984.サンドイッチで、大盛り上がり!

 ギルド職員のリホリンさんが頼んでくれた人気メニューが、運ばれてきた。


 最初に出てきたのは、お約束の肉串だ。

 やはり一番人気は、肉串らしい。

 肉串の盛り合わせで、一皿に四本入っている。


 肉と野菜を煮込んだスープと固めのパンも、同時に運ばれてきた。


 酒のつまみとも言えるが、しっかりとした食事とも言えるメニューだ。

 肉串の盛り合わせが五百ゴルで、スープとパンのセットも五百ゴルで、合わせて千ゴルとのことだ。


 お金があまりない冒険者は、スープとパンのセットだけで食事を済ませることが多いらしい。

 パンもコッペパンサイズで結構大きいし、スープもたっぷりなので、ワンコインで結構お腹いっぱいに食べれるのではないだろうか。

 もっともこの世界には、五百円玉のような硬貨は無いから、ワンコインでは無いけどね。

 銅貨五枚ということだ。


 数が出るワインやエールは、木で作られたジョッキで出されて、一杯三百ゴルなので結構安いと思う。

 特にワインは、元の世界の感覚からすれば、すごく安い。

 ほとんど……ぶどうジュースの値段だ。

 ワインは、産地も多く流通量量が豊富ので、安い酒場で出すような品質のワインは、流通価格もかなり安いのだ。


 それに対してエールは、安いワインほど流通相場がこなれていないので、お客さんに三百ゴルで提供する為の納入価格となると、結構カツカツだと思うんだよね。

 数が出て、儲けを出すべき商品なのに、もったいないと思う。


 俺としては、エールを“冷えたエール”にして、四百ゴルに値上げしてもらいたいのだ。

 百ゴル値上がりしたくらいなら、みんな頼んでくれるんじゃないだろうか。

 納入する『ヨカイ商会』も、提供するギルド酒場も、この値段なら結構な利益を出せると思うんだよね。



 肉串は、肉の種類が選べるようだが、盛り合わせで頼むと四種類の肉がセットで出てくる。

 猪系の肉、牛系の肉、鶏系の肉、ワニ系の肉だ。

 大体は、それぞれの系統の魔物の肉が使われているとのことだ。

 ギルドで買い取った魔物肉を、そのままここで使うらしい。


 『アルテミナ公国』ではワニ肉が豊富に取れて、よく食べられていると聞いていたが、本当のようで、普通にセットに組み込まれるほどメジャーな肉のようだ。

 迷宮の中にいるワニ系の魔物でなくても、迷宮都市を出た北側の街道の近くにある湿地帯に、多くのワニが生息しているとのことだ。


 ニア、リリイ、チャッピーは、ワニ肉は初めてだったが、美味しいと言っていた。

 ブルールさんは、食べたことがあるそうだ。


 俺的には、肉といろんな野菜が入ったスープが美味しかった。

 いろんな肉が混じっていたので、半端な細切れ肉を適当に入れているようだ。

 野菜も色々入っているので、いい出汁が出ているのだろう。


 パンは、やはり固いフランスパンといった感じだ。


 パンだけ食べるのが、ちょっと辛かったので、パン用のナイフを取り出して、横に半分に切って食べやすいサイズにした。

 そして縦に切れ目を入れて、サンドイッチが作れるようにした。

 具材は……肉串の肉と『波動収納』にしまってあるリーフレタスにしようと思っている。

 それに『マヨネーズ』を塗れば完成だ。

 『マヨネーズ』も『波動収納』に常備してあるものを、取り出した。


 ……それを食べたら……めっちゃ美味い!

 サンドイッチにして正解だった!

 パンの硬さが、あまり苦にならないのだ。


 ……だが、これは悪手だったようだ……。

 これを見ていた全員が、もの欲しそうな顔で俺を見つめている……。

 特にリリイとチャッピーは、よだれが垂れてしまっている……。

 こうなってはしょうがないので、全員分のサンドイッチを作ってあげることにした。


「うおぅ、なんじゃこれは!? すごい美味いではないか! このタレは何なのじゃ!?」


 ギルド長が驚きの声を上げた。


「それは『マヨネーズ』と言いまして、私が作った調味料です。今後『ヨカイ商会』から、納品することもできます」


「本当ですか!? じゃあ……いつもこのメニューが食べられるのですか?」


 リホリンさんも喜びの声を上げた。


「そうですね。ギルドの方で構わなければ、メニューに加えていただいて結構ですよ。『サンドイッチ』という名前ですので、新メニューとして出しても良いでしょうし、『マヨネーズ』を単品で提供して、お客さんに好きなように挟んでもらってもいいでしょう」


「こりゃすごいのう! まだ納入も始まっていないというのに、もう新メニューを提供してくれたのか……こりゃまいったわい」


 ギルド長がご満悦だ。


「リホリンちゃん、それはなんだ? どうやったら注文できるんだ?」

「俺にも教えてくれ!」

「ああ、なんて料理だ?」


 なんと……気がついたら周りのお客さんが、俺たちのテーブルに集まって来ていた。

 注目を集めてしまっている……。


 ギルドの給仕係の女性たちも、少し困り顔をしている。

 お店に悪いことをしちゃったかなぁ……。


「あの……ギルド長、もし構わなければですが、ここにいる皆さんに、お近づきの印に『マヨネーズ』とレタスを提供したいと思うのですが……?」


「ほんとか!? そんなに数があるのか? ただで出してくれるのか?」


「ええ、もちろんです。酒場のスタッフの皆さんに迷惑でなければですが……」


「それは良い。ワシが許可しよう」


 そう言うとギルド長は立ち上がって、執事のような格好をしている老紳士を呼んで耳打ちした。

 おそらく、彼がこの酒場を取り仕切っている支配人なのだろう。


「みんな、ワシが今食っとったのは、『サンドイッチ』という食べ物だそうじゃ。パンを切って、間に肉や野菜を挟んで『マヨネーズ』という調味料をつけて食べるのじゃが、これが絶品じゃ! まだ酒場のメニューに入っていないが、今日は特別に『マヨネーズ』を開発したシンオベロン卿が、無料で提供すると言ってくれている。冒険者になったばかりだが、『コウリュウド王国』では、名誉騎士爵位を持つ貴族でもある。将来有望な若者じゃ、ぜひ仲良くしてやってもらいたい。あぁグリム君も一言挨拶するのじゃ」


 ギルド長がお客たちに説明をした後、俺にむちゃぶりをしてきた。


「はじめまして、私は『コウリュウド王国』から来ましたグリム=シンオベロンと申します。迷宮で武者修行するために来ました。どうぞよろしくお願いします。お近づきの印に、『サンドイッチ』の作り方をお教えしたいと思います」


 俺がそんな挨拶をすると……


「「「おおぉぉぉぉ!」」」


 酒場全体から、地鳴りのような歓声が沸き上がった。


 そして、手元にパンと肉串がないお客さんが、あちこちで注文の声を上げた。

 給仕係や調理スタッフも大忙しになってしまった。

 これはこれで、申し訳ないことをした感じた。


 俺は、レタスも『マヨネーズ』もたっぷりあるので、焦らなくて大丈夫とアナウンスをし、食べ方を説明した。


 手元にパンと肉串がある人から作り始め……あちこちから、絶賛の声が上がった。

 中には雄叫びをあげている人もいた。

 酒場が……異様な盛り上がりになってきた……。




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