970.迷宮都市に、到着。

 『アルテミナ公国』の迷宮都市『ゲッコウ市』に着いた。


 外壁門のところで、身分証の提示は必要だが、ここでも形だけのチェックのようだ。


「『コウリュウド王国』の貴族様なんですね。どうぞお通り下さい」


「ありがとうございます。あの……途中で盗賊に襲われて、捕まえたのですが、引き渡してもよろしいでしょうか?」


「え、盗賊を捕まえたのですか? 護衛がいないように見えますが……ああ、賊と戦って亡くなったんですね。残念でしたね……」


「いえ、元々護衛はいません。我々だけで、何とか倒しました。後ろの幌馬車に乗せているのが盗賊たちです」


 門番の衛兵を幌馬車に案内すると、口をあんぐりと開けて固まってしまった。

 盗賊が身ぐるみ剥がされて、縄でぐるぐる巻きにされた状態でぎゅうぎゅう詰めになっているから、驚いたのだろう。


「こんなに捕まえたんですか?」


「二十四人います」


「げ、……わずか三人で、二十四人も捕まえたんですか!?」


 衛兵は、更に口をあんぐりと開けてしまった。


 俺とアイスティルさんと『コボルト』のブルールさんの三人で捕まえたと思ったらしい。

 リリイとチャッピーは八歳児だから、戦闘に参加したとは夢にも思ってないだろう。

 ニアさんは、羽妖精ということで、良くも悪くも騒がれる危険があるので、関所を通過する時は馬車の中に隠れているのだ。


「ん……盗賊たちは、無傷じゃないですか? 一体どうやって……? あ、貴族様、申し訳ないんですが、生け捕りにしても、今は褒賞金は出ないんです……」


 衛兵は、褒賞金目当てで生け捕りにしたのだと思ったらしく、申し訳なさそうに言った。


「別に構いません。引き取ってさえくれれば、問題ありませんよ」


「え、そ、そうですか……。わかりました。ではこちらで、お引き受けいたします」


 衛兵は、俺の反応に一瞬キョトンとしていたが、気を取り直して引き受けてくれた。


 仲間の衛兵を呼んで、盗賊たちを連行してくれている。


 『アルテミナ公国』では、盗賊を捕まえても褒賞金は出ないようだ。

 褒賞金目当てで捕まえたわけじゃないので、別に構わないのだが、盗賊を捕まえたら儲かるという俺のロジックは、どこの国でも通用するわけではなかったのだ。


 アイスティルさんが言っていたが、以前は盗賊を捕まえると褒賞金が出ていたらしい。

 だが、今はその制度はなくなったのだそうだ。

 それでいて、衛兵隊や正規軍が盗賊退治をするわけでもないので、どんどん盗賊が増えている状況とのことだ。


 『商業ギルド』などが、特定の場所の盗賊退治の依頼を『冒険者ギルド』に出す事はあるみたいだが、それもあくまで一時的なものらしい。


 迷宮が二つもある国なので、小国とは言っても国費は潤沢にあるはずで、お金が原因で褒賞制度がなくなったわけではないはずだと、アイスティルさんが首を傾げていた。


 確かに不可解だ。

 あえて盗賊を野放しにしているようにも見える。

 ただの怠慢なのかもしれないけどね。


 門を抜けると、やはりメインストリートに繋がっている。

 広幅の道が、どこまでもまっすぐに伸びている。


 アイスティルさんの話では、この『ゲッコウ市』は、『アルテミナ公国』で公都『アルテミナ』に次ぐ、第二の都市で人口も五万人以上いるとのことだ。

 その分面積もかなり広いのだが、変わった形状の都市になっている。


 俺たちが入った南門から反対側の北門に向けて、縦長形状の都市になっているのだ。

 その縦長は長方形ではなく、北側と南側が大きく円形に膨らんでいる。

 まるで“片手で握る鉄アレイ”のような形状の都市になっているのだ。


 これには理由があって、南北の円形の場所には、それぞれ迷宮があって、人が多く集まるために円形に広がったらしい。

