982.キングボアの、査定。

「それでは、冒険者証を作って参りますので、しばらくお待ちください」


 冒険者ランクの説明を終えたリホリンさんが、部屋を出ようとしたところ、「待って」とアイスティルさんが呼び止めた。


「迷宮都市に来る道中で倒したキングボアの買取をお願いしたいから、待ってる間に、買取センターに行きたいんだけどいいかな?」


「かまいませんよ。それじゃあ……出来上がったら、そちらにお持ちします。もし買取センターの用件が早く済んだら、二階の受付カウンターにお願いします」


 リホリンさんは、にこやかにそう言って退出した。


「どれどれ、ではワシも一緒に買取受付所に行こうかのう」


 ギルド長がソファーから立ち上がった。


「ギルド長、直々に案内してくれるんですか?」


 アイスティルさんが、少し意外そうだ。


「もちろんじゃ。アイスティルちゃん達みたいな美人さんは、いつでも案内するのじゃ。それにしても……君たちのパーティーは、美人ぞろいじゃったのう……。引退してしまって、どれほどの男どもが元気をなくしたことか……」


 ギルド長が白髭に手を当てながら、目を細めた。


「ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。じゃぁ早く行きましょ」


「おお、そうじゃな」



 ギルド長に連れられて、一度ギルド会館を出て、隣にある買取センターに入った。

 ここは解体所なのだが、買取センターにもなっているようだ。


 買取センターで買取金額を決定し、ギルドの受付でその代金を受領する仕組みになっているとのことだ。

 その時に、職員が実績として、記録をとっているのだそうだ。


 買取金額は、『魔芯核』の値段と牙や角などの魔物素材と食肉としての価値等で決定するらしい。


「おや、ギルド長、直々にお出ましとは珍しいですね」


「やあ、ドンベン、今から出す魔物の金額を見てやってくれ。久々の大物だぞ、キングボアだ!」


「なに! キングボア!? 迷宮の深いところに潜ったのか? ん……見ない顔だが……。お、アイスティルじゃないか!? なんだ? また冒険者を始めたのか?」


 ギルド長が声をかけたドンベンさんは、訝しげに俺の顔を見た後、アイスティルさんを見つけて興味を移した。

 どうやらこの人が、買取センターの責任者のようだ。

 スキンヘッドで上半身裸だ。

 何かを塗っているわけでは無いだろうが、頭も上半身もかなりテカっている。

 ここは買取だけじゃなくて、魔物の解体もしているようだから、忙しく体を動かしているのだろう。

 それでテカっているのかもしれない。


「ドンベンさん、久しぶりですね。これ、迷宮で狩ったんじゃないんですよ。南門を出た街道に、突然現れたんですよ」


「なんだって!? 街道にキングボアが出た!? そんなこと……冗談だろう? ……もし本当だったら、大事じゃないか!」


 ドンベンさんは声を張り上げた後、恐る恐るギルド長の顔を見た。


「そうなのじゃ、大事なのじゃよ。太守の耳には入っているから、衛兵の巡回を増やすとは言っていたがのう……。冒険者にも注意喚起せねばと思うとるところじゃ」


「え、ほんとに出たのか!? こりゃまいったね……。まぁいいや、まずはどれぐらいの大物か確認しないと。キングボアを狩ったのに騒ぎになっていないところを見ると、魔法カバンに入れてきたんだろう? そこに出してみな」


 俺は挨拶するタイミングを逃し、言われるままにキングボアの死体を出すことになった。


 ——ドスンッ


「おお、でかい! こりゃ確かにキングだな。街道に出たなんて……一体何人で倒したんだ?」


「えへん、聞いて驚かないでよ。六人で倒したのよ!」


 アイスティルさんが、ドヤ顔だ。


「六人って……そんなことあるか!」


「本当よ! ここにいる六人で倒したの!」


「ここにいる六人って……二人は子供だし……おや! 羽妖精……羽妖精様がいる! そっか? 羽妖精様が強力な魔法を使ったんだな」


 信じていなかったドンベンさんだが、勝手に自己完結して納得している。

 てか……今までにニアに気付いていなかったのか……?

 そして俺のことは、軽くスルーしている……まぁいいけどさ。


「まったく……ドンベンさん! 人を外見で判断しちゃダメでしょう! 妖精女神のニア様はもちろんだけど、グリムさんだってめちゃめちゃ強いのよ! それにこの子たちだって、すごいんだから!」


 アイスティルさんが抗議してくれた。


「何を言ってやが……、ん? 妖精女神!? 妖精女神っていやぁ……『コウリュウド王国』で悪魔や魔物を倒して、人々を救ってるっていう妖精女神様か!? 冒険者の間じゃ有名じゃないか! ……確か凄腕の相棒がいるって言う……まさかこの兄ちゃんが、その相棒!?」


 ドンベンさんが不思議そうに、俺の顔をまじまじと見ている。


「どうも、グリムと申します。これからお世話になると思いますので、よろしくお願いします」


 微妙な空気が流れていたが、ここは挨拶をするタイミングにさせてもらった。


「私はニアよ。これからいっぱい魔物を狩ってくるから、忙しくなるわよ。覚悟しなさい!」

「リリイは、リリイなのだ」

「チャッピーなの〜」

「私はブルールといいます」


 俺に続いて、みんなも挨拶をした。


「し、失礼しました。まさか妖精女神様に会えるとは……光栄です! いくらでも持ち込んでください! 私の出来る限り、良い値段をつけます!」


 ドンベンさんは、ニアにしか興味がないようだ。

 妖精族への崇拝があるなら、そうなるかもしれないけどね。

 それにしても、ドンベンさんが頬を赤らめている。

 ニアにデレデレしている感じだ。


「じゃあ早速、値段を出してちょうだい」


「ニア様、このキングボアは、血抜きも完璧ですね。やはりニア様のお力で倒したのですか?」


 目がハートマークになってるっぽい。

 なんか……ニアの虜になっている感じだ。


「みんなで倒したって言ってるでしょ! そんなことより、『魔芯核』の大きさが見たいから早く取ってちょうだい」


 熱い視線を感じとったのか、ニアが少し邪険に扱っている。

 そして顎で使っている。


 だが、ドンベンさんは大喜びのようだ。

 張り切るようなフットワークの軽さで、解体用の剣を持って作業に取り掛かった。


 熟練の技で、あっという間に『魔芯核』を取り出してくれた。

 思っていたよりも、かなり大きい。

 体の大きさとの関係で考えても、かなり大きいと思う。

 バスケットボールくらいの大きさはあるのではないだろうか。

 鮮やかな赤だ。


「これは上物だ! これだけですごい金額になりますよ。それにキングボアは、牙にいい値段がつきます。あと素材としては……皮と骨も使えます。肉はもちろん食肉で使えるから、この大きさなんで……肉だけでもかなりの金額になりますね。全部入れてざっと計算すると……二百万ゴルは超えるでしょう」


 ドンベンさんは、概算の買取価格を出してくれた。

 かなりいい値段だと思うが……大きさを考えれば、そのぐらいの値段はするかもしれない。

 『魔芯核』だけでも、かなりの金額になりそうだし。

 後で詳しい内訳も、確認してみよう。

 この売却代金は、六人で均等に分けようと思っている。




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