996.初対面なのに、辛辣。

 応援に来てくれたブルールさん達やハートリエルさんのお陰もあって、ほどなくして全てのワニ魔物を倒した。


 ブルールさんもハートリエルさんも、怪我はしていないようだ。

 ただかなり呼吸は乱れている。


「あ、あなた誰!? なんて無茶な戦い方するの!」


 いきなり初対面のハートリエルさんが、誰何してきた。

 しかもかなり怒っている。


「はじめまして、グリムと申します。すみません……緊急事態だったので、やむを得ず……」


 俺は一応挨拶し、少し返答に困っていると、ブルールさんが助け舟を出してくれた。


「まぁ後でいいでしょう。彼は私の友人よ。それより十数年ぶりに会ったんだから、挨拶ぐらいしようよ」


「あぁそうね。久しぶりねブルール。あいからず元気そうね。パトとラッシュも! そしてこの可愛いアライグマたちは何かしら? 面白い戦い方するわね。犬に乗るなんて」


 ハートリエルさんが声をかけると、パトとラッシュが嬉しそうに尻尾を振っている。

 というか……ちぎれそうな勢いなんですけど。


「そうでしょう。このアライグマの子たちは、今日がデビュー戦よ」


「てか、コボルトって……アライグマも使役するんだっけ?」


「ふふ、この子たちは例外よ。それにしても……冒険者をやっていただけあって、かなり強くなったわね」


「まぁね。それにしても……巨大なこのワニ魔物は……」


「キングのようですね」


 『鑑定』スキルを持っていないようなので、教えてあげた。


「キング!? ワニ魔物にまでキングがいるの!? 迷宮の討伐の記録にはなかったと思うけど……あぁでも、過去にキングが多発した時代があったという話は聞いたことがある……」


「ワニ魔物のキングは、珍しいのですか?」


「ええ、迷宮でも普通に出る事はないわ。それよりあなた……このキングを倒しちゃったのよね?」


「なんとか倒せました。この名剣インパルスのお陰です」


「確かに、インパルスはいい剣だけど……それにしても、キングを倒せるなんて……」


「まぁまぁ、後でゆっくり話すから。一つだけ言うと……『救国の英雄』の噂って聞いたことある?」


「『救国の英雄』……? 確か……『コウリュウド王国』のセイバーン公爵領で犯罪組織を壊滅させたとか……『亜竜 ヒュドラ』を倒したとか……つい最近、噂が広まってきていたけど……尾鰭がついて、伝説の巨大クラゲ魔物まで倒したなんて話まで入ってたわね……。それがどうかした?」


「その噂は知ってるわけね。だったら話が早いわ! その『救国の英雄』よ! こんなワニ魔物のデカい奴くらい彼にとっては、朝飯前よ」


「え!? 『救国の英雄』……? この軟弱そうな男が……?」


 軟弱そうな男って……完全に聞こえてますけど……。

 本人の前で、お構いなしにグサっと言うのね……。

 初対面なのになぁ……まぁいいけどさ。


「まぁ、信じられないのも無理ないけどね。その件はあとで詳しく話すとして、まずはこの事態を収拾しないとじゃない?」


「ええ、そうね!」


 ハートリエルさんは、走って北門に戻っていった。


 俺への追求は、うやむやになってくれたようだ。


 ニアに念話を入れると、まだ中区の太守邸に作られた臨時の救護所にいるとのことだったので、合流することにした。


 『エンペラースライム』のリンちゃんにも、念話を繋いだところ、『スライム軍団』はまだ中区全域に散って人命救助に当たっていた。

 建物の下敷きになっている人が、結構いるようだ。

 ただ、その救助活動ももうほとんど終わる見込みとのことだ。

 馬車を引いていた六頭の白馬たちも、スライムたちに合流して一緒に行動しているらしい。


 それから、密かにリンちゃんにお願いしていた悪魔の使い魔と思われるカラスについては、やはり数匹いたと報告してくれた。

 リンちゃんが、すべて倒してしまったらしい。

 中区全域にいたわけではなく、太守の屋敷の周辺に集中していたらしい。


 リンちゃんが最優先で索敵し倒してしまったので、ニアやリリイたちが戦っている姿は、あまり見られずに済んだかもしれない。

 ただリンちゃんが到着する前の戦いは見られてしまった可能性があるけどね。

 まぁしょうがない。

 いずれにしろリンちゃんのグッジョブだ!


