997.活躍の、報告。

 中区に入って、太守の屋敷に着いた。

 ……建物が半壊している。


 ここまで来る道中もそうだったが、『エンペラースライム』のリンちゃんが報告してくれた通り、太守の屋敷の近くに多くの鶏魔物が降り立ったようだ。

 被害に遭っている建物が多い。


 来る途中、ニアに念話で、ここでの戦いの状況を聞いた。

 初期に空中に纏まっていた鶏魔物を、ニアが一気に倒してくれたようで、これでも被害はだいぶ抑えられた状態のようだ。

 ただニアらしいのは、その後のことだ。

 空中にいるから無差別な範囲攻撃をしても周辺被害が出ないと思って、初出しの『種族固有スキル』である『ロイヤルストレートフラッシュ』を使ったらしい。

 技自体で周辺被害は出なかったが、倒された魔物がどんどん下に落下していくので、その対処がめっちゃ大変だったとボヤいていたのだ。

 少し冷静に考えれば、わかりそうなものだが……ニアさんらしいとしか言いようがない。

 慌てて飛びまわり、『共有スキル』にセットしている『アイテムボックス』スキルで回収したらしい。

 奇跡的に……住宅に落ちた死体はなかったようだ。

 神業としか言いようがない。


 それにしても……『アイテムボックス』は、容量無限ではない。

 よく全部回収できたものだ。

 ニアの話では、百体くらい空中にいたらしいからね。

 スキルレベルが10だから、かなりの容量があるのはわかっているのだが、限界を試したことはないんだよね。

 ニアは「まだ大丈夫そうだったけど」と軽く言っていたけど……。


 まぁ今回、回収した物量までは収納できることが、実証されたとも言える。

 というか……冷静に考えると……スキルレベル10にするなんて、通常では難しいことなんだから、ボーナスみたいな感じで、容量無限にしてくれればいいのに……。

 思わずこの世界のシステムにボヤいてしまった。


 それはさておき……ニアさんの活躍が、被害の拡大を大きく抑えたのは間違いない。

 素直に…… グッジョブと言っておこう。


 そんなニアの活躍があったにもかかわらず、かなりの数が下に降りていて、広範囲に被害を出したわけだ。


 降り立った鶏魔物は、ブルールさんとパトとラッシュ、ラスとカルたちが暴れ回り、駆逐してくれたようだ。

 馬車を引いていた馬たち六頭もそれぞれに駆け回り、怪我人に密かに回復魔法をかけたりしてくれていたらしい。


 そうしているうちに、『エンペラースライム』のリンちゃんが率いる『スライム軍団』が到着して、中区全域の鶏魔物の駆逐と人々の救助を行ってくれたわけだ。


 一応最後の方には、応援で駆けつけた冒険者たちもいて、何体かの魔物は冒険者たちも倒してくれたみたいだけどね。


 リリイとチャッピーは、昨日友達になったルージュちゃんを心配し太守屋敷に直行していたが、それが結果的に大正解だった。


 リリイとチャッピーのおかげで、ルージュちゃん姉弟をはじめ太守屋敷の人たちは命を落とさずに済んだのだ。


 ここに鶏魔物のキングも現れていて、間一髪のところをリリイとチャッピーが倒したようだ。


 それにしても……現れた魔物すべてに、キングクラスがいた。


 今まで……『コウリュウド王国』では、キングクラスの魔物に会ったことがない。

 なぜこの国には、これほど出現するのだろう……?


 おそらく……キングにクラスチェンジするのは、単にレベルが上がるだけではなく、何か条件があるのだろう。

 それを満たしやすい何かが……この国にあるのだろうか……?


 それから、魔物の種類にも地域性があるのかもしれない。

 鶏の魔物は、『コウリュウド王国』では見かけなかったからね。


 ルージュちゃんのお母さんが瀕死で、心肺停止の状態だったが、ニアが蘇生に成功したとの報告も受けた。

 また太守のムーンリバー伯爵も腕を失っていたが、ニアが治してあげたとのことだ。


 部位欠損の重傷者を太守邸に運び込むように、ニアが指示を出して、仮設の救護所になったらしい。


 ニアの話では、太守に指示を出してやらせたと言っていたが……あの人まさか……太守を顎で使ってないよね……?

 ……考えるのが怖いので、やめておこう。


 リリイとチャッピーは、みんなを助けるために、『魔法の絵本』を使ったようだ。

 特別な魔法道具だから、原則使わないように言ってあったが、人命優先なので止むを得ないだろう。

 むしろ正しい判断をしたと思う。


 あの子たちが、キングを倒したり、他の鶏魔物を屠っている無双状態をかなりの人が目撃したようだが、『魔法の絵本』を使ったのは、逆に良かったかもしれない。

 『魔法の絵本』を含めたあの子たちが使っている武器が、特別な武器だから戦えたということにして、リリイたちの強さを誤魔化してみようと思う。

 まぁあの太守が誤魔化されてくれるとも思えないけど……。

 ただ太守は、その様子は見ていなかったようだから、何とかなる可能性もある。



 ……屋敷の中に入っていくと、門からエントランスまでの間が救護所になっている。

 多くの人が寝かされている。


 おそらく、ニアに再生治療を受けた人だろう。

 部位欠損の治療は、かなり体力を消耗するので、ぐったりしてしまうんだよね。


 ニアは、治療を終えて一息ついている。


「ニア、着いたよ。悪いけど、早速治療を頼めるかい?」


 ニアに声をかけると、周辺の人たちが一斉に振り向いた。

 ちょっとびっくりした。


「オッケー、いいわよ。手の空いている人は、馬車から怪我人を運んできて」


「わかりました。お前たち、すぐに行きなさい」


 ニアが指示を出すと、太守のムーンリバー伯爵が、使用人たちを動かした。


 太守を顎で使っているのではないかと心配していたが……それ以前に、太守が手下のようになっている……。

 何か完全に……ここでのヒエラルキーのトップに立っている感じだ……。

 ……深く考えるのはやめることにしよう……。


「リリイ、チャッピー、大丈夫だったかい?」


 駆け寄ってきたリリイとチャッピーの頭を撫でながら、声をかけた。


「大丈夫なのだ! 悪い魔物はやっつけちゃったのだ!」

「ルージュ達を守れてよかったなの〜。ルージュのお母さんとおじいさんも、大丈夫だったなの〜」


「よかったよ。二人とも、ありがとう。リリイとチャッピーが、すぐにここに向かってくれたから、みんな無事だった。よくやったね」


「友達を助けるのは、当たり前なのだ!」

「そうなの〜。でも絵本使っちゃったなの〜。ごめんなさいなの〜」


「ニアから聞いたよ。でもいいよ。人命優先だからね、よくやった」


 俺の言葉を聞いて、二人は満面の笑みを作った。

 褒められたのが嬉しいようで、体をクネクネさせている。

 なにこの子たちの可愛さ……。

 俺は、ニヤけ顔を抑えることができず、二人の頭を撫で回してしまった。

 可愛いすぎる……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る