983.テンプレ男、再び……。

「なんだ? でか! これキングじゃないのか!?」


 後から大声を出しながら近寄ってきたのは、なんと…あのおかっぱ男だった!

 俺的には……テンプレ男だ。


 このタイミングで来てくれるという事は……やり逃したテンプレを、やらせてくれるってことなんだろうか……?

 ある意味……これも神の采配か……?

 んなわけないか。


「おかっぱ! 来たわね! 待ってたのよ、あんたを!」


 ニアも同じことを考えていたらしく、嬉しそうな声を上げた。

 すごい悪い笑みを浮かべている。


「お前たちは……さっきの奴らか!? お前、連行されたはずじゃ……?」


 おかっぱ男は、俺に詰め寄るように近づいてきたが、ニアが割って入った。


「何言ってんのよ! 無罪放免よ。それよりあんた、さっきはよくも無礼なこと言ってくれたわね! さっきの続きよ、……ふふ、勝負でもする?」


 ニアはあくまで、コテンパンにしたいようだ。


「ふん、妖精族だからって偉そうにしやがって……って……ギルド長!?」


 ニアに文句を言いながら、ギルド長が一緒にいることに気がついたようで、おかっぱ男は急に焦り顔になった。


「元気が良いではないか、カッパード。相変わらず新規の冒険者に絡んでるようだなぁ……。このことをハートリエルちゃんが知ったら、どうなるかなぁ……?」


 ギルド長は、ニヤけつつもギロリと睨んだ。


「ひっ、俺は絡んじゃいねーよ! こいつらが難癖つけてきただけさ。俺は……親切に迷宮の危険さを教えてやっただけだよ。妖精族だからって、こんなちっちゃいんじゃ、すぐに死んじまうだろうよ。俺は心配しただけだよ」


「まったく……お前は、救いようがない馬鹿者じゃのう」


 ギルド長が、呆れ顔をして腕を組んだ。


「ギルド長……俺を馬鹿と言ったのか!? 馬鹿と言う奴が馬鹿なんだぞ!」


 ビビっていたはずのおかっぱ男が、ギルド長に向かって逆ギレした。

 てか……それさっき、自分がリリイに言われてた言葉じゃないか!

 パクリか! てか子供か!


