958.他の大精霊に、近づいている?
「それから、もう一つ言っておくことがあるのじゃ。それは……ワシと同類の大精霊たちのことなのじゃ。今後、グリム君は、他の大精霊の神殿に辿り着くやもしれぬ。その時は、ワシの時と同じように顕現できるように力を貸してやって欲しいのじゃ。そういう状況になるのは、縁があってのことじゃからのう」
『土の大精霊 ノーム』のノンちゃんがそう言って、新たな話を切り出した。
唐突に他の大精霊様たちの話が出るということは、顕現する予兆があるのだろうか……?
「他の大精霊様たちも、この時代に目覚めるということなのでしょうか?」
「ワシにも断言はできんのう。すべての大精霊が同時期に顕現することは、あまりないことだからのう」
「他の大精霊様の神殿は、一体どこを探せば……」
「大精霊の神殿を、無理に探し出す必要は無いのじゃ。すべては縁じゃからのう。もちろん、ワシはどこに大精霊の神殿があるか知っておるが……それを教えることはできんのじゃ。すべては、巡り合わせなのじゃよ。ただ……意識の中に、他の大精霊のことも思っておいて欲しいのじゃ。あまり多くは教えられんのじゃが……意識というのは、大きなセンサーでもあるのじゃ。意識しておくこと、思っておくことは、大事なことなのじゃ」
「分りました。もし私に縁があれば、巡り会えるということなんですね」
「そうなのじゃ。ところでグリム君、さっきから気になっとったんじゃが……しばらくぶりに会ったら、すっかり敬語になっとるのう。前のように、小さな子供に接する感じで話して欲しいのじゃ」
「あぁ……はい、そうでしたね。久しぶりだったんで……つい……。ただ……前の時は勢いでそんな口調ができたんですが、やはり大精霊様には、敬語で話したいのですが、ダメでしょうか?」
俺は、一応お願いしてみた。
今更ちっちゃい子に接するような話し方に戻すよりも、このまま神様として敬って話した方が、楽なんだよね。
「まぁ……結論としては、どっちでもいいのじゃが……前の話し方の方が嬉しいのう」
ノンちゃんはそう言って、五歳児の外見通りに天真爛漫な笑顔を向けた。
「わかりました。努力します」
俺はそう言って、苦笑いした。
それはさておき、ノンちゃんが改めて他の大精霊様たちのことを意識するように言ってくれたのは、やはり巡り会う可能性があるということなのだろう。
前にノンちゃんに聞いたところによると、この世界には、俺のよく知るゲームの世界と同じように、四大精霊がいるとのことだった。
『火の大精霊 サラマンダー』『水の大精霊 ウンディーネ』『風の大精霊 シルフ』『土の大精霊 ノーム』が、四大精霊のようだ。
そもそも、大精霊とは、この世のすべての根源ともいえる精霊たちが、属性を固定化させて集合したものらしい。
通常は、他の精霊たちと同じように目に見えない状態になっているが、ノンちゃんのように顕現すると普通の生物のように活動できるということだった。
すべての根源は『霊素』だが、その『霊素』が精錬されたものが『精霊』であり、『精霊』が集合して属性を固定した存在が『大精霊』ということになる。
ノンちゃんが前に説明してくれた時も言っていたが……ノンちゃんが『土使い』スキルを持つエリンさんに『加護』を与えたように、『火の大精霊 サラマンダー』は『火使い』、『水の大精霊 ウンディーネ』は『水使い』、『風の大精霊 シルフ』は『風使い』に『加護』を与える存在なのだそうだ。
したがって、『火使い』『水使い』『風使い』の『スキル精霊』たちが、宿主を見つけて、『使い人』スキルが顕現すれば、それを守護する大精霊も顕現する可能性が高いと言っていた。
確か……ノンちゃんの話では、『土の大精霊 ノーム』の神殿を守護している『ドワーフ』のノームド氏族のような存在が、他の大精霊の神殿にもいると言っていた。
『火の大精霊 サラマンダー』の神殿は、亜妖精『リザードマン』のサラマンド氏族、『水の大精霊 ウンディーネ』の神殿は、亜妖精『マーメイド』のウンディード氏族、『風の大精霊 シルフ』の神殿は、妖精族『エルフ』のシルフド氏族が守っているとのことだった。
それらの種族に会ってみたいと強く思ったのを覚えている。
「特別サービスで、ちょっとだけヒントあげよう。実はグリム君はすでに、大精霊の神殿のうちの一つには、かなり近づいておるのじゃよ。この世に偶然は無いからのう。少なくともその一つの大精霊の神殿には、いずれたどり着くじゃろう。今から楽しみじゃのう」
ノンちゃんが、悪戯な笑みを浮かべながら言った。
というか……一つの大精霊の神殿には、近づいているのか……?
一体どういうことだろう……?
心当たりは無いけど……。
「今までの私の活動したエリアの中に、少なくとも一つは大精霊の神殿があるということなのでしょうか?」
「本当はいかんのじゃが……しょうがないのう。ヒントを出してしまったしのう。そうじゃよ、かなり近くにいたのじゃよ。でも焦る必要はないのじゃ。いずれ辿り着くじゃろうて」
「わかりました。ありがとうございます。あの……それぞれの大精霊様が加護を与える『使い人』が出現すれば、大精霊様も顕現するということなのでしょうか?」
「その可能性が高いのう。もっとも、必ずしもそうとは言えんのじゃが。順番が逆の場合もあり得るし、『使い人』スキルが宿主を得ないままという可能性もあるのじゃよ」
ノンちゃんは、そう言ってニコッと笑った