966.鍬と鋤で、二刀流。
「ところでグリムさん、今日はどんなご用件でいらしたんすか? シャイン様もシャイニング様もシャイニー様も、みんな出かけてるっすよ」
あ、そうだった。
すっかり本来の目的を忘れていた。
「いや……実は今日は、サンディーさんに会いに来たんだよ」
「え、……あ、あたしっすか? ……そ、そんな急に……い、いつかそんな日が来ればいいとは思ってたっすけど……まだシャイン様に恩を返せてないっすから……」
よくわからないが……サンディーさんが真っ赤になって、しどろもどろになっている。
どうしたんだろう……?
「実は……この前、サンディーさんが身に付けた『
「そ、そ、そうだったすね……。い、今のことは……忘れてください!」
サンディーさんが、更に真っ赤になって固まってしまった。
何を忘れればいいのだろう……?
いつもの彼女らしくないが……大丈夫かな?
まぁそれはさておき、そもそも俺がマスカット家を訪れた目的は、『
『
そうなれば、スキルとして手に入れることができる。
そのために、やって来たのだった。
当然この本当の理由は開示できないので、珍しいスキルを体験してみたいという話にした。
「いいっすよー。今日はクワちゃん先生が来てないんですけど、練習用のクワとスキがあるんで、それでお相手するっす」
若干テンションが下がったサンディーさんが、そう言いながら練習用のクワとスキを持ってきた。
スキというのは、土に挿して掘り起こす道具で、ざっくり言うとシャベルみたいなものなのだ。
実際サンディーさんが持ってきたスキも、俺の知っているシャベルに似ている。
シャベルの先のハート型みたいになっている部分が、ちょっとスリムだが……見た目はほぼシャベルだ。
俺は、普段使いの剣にすることにしたコボルトの名剣『青鋼剣 インパルス』を、鞘から抜いて構えた。
「それじゃあ、行くっすよ!」
サンディーさんは、クワを振り上げてると、襲いかかってきた。
クワを土に打ち込むように、上から振り下ろす攻撃が主だが、スキルの補正がかかっているからだろう……かなりのスピードと迫力がある。
俺は、それを剣で正面から受ける。
——ガチィン、ガチィン、ガチィン、
懐に入り込んでしまえば、クワの柄のところを簡単に受け止められるだろうが、クワの刃のところを受け止めるのは意外に面倒だ。
サンディーさんの連続の打ち込みは、レベルが25まで上がっているせいか、かなりすごい。
バランスの悪いクワを、自在に振り回している。
途中から振り下ろす攻撃だけじゃなくて、突き出してくる攻撃や、横薙ぎの攻撃なども織り交ぜている。
「次はスキで行くっす」
今度はシャベルもといスキでの攻撃だ。
シャベルを振り上げて襲いかかってくる感じだが、微妙にホラーだ……。
ただスキは、クワよりも多彩な攻撃ができるようだ。
面で打ち付ける打撃だけでなく、突き攻撃や側面を使った切り付けなども、織り交ぜている。
一通りの攻撃が終わると、サンディーさんは右手にクワ、左手にスキという二刀流スタイルになった。
なんとなくだが……この戦い方が真骨頂のようだ。
攻撃と防御のコンビネーションが抜群だ。
そして……サンディーさんは、実は格闘センスがあるようだ。
スキルの補正がかかっているとは言え、独創的な動きの素晴らしい攻撃だ。
クワちゃんがパートナー候補にしたのがよくわかる。
というか……クワちゃんと訓練を積んだから、こういう動きができているのかもしれないけどね。
打ち込みを受けながら感じたのは、スキの先端のハート型の部分を改良したら、より優れた武器になるということだ。
俺の知ってるシャベルのように広くするか、それよりもさらに大きく広げたら、戦闘で使うときに小楯代わりにもなりそうだし、攻撃の威力も上がりそうだ。
クワも刃床部に柄を差し込んだ先端に、穂先のようなものを付けると突きの攻撃もできるし、戦闘のバリエーションも広がりそうだ。