 俺は、つい吹き出してしまった。


 ニアは、ゲンナリした顔をしている。

 こいつのあまりのお馬鹿さんっぷりに、コテンパンにする気も失せてしまった感じだ。


 ある意味……テンプレを破壊された感じだ。

 こいつは、テンプレをひっさげて来たくせに、自分でテンプレを破壊するというテンプレブレイカーだった。

 全く以て、はた迷惑な男だ。


 それにしても……名前もウケる。

 おかっぱ頭のカッパードって……笑っちゃうんですけど。

 そんな感じでニヤけていたら、馬鹿にされていると感じたらしく、俺とニアに更に近づいて来た。


「おいおいおい、兄ちゃん、それに羽妖精、俺を馬鹿にしでふっ——」


 ——ドスンッ


 奴は、またもや言葉の途中で吹っ飛ばされた。

 今度は買取センターの壁に激突した。

 鼻血を出しているし……意識朦朧としている感じだ。


「妖精女神様になんて口を利くんだ、このバカタレが! 今度そんな口を利いたら、お前を解体してやるぞ!」


 怒鳴りつけたのは、買取センターの責任者ドンベンさんだ。

 彼の怒りの鉄拳によって、おかっぱ男は壁に殴り飛ばされたのだ。

 完全にニアの虜になったドンベンさんにとって、ニアへの侮辱は許せなかったようだ。


 今後、このお馬鹿なおかっぱ男が、ドンベンさんに解体されないことを祈るのみだ。


 またもやテンプレは実現できなかったが……なんとなく面白かったので、まぁよしとしよう。

 ニアもそんな感じで笑っている。



 この後ギルド長は、裏にある広い演習スペースと、その奥にあるギルド長の屋敷と副ギルド長の屋敷、そしてゲストハウスと職員の寮を兼ねた屋敷を外観だけ見せてくれた。


 ギルドの演習場で試験を受けて、みんなを驚かせるというテンプレもあると思うが、残念ながらこのギルドでは冒険者になる際に、試験は行っていないとの事だ。

 それ故、そんなテンプレは発生しなかった……トホホ。


「こちらにいらしたんですね? 『冒険者証』ができました!」


 ちょうどギルド会館へ戻ろうと思っていたところで、ギルド職員のリホリンさんが、『冒険者証』を持ってきてくれた。


 実際手にすると少し感動する。

 ニアは、元々冒険者になるために里を飛び出してきたわけだから、やはり嬉しそうだ。

 リリイとチャッピーも、嬉しそうにしている。


 『冒険者証』は、銀のプレートに文字が刻んであって、首から下げれるようになっている。

 もちろんニアは、サイズ的に首から下げることはできないけどね。


 リホリンさんの説明によれば、一流の証であるCランク『上級ハイランク』になると、プレートに赤い縁取りがつくらしい。

 Bランク『極上級プライムランク』になると、金の縁取りになるそうだ。

 Aランク『究極級アルティメットランク』だと、プレート自体が金に変わるとのことだ。



「せっかくだから、酒場で飲んで行きなさい。お腹も減ったじゃろう?」


 ギルド長がそう言ってくれたので、早速酒場に行くことにした。

 メーダマンさんは、一流レストランである『フェファニーレストラン』に連れて行こうと思ってくれていたようだが、今日は酒場で食事をすることにした。


 実は、この賑やかな酒場で飲んでみたかったんだよね。

 今後、『ヨカイ商会』で商品を納入することもあるし、まずは現場の調査をしないとね。

 料理を一通り食べてみたい!



 酒場で給仕してくれるウェイトレスさんは、お揃いのユニフォームを着ている。

 緑のワンピースに、白いエプロンのようなものをつけている。


「今日は仕事はもういいから、リホリンちゃんも一緒に食べていこう」


 大きめのテーブルに俺たちを案内したギルド長が、そんな声をかけた。

 ギルド長も、一緒に食べるようだ。


「いいんですか? じゃあ遠慮なく」


 そう言うとリホリンさんは、手を挙げて給仕の女性を呼んだ。


 メニュー表は無いらしく、店の壁に何カ所が張り出されているだけだ。

 メニューの数も少ない。

 リホリンさんに何を食べたいか尋ねられたが、人気メニューを一通り頼んでほしいとお願いした。


 ニア、リリイ、チャッピーは、ぶどうの果汁ジュースがあるというので、飲み物はそれにした。

 俺とアイスティルさんと『コボルト』のブルールさんは、ワインを頼んだ。


 ギルド長は、さっき俺が飲ませてあげたキンキンに冷えたエールが飲みたいと言うので、それを出してあげた。


 注文しないで持ち込んでいいのかと尋ねたら、問題ないとの事だった。

 お客さんが飲食物を持ち込む事は、ほとんど無いようだが、たまに持ち込んだものを分け合って食べている人もいるらしい。

 だが細かく規制はしていないそうだ。


「うわー! 美味しい! なんでこんなに美味しいの?」


 リホリンさんは、冷えたエールを飲んで驚きの声を上げた。

 そして狐の亜人らしく、尻尾が激しく振られている。


「そうじゃろう、そうじゃろう。ただのエールが、冷やしただけで、こんなに美味くなるのじゃ。これからは、この酒場で飲めるようになるからのう」


 ギルド長がそう言って、今後の取引の話をリホリンさんに説明してあげていた。


 話を聞いている間中、リホリンさんの尻尾は振られ続けていた……。

 その姿が、なんかめっちゃ可愛かった。

 リホリンさんではなく、リホリンちゃんと呼びたくなる感じだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る