960.楽しい、馬車改造。

 翌日、俺は朝から大忙しだ。


 『アルテミナ公国』への正式な出発日が明日なので、今日のうちにやり残したことを、いくつか片付けておきたい。


 まぁ『アルテミナ公国』に出向いたとしても、いつでも転移で戻ってこれるので、焦ってやる必要もないのだが……。

 それでも、今日一日でやれることについては、やってしまおうと思っている。

 やることリストの数を、少なくしておきたいんだよね。


 まず俺は、『竜羽基地』で特殊な馬車を仕上げている。


 この馬車は、長距離乗合馬車事業で使うための馬車で、特別仕様の馬車なのだ。


 基本となる車体は、マイクロバスサイズで二階建てとなっている。


 ピグシード辺境伯領で稼働している乗合馬車の中にも、二階建て馬車はあるが、それは二階の部分は落下防止の外枠と椅子だけになっているフルオープン状態のものだった。


 今回新造した馬車は、完全なボックス型の二階建てになっている。


 今は、その内装を仕上げているのだ。

 気分的には……キャンピングカーに改造している気分で、めっちゃ楽しい!


 長時間乗ることを想定しているので、大きめのゆったりとした椅子を一つ一つ設置した。

 座席数があまり取れない分は、二階建てにすることでカバーしている。


 もちろんリクライニング機能も完備しているので、寝て休むこともできる。

 真ん中が通路で、左右に椅子が前向きで並ぶという構造にした。


 この特別製の椅子は、簡単に取り外しができる構造にしたので、一旦取り外した上で向きを変えて対面にしたり、通路の部分に移動させてもう一方の座席と二つ並べることもできる。

 その場合通路は、右か左のどちらかの空いてるスペースになる。


 ちなみにシートは、バッファロー魔物の皮を使った高級本皮シートって感じの仕上がりになっている。


 馬車の外装は、街中で稼働している通常の乗合馬車と同じように、黄色を基調とした色になっている。

 それが二階建てなので、更に目立つのだ。

 もっとも市町を結ぶ街道を走るのがメインで、街中を走ることはほとんどないんだけどね。


 馬車の振動をできるだけ抑えられるように、隠し装置として巨大クラゲ魔物の体内組織であるゼリー物質を利用したサスペンションのようなものを取り付けてある。


 これによって、馬車の揺れをかなり少なくできるのだ。


 屋根の部分には荷物が乗せられるようになっていて、鳩たちの家もついている。


 長距離乗合馬車の運行にあたっては、伝書鳩を同行させることにしたのだ。


 この鳩たちは、もちろん『スピリット・オウル』のフウの『野鳥軍団』の中から選抜されている。

 俺の『絆』メンバーである。

 馬車のスタッフや、お客さんは普通の伝書鳩だと思っているが、実は俺の仲間なので、何か危険があったら念話ですぐに知らせることができるのだ。

 スタッフには、緊急時に飛ばすと帰巣本能で、支店の巣に戻るから連絡ができると伝えてある。


 ちなみに、この世界では伝書鳩という存在はあまり認知されておらず、鳩を使って文書をやり取りすることは無いようだ。


 この鳩を同行させるというアイデアは、俺が思いついたのだが、我ながらいいと思うんだよね。

 なんとなく……“ハト馬車”って感じで、定期観光や貸切バスみたいな感じで、ニンマリしてしまう。

 “バスガイドさん”ならぬ“馬車ガイドさん”を養成しても、いいかもしれない。

 そして、馬車旅行のツアーを組んで、お客さんを募集することもやってみようと思っている。


 この世界では、旅は命の危険を伴うものだが、その安全性を十分にアピールすることができ、かつ今作っている特別仕様の乗合馬車なら、ゆったりと座って行けるし旅を満喫できると思う。


 新婚旅行という文化もないようなので、そういう提案をしても面白いかもしれない。


 カップルシートを作ったり、家族の空間を確保するための個室のような構造にしたり、様々なバージョンの馬車を作っても面白いと思う。


 実際、さらなる特別バージョンも、今同時に作っているんだよね。


 それは何かと言うと……お座敷馬車だ。


 お座敷列車のように、宴会をしながら移動できるもので、貸切専用の車両にする予定だ。

 靴を脱いで入ってもらって、リラックスして旅をしてもらうのである。


 ただお座敷馬車といっても、この世界は椅子に座る文化なので、掘りごたつ式の構造にしている。

 温泉旅館の宴会場に作ったのと同じ構造なのだ。

 宴会が終わったら、テーブルを掘りごたつ部分に収納しフラットにして、雑魚寝ができるようになっている。


 この馬車は、完全に俺の趣味に走ったもので、今のところ需要はないだろう。


 ただ今後、旅行ツアーを企画してお客さんを募集したり、貸切でのお客さんを募集すれば、使えると思うんだけどね。


 今作っているのは、ただ単に俺が作りたいからという意味合いが強い。


 作ってるうちに、かなり気に入ってしまったので、一台は俺用にすることにした。


 完成品を『波動複写』でコピーし、色を黄色ではなく白を基調にした貴族っぽい豪奢な感じに仕上げた。

 金の装飾も所々にあしらった。


 『アルテミナ公国』には、この『二階建てお座敷馬車——俺用カスタム』で行くことにしよう!


 それからもう一つ、特殊な馬車を作った。

 それは……教会馬車だ。

 馬車の中に礼拝室を作って、祈りが捧げられるようになっている。


 これは『光柱の巫女』たちが馬車で移動する場合や、いろんな場所に行って炊き出しなどを行う場合に、集まって来た人たちが、神に祈りを捧げることができるように考えたものだ。


 馬車の前側半分が普通に座れる構造になっていて、後側半分は神像を置いて礼拝ができる構造になっている。

 後ろのドアを観音開きにして、人々が入って来れるようになっているのだ。



 それから……これらの作業をしていたら、なんと突然、『木工細工』スキルが発現した。


 『通常スキル』で、俺が持っていなかったものだ。

 今までも木を使った細工はかなり行っていたが、その蓄積もあったのか、突然スキルが発現したのだ。


 思わぬ収穫だった。



 

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