971.黄色紅茶は、微妙な味。

「どうぞ、狭いですが、ゆっくりしてください。すぐにお茶を出しますから。『アルテミナ公国』名産の『黄色紅茶』を出しますから、味わってみて下さい」


 『ヨカイ商会』のメーダマンさんに案内され、彼の自宅の応接間に通された。


 迷宮都市『ゲッコウ市』の南区の『西ブロック』の『中級エリア』にある。

 それなりの広さのお屋敷だ。

 俺が最初に手に入れた『マグネの街』にある屋敷の半分くらいの敷地で、建物は三分の一くらいだが、普通の民家よりはかなり大きい。


 『ヨカイ商会』は、小規模と中規模の間くらいの商会だと言っていた。

 食料品とお酒を小売りするお店を持っていて、一般の人に販売するとともに、宿や飲食店へも卸売しているそうだ。


「ウゲ、ちょっと苦いわね……」

「ニガニガなのだ……」

「変な感じなの〜」


「砂糖を入れずに飲んでみて」と出されたお茶を口に含んだニア、リリイ、チャッピーが微妙な感想を口にした。

 アイスティルさんとブルールさんは、普通に飲んでいる。

 ちなみにニアは、彼女専用のミニサイズのティーカップを持ち歩いているので、それに入れてもらっている。


「あはは、正直ですね。初めて飲んだ人は、大概そう言いますよ。私はその苦味が好きなのですが、嫌だったらお砂糖を入れると良いですよ」


 メーダマンさんが愉快に笑いながら、砂糖を出してくれた。


 この『黄色紅茶』は、薄い黄色で日本茶が時間が経って緑から黄色に変わった時のような色合いだ。


 ……俺も口に含んでみる。


 この味は……日本茶っぽいが……でも日本茶とは違う感じだ。

 紅茶に日本茶風の渋みを入れた感じなのだが、日本茶の味ではない。

 複雑で微妙な味だ。


 俺はこのままでも飲めるが……やはり砂糖を入れたほうが良さそうだ。


 前にも少し思ったが、紅茶が一般的に飲まれていて、産地にはお茶の木がたくさんある。

 紅茶も緑茶もウーロン茶も、茶の木から作れる。

 製茶の仕方が違うだけなのだ。

 今後、茶園や茶の木を手に入れたら、いろんな種類のお茶を作ってみたい。

 緑茶の味が恋しいのだ……。


「メーダマンさんと『美火美びびび』の皆さんは、今後どうするか、決めましたか?」


 この人たちは、『アルテミナ公国』に残るか、新天地を求めるかということで、悩んでいたんだよね。


「ええ、この子たちはまだ若いですから……冒険者を続けたいみたいです。政情不安でお客さんが減った分は、冒険者稼業で稼ぐって言ってくれましてね……。ですから、しばらくは『アルテミナ公国』に残ることにします」


「そうですか。商売のほうは、何とかやれそうですか?」


「大変ではあるんですが……なんとか。戻って来て驚いたのですが……状況変化があって、売り上げが少し戻っていたんです」


「よかったですね。状況変化というのは?」


「実は……目敏い商会は、この国を離れていまして、久しぶりに戻ってきたら商会の数が結構減っていたのです。人口も減っているのですが、お店の数が減ったこともあって、思ったよりも売り上げが下がっていなかったのです。お店を運営している子たちが頑張ってくれていたというのもあるんですけどね」


「なるほど……お客さんも減ったけど、競争も減ったということなんですね。もし資金的に大変でしたら、いつでも出資しますので、遠慮せずに言ってください」


「ありがとうございます。そのことなんですが……『フェアリー商会』さんは、『アルテミナ公国』にはお店を出さないんですか?」


「今のところは、考えていません。政情不安ということもありますし、今回私が訪れたのは、武者修行で迷宮に挑む為となっていますから、それ以外の事は控えようと思っているんです」


「そうなんですか……。であれば……私の『ヨカイ商会』を、正式に『フェアリー商会』さんの傘下に入れていただけませんか? そのほうが出資もお願いしやすいですし、『フェアリー商会』さんの商品を仕入れさせてもらって、販売できたらと思っているんです」


 メーダマンさんは、少し言いづらそうに頭を掻いた。


「構いませんが……我々の傘下に入らなくても、独立した形でお金だけ融資するということもできますよ」


「一度はたたもうかと思った商会です。私は商会が維持できれば充分です。傘下に入れていただいた方が安心できますし、お役に立てるかと思います」


「分りました。じゃぁ……出資して『フェアリー商会』のグループになっていただきます。一緒に頑張りましょう! 今後のことや取引の細かいことは、『フェアリー商会』をまとめているサーヤと打ち合わせをしてもらうことになります」


「はい、かしこまりました。ありがとうございます」


 俺は、メーダマンさんと固い握手を交わした。


「それで……早速なんですが……一つ大きな商談が入ってまして……」


「すごいですね! 戻って来てすぐ商談が入ったのですか?」


「はい……」


「私に相談するということは、普通の商談とは違うんですね?」


「はい、実は……『冒険者ギルド』からの商談でして……『冒険者ギルド』があるギルド会館の一階は、酒場になっているんです。その酒場は『冒険者ギルド』の経営なんですが、そこへの酒や食材の納入の依頼なのです」


「それは良い話なのではないですか?」


「……ギルドの酒場は、人の出入りが多いですから、そこに商品を収められること自体は良い事なんですが……一手に扱うとなると、様々な商品を切らさずに納入しなければなりません。今の政情不安の状態では、どの商品がいつ仕入れできなくなるか予測もつかないんです。それに安値での納入になるので、利益が薄いんですよ。数で稼ぐ商売って感じになります……」


「なるほど……諸手を挙げて喜ぶと言うわけにはいかないですね。確かに納品が滞れば信用問題になります。先行きが見通せないから、不安ですよね。まぁその点については、『コウリュウド王国』で調達できる物だったら、『フェアリー商会』で調達しますので、大丈夫でしょう。ただ薄利で数を売るというのは、あまり好きではないんですよね……。やはり無茶な値段を要求されちゃうんですか?」


「無茶というか……価格の低い商品を要求されると思います。ただ……ギルドが買い叩いて儲けを出したいということではなくて、酒場で提供する価格そのものが安いんですよ。来るお客のほとんどは、冒険者ですから。あまり高いメニューは出せないんですよ。それに、質よりも量が食べたいという人が多いですから……」


「なるほど……ギルドとしても、冒険者たちが手を出しやすい安価なメニュー、お酒がいいということなんですね」


「はい、中には稼いでいる冒険者もいますので、高い料理や酒を頼む人もいるんですが……数が出るのは、安い料理とお酒なんですよ。ギルドの酒場は、冒険者への支援の意味もあって、安く提供してるんです」


 なるほど……生協の食堂というか……学食や社員食堂みたいなものなんだな。


 そういう趣旨で営業しているなら、安い価格で納入できる物を探すしかないよねぇ……。



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