 俺が最初に戦った南区と今いる北区には、目につく範囲では使い魔と思われるカラスはいなかった。


 全体の被害状況は、まだわからないが……どう考えても中区の被害が甚大だ。

 戦力が衛兵しかいない地区に、空から襲撃されたというのが大きい。

 『冒険者ギルド』の放送によって、後から冒険者も駆けつけてくれたようだが、着くまでには時間がかかっただろうからね。

 もっとも、ニアたちの働きがかなり効いていて、大惨事とまではなっていないと思う。

 ニアたちがいなかったら……恐ろしいことになっていただろう。

 ピグシード辺境伯領が、悪魔や魔物の群れに襲われた時の二の舞になったに違いない。

 あんな多くの人が死んでいる状況……もう二度と見たくないから、ほんとに良かった。


 そして、なんとなくだが……太守邸の周辺に被害が集中している感じだ……。

 使い魔のカラスがいたことも考えると……もしかしたら太守が狙われたのか……?

 ……状況が読めないな……。


 この前の話の感じからして、太守は表立っては公王に逆らってはいないようだが、腹に一物ある感じだった。


 そんな状況が影響しているのか……?


 まぁ公王が悪魔の影響下にある可能性が高いので、あり得る話ではある。



 北門前広場に戻ると、かなりの数の衛兵と冒険者が怪我をしていた。


 衛兵は元々レベルが高いわけではないし、冒険者も高レベルな者はほとんどいなかったのだろう。

 この北区にある迷宮は、初心者用の迷宮と言われているからね。


 回復魔法をかけられる冒険者も数人しかいないし、回復薬も不足しているようだ。


 ハートリエルさんは、慌ただしく動いている。

 おそらく状況の把握と、南区の『冒険者ギルド』の本所への連絡の手配をしているのだろう。


「ハートリエルさん、この回復薬を怪我した皆さんに配りますが、構いませんよね?」


 後で文句を言われても困るので、一応声をかけた。


「回復薬……? そ、そんなに!?」


 お手製の専用ケースにまとめてある数十本を見て、驚いたようだ。


「ええ、たまたま在庫補充したばっかりで、大量に持っていますので、これを寄贈します」


 適当な作り話で誤魔化す……。


「え、……ただでいいの?」


「はい、困った時はお互い様ですから」


「わかりました。そのご厚意を受け取ります。ありがとうございます。お礼は後ほど」


「第一班、怪我人にこの魔法薬を配って」


 自分で配ろうと思ったが、配ってくれるようだ。


「ハートリエルさん、私の仲間が中区の太守邸の臨時の救護所で治療に当たっています。腕を失ったり足を失った部位欠損の人たちをそこに連れていけば、仲間が治療できます。私がこれから向かいますので、馬車を貸していただけるなら乗せて運んでいきますが……」


「ええ、部位欠損も治せるの?」


「そうよ、ハートリエル。『救国の英雄』の噂には、他にも登場人物がいたでしょう? ……妖精女神と言う……。その子が治してくれるのよ」


 ブルールさんが、フォローに入ってくれた。


「え、……妖精女神って確か……羽妖精……ピクシーじゃなかった? ピクシーにそんなことができるわけ?」


「まぁ後で話すけど……ただのピクシーじゃないし……。とにかく信じて」


「……わかった。じゃぁお願いするわ」


 ブルールさんのおかげで、スムーズに事が運んだ。


 俺は、怪我をしている人たちに声をかけ、手足などを失った人を集めた。


 ハートリエルさんの口利きで、衛兵隊の大型馬車が借りれたので、怪我人を乗せて中区へと向かった。




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