 南側の円形の場所には『ゲッコウ迷宮』があり、北側の円形の場所には『セイチョウ迷宮』があるのだそうだ。


 『ゲッコウ迷宮』は大型の迷宮で、『セイチョウ迷宮』は小さい迷宮らしい。

 『セイチョウ迷宮』は、現れる魔物がレベル30程度までらしく、初心者用の迷宮とも言われているそうだ。


 前に、吸血鬼の始祖であり元『癒しの勇者』のヒナさんから聞いたが、『マシマグナ第四帝国』の本格稼働迷宮の一つが『アルテミナ公国』にあるということだった。

 現役の勇者だった頃に開示されていた情報で、今の『アルテミナ公国』の場所と『アポロニア公国』の場所に、本格稼働迷宮の第二世代型の二号迷宮と三号迷宮があるというのだ。


 第二世代型の迷宮というのは、綺麗な階層構造の迷宮ではなく、自然の迷宮により近いアリの巣形状になっている迷宮らしい。


『ゲッコウ迷宮』と『セイチョウ迷宮』のどちらかが、第二世代型の第二号迷宮ということになる。


 規模から考えると、『セイチョウ迷宮』が怪しいけどね。

 いずれにしろ、両方の迷宮を訪れる予定なので、いずれわかるだろう。



 南門から入ったところは、メインストリートに繋がっていると言ったが、正確には門の前が巨大な楕円形の広場になっている。

 メインストリートには、この広場が繋がっているのだ。


 広場は人が集まれるようになっていて、屋台が出て賑やかだ。


 屋台のところを中心に多くの人が集まっているが、俺たちの馬車がデカすぎて、既に注目を集めている。


 物珍しそうに、馬車の近くに人が集まって来るので、ゆっくりと馬車を進める。


 馬車の近くに寄って来た人たちの中に、見知った顔の人たちがいて、大きく手を振っている。


「グリムさん、お待ちしてました」


 出迎えてくれたのは、『ヨカイ商会』のメーダマンさんと、冒険者パーティー『美火美びびび』のメンバーだ。


 リーダーで『ヒーラー』ポジションの鼠亜人のラットマンさん、『タンク』ポジションのヌリカベンさん、『斥候』ポジションのイッタァンさん、『アタッカー』ポジションの猫亜人のニャンムスンさん、同じく『アタッカー』ポジションのコーナキンさん、『ロングアタッカー』ポジションのキティロウさん、『魔法使い』ポジションのズナカケナさんだ。


 『ヨカイ商会』の会頭のメーダマンさんは、キティロウさんの父親で、冒険者パーティー『美火美びびび』のスポンサーでもある。


 他にも、騙されて奴隷にされ『マットウ商会』に売られていたところを助けた人たちが十五人いたが、一緒に出迎えてくれている。

 彼らも『アルテミナ公国』で冒険者や行商団の護衛をしていた人たちなので、一度『アルテミナ公国』に戻りたいと言っていたのだ。


 メーダマンさんたちは、俺たちに先行して迷宮都市に戻って、俺たちのために物件探しなどをしてくれていたのだ。


 伝書鳩を飛ばして、今日迷宮都市を訪れると知らせていたので、迎えに出てくれていたようだ。


 伝書鳩は、もちろん俺の『絆』メンバーだ。


「わざわざ出迎えていただいて、ありがとうございます」


「いえいえ。当然ですよ。さぞお疲れでしょう。まずは我が家においでください。小さな家ですが、普通の宿よりはマシだと思います」


 メーダマンさんの家は、広い『ゲッコウ市』の中でも南区と言われている今俺たちがいる円形のエリアにあるそうだ。

 すぐに着く距離らしい。


 『ゲッコウ市』は、南側にある円形のエリアを南区、北側にある円形のエリアを北区、その二つを結ぶ縦長のエリアを中区として区分けされているのだそうだ。


 この広場の屋台を散策したい気持ちを抑え、まずはメーダマン邸にお邪魔することにしよう。




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