを監禁していたアホ貴族なのだ。


 太守のムーンリバー伯爵は、親子揃って問題だと言っていたが、問題どころか犯罪者だったらしい。


 闇の組織は、貴族、奴隷商人、いくつかの商会、いくつかの冒険者グループが関わっていて、密輸も行っているらしい。

 冒険者が、本来『冒険者ギルド』に納めるはずの『魔芯核』をグループ内の商会に納めて、密輸して儲けているというのだ。


 今までの話を聞く限り……おそらくこの犯罪グループの頂点にいるのが迷宮都市の商業市政官のクレーター子爵だろう。

 私腹を肥やしているに違いない。


 なるべく関わりたくはなかったが……子供たちを拐って売り飛ばすなんて……許すわけにはいかない。


 久しぶりに……『闇の掃除人』の出番が来たようだ。





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