959.今後の、方針。

 夕方になって、国王陛下と王妃殿下が『竜羽基地』にやって来た。


 そこで俺は、リリイとチャッピーの親族であることが判明したサリイさん達、ローレルさん達、アグネスさん達を改めて紹介することにした。


 念話を繋いで、『アメイジングシルキー』のサーヤに、転移で連れて来てもらったのだ。


 そして、陛下たちに紹介するとともに、リリイとチャッピーの出自のことや、七年前に起きた『アルテミナ公国』のクーデターのこと、アグネスさんが実は『アルテミナ公国』の王女であったことなどを話した。

 また『アルテミナ公国』の公王家だけに伝わる千二百年前の『コウリュウド王国』建国の秘話についても話をした。


 ユーフェミア公爵やアンナ辺境伯など、いつもの貴族女子のメンバーも、夕方には『竜羽基地』に集まっているで、みんなに一緒に話を聞いてもらった。


「これは驚いたね。リリイがまさか『アルテミナ公国』の王女だったとは……。そしてチャッピーも、伝説の勇者の直系の子孫だったとはね……」


「そうですわね。アグネスさんも王女だったとは驚きです。さぞ苦労されたでしょうね。また他の皆さんも、リリイとチャッピーを陰ながら見守っていたのですね。その心中……お察しいたします」


 国王陛下と王妃殿下も、やはり驚いたようだ。


「我々ができる支援はいたしましょう。現時点で『アルテミナ公国』に直接干渉する事は、国同士の争いに発展しかねないのでできませんが、今後何かあったときには、あなた方の後ろ盾になりましょう」


 国王陛下が、改めてそう言ってくれた。


「陛下、ありがとうございます」


 代表してアグネスさんがそう言うと、他のみんなも跪いた。


「それに……我が国にも伝わっていない建国時の秘話を教えていただき、ありがとうございます。確かに建国神話では、多くの協力者がいたという記述はありますが、詳しく書かれていないのです。他にも特定の情報が全く無かったりして、意図的に残されていないとも考えられてきました。教えていただいた秘話を聞いて、ある意味納得できました。歴史に埋もれた真実が一つ明らかになって、ほんとに嬉しいですわ」


 王妃殿下も、目を輝かせてそんな言葉をかけてくれた。


「公王家の血を引く者として……現在の『アルテミナ公国』の状態は、とても恥ずかしいです……」


 アグネスさんが、伏し目がちに顔を曇らせた。


「今の秘話を聞いてもわかる通り、『コウリュウド王国』と『アルテミナ公国』は兄弟国のようなものです。今すぐは難しくても、いずれ時が来たら我が国が支援しますよ」


 陛下は、改めてそんな言葉をかけてくれた。



 それから『土の大精霊 ノーム』のノンちゃんを紹介したかったのだが、ノンちゃんは用件が済んだらすぐに帰ってしまっていた。


 ただ、ノンちゃんの存在はこの基地に集まるメンバーには話しても構わないと言ってくれたので、ノンちゃんが訪れてアドバイスをしてくれたことをみんなに報告した。


「なるほど……素晴らしいアドバイスをしてくれたんだね。今後のシンオベロン卿の目的は、当然悪魔たちの根城を発見し倒すことではあるが、それとは別にいくつか心に留めおかなければならないことがあるわけだね」


「はい、陛下。ノーム様は、やれる範囲でやればいいとおっしゃってくださいましたが、なるべくは達成したいと思っています」


 俺は、そう答えた。

 フリークエストみたいなもんだけど……できればミッションコンプリートしたいんだよね。

 というか……時間的に焦らなくていい期限なしのフリークエストみたいなもんだから、俺は全てやり遂げたいと思っている。


「まぁ……やることが整理できて、良かったじゃないか。せっかくだから、ここで改めて整理したらどうだい?」


 ユーフェミア公爵が、そんな提案をしてくれた。


「さすが姉様、それがいいですね。整理をしながら、我々も手伝えることを考えましょう」


 国王陛下が、相変わらずお姉さん大好きオーラを出しながら、追従した。


「まぁ一番の目的は、『アルテミナ公国』にあるという悪魔の根城をどうにか突き止めて、奴らを一網打尽にする事になるわけだが……お前さん、ほんとに正々堂々とグリム=シンオベロンとして入国する気なのかい?」


 『セイリュウ騎士団』のマリナ騎士団長が、改めて俺に確認してきた。


 そういえば、前に『アルテミの公国』に入るときには、身元がバレないように別人として入った方が良いとアドバイスをしてくれていたんだよね。


「はい。目は引いてしまうと思いますが、実力を高めるために迷宮に挑むという合理的な理由があるので、何とかなると思います」


「まぁ……それでもいいね。別人として入って、万が一バレて警戒されるよりは、堂々と入って初めから監視の目を引きつけたほうがいいかもしれないね。悪魔たちの力をもってすれば、別人に偽装しても見破る可能性もあるからねぇ……」