サンディーさん用に、専用のクワスキセットを作ってあげたい気持ちになった。
あとで作ってみようかなぁ……。
終了後、『ポイントカード』スキルの『ポイント交換』リストを確認したら、見事に『
これで、スキルとして取得できる。
そして『共有スキル』にもセットできるようになる。
目的達成だ。
◇
少しして、『マスカッツ』のみんなや屋敷の子供たちと一緒に中庭でお茶を飲んでいると、シャインが帰ってきた。
シャイニングさんとシャイニーさんも、たまたまだと思うが一緒に帰ってきた。
「やぁ、友よ、来てたのかい? 知ってたらもっと早く帰って来たのに」
「グリムさん、いらしてたんですね」
「いらっしゃいませ、グリムさん。何かありました?」
笑顔で声をかけてくれたシャイン、シャイニングさん、シャイニーさんに、挨拶を返して、来訪の目的を簡単に説明した。
そもそもの目的は、サンディーさんの珍しいスキルを体験することなのである。
それと、明日から『アルテミナ公国』に旅立つので、その挨拶に来たという話をした。
旅立つといっても、転移の魔法道具を持っているので、全然来れなくなるわけではない。
そのこともシャインたちは知っているが、一応の挨拶だ。
そして、ここを訪れたときに、ファンが押し掛けている状態を知ったという話もした。
もちろん受勲についての賛辞も述べた。
そのタイミングで、すかさずサンディーさんが、預けてあったプレゼントの魔法カバンを出したので、シャインたちは驚くとともに、喜んでくれた。
俺は、このファンが押し寄せてくる現状をすぐに沈静化するのは難しいという見解を伝えた。
それ故に、新しい展開として『マスカッツ』のみんなにアイドル活動をさせたいという話をした。
もちろんアイドルというものを知らないので、歌などを披露して人々を楽しませる吟遊詩人のようなものという説明をした。
予想通り、シャインはすぐに賛成してくれた。
シャインの場合、美しいという言葉と人々が喜ぶという言葉が入っていれば、心の琴線に触れるので、大概の事はオーケーになるのだ。
まぁ実際彼女たちがアイドル活動すれば、美しさが広まるし、みんな喜ぶわけで、いいこと尽くしだからね。
ただ、現在行っている午前中の『ふさなり商会』での勤務は、難しくなるだろうとも話した。
ファンが押し寄せて、本来のお客さんが来にくくなる状況はまずいと伝えた。
そこで、『ふさなり商会』のお店には、他の使用人や年嵩の子供たちを配置するようにアドバイスをした。
そして、お店に立って接客の仕事がしたいという『マスカッツ』の子たちの希望を叶えるために、『マスカッツ』のファングッズを販売するお店を新たに作り、午前中だけ営業するという提案をしたのだ。
そうすれば熱狂的なファンは、お店に来ればいいわけである。
お店に来れば直接会えるし、グッズも買えるので大喜びだろう。
まさに、会いに来れるアイドルである。
ある意味……毎日が握手会状態とも言える。
逆にそれ以外の時間は、一切取り次がないと立て札を立てて、ファンが押し寄せるのを限定する狙いもある。
営業中の『マスカッツ』の子たちの負担が大変になるが、営業時間を二時間か三時間に絞れば、何とかなるのではないだろうか。
場合によっては、引き剥がし要因として、『舎弟ズ』を出動させてもいいだろうし。
このファングッズの店は、ファンが喜んでくれるものなら何でもありなので、『ふさなり商会』で販売するブドウや野菜を売るのもありだ。
綺麗なお花を売っても良いだろう。
『マスカッツ』の子たちが育てた鉢花などを売れば、買って帰って大事に育てられる。
ファン心理としては、嬉しいことだろう。
問題は……どこでその店をやるかなんだよね……。
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