「はい。長丁場になりそうなので、腰を据えて取り組もうと思っています。それに……悪魔たちも、我々の動向がはっきりわかっていた方が、油断するかもしれませんし」


「あとは……同時並行でやることだが……まずは『使い人』の発見と保護ということだね……。これについては、できるだけ情報を拾うしかないね。実際は……いつどこに出現するかなんて、わからないからね。運と縁次第ということかもしれないね……」


 今度はユーフェミア公爵が、思案顔でそう言った。


「確かにおっしゃる通りです。この広い世界の情報を全て拾うことはできませんから、できる範囲でやるしかないと思います」


「そうだね……。それと関連して他の大精霊様の神殿を見つけるというのも重要だね。残りの大精霊様たちが加護を与えるという『火使い』『水使い』『風使い』については、そこで情報が拾えるかもしれないしね」


「はい、そうですね。ただこれについても、どこを探していいかわからないんですけどね……」


「ノーム様は、少なくとも一つの神殿には、かなり近づいていると言っていたんだろう? あんた全く心当たりはないのかい?」


「はい……考えてはみたのですが……あまりピンとくるところはないんですよね……」


 俺は苦笑いしながら、そう答えるしかなかった。

 いろいろ振り返ってはいるのだが……それっぽいところは、すぐには思いつかないんだよね……。


「そうかい……。残念ながら、こっちも運と縁次第ということだね……」


「『勇者武具シリーズ』を含めて、過去の偉大な武具を集めるというテーマは、まだ動きやすそうだね。すでに王立研究所には、過去の文明の遺跡などの情報を、再度洗い出すように指示を出している。その場所を一つ一つ潰していけばいいだろう。唯一積極的に動くことができるテーマだね」


 国王陛下が、そう言ってくれた。

 前に『勇者武具シリーズ』を全て揃えたいという話になった時に、情報を洗い出すように王立研究所に指示を出してくれたのだ。


「はい、そうですね。これについては、チーム付喪神のみんなに担当してもらおうと思っています。『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神となったエメラルディアさんは、『マシマグナ第四帝国』の皇女の残留思念でもありますので、帝国の施設の記憶もいくつかあるようです。そのような施設も探してもらおうと思っています」


「なるほど! それは期待できるね。王立研究所からの情報も、上がり次第すぐに流すよ」


「はい、ありがとうございます。ご協力に感謝します」


「それから……引き続き公式オークションや闇オークションでの買付の手配もするからね」


「はい、あの……もしできればなんですが……開催される情報が入ったら教えていただけないでしょうか? 実は……オークションに参加したいんですよね……」


 俺は、そんなお願いをしてしまった。

 『闇オークション』への参加が、楽しかったんだよね。

 人に頼むのではなく、できるだけ自分で参加したいのだ。

 完全に……オークションマニアになってしまったみたいだ。


「そうかい、君もオークションが好きになったようだね。いいよ、闇オークションの情報が入り次第伝えるよ。公式オークションは、日程が決まっているから行けるようなら申し出てくれればいいよ。無理な場合は、私が手配をしておくから」


 陛下が愉快そうに笑った。


「はい、ありがとうございます」


「いいね、オークションは私もついていってやるから、安心しな」


 マリナ騎士団長がそう言って、俺の肩を組んだ。


 また男の友情のようなノリだ……。

 マリナ騎士団長もオークションが大好きだから、自分が行きたいだけだと思うけどね。


「そういやあんた……私が前に教えた沈没船が多くありそうなサルベージポイントは、まだ手をつけてないんだろう?」


「はい、そうなんです。サルベージもできれば自分の手でやりたくて、そのままなんですよね……」


「その気持ちはわかるよ。ワクワクするからね。まぁ沈没船は逃げたりしないから、やれる時にやったらいいさ。伝説の武具が沈んでいるかはわからないが、何かしら面白い物が引き上げられるんじゃないね」


「はい、タイミングを見て、やりたいと思います」


 マリナ騎士団長に、前にサルベージポイントは教えてもらっていたんだよね。

 いつでもできる状態だったのだが、楽しみは後に取っていたのだ。


 『魚使い』のジョージや俺の仲間たちに頼めば、すぐにできてしまうのだが、そんな楽しいイベントは人任せにはできないよね!

 今度タイミングを見て、みんなでやろうと思っている。

 楽しいサルベージイベントだ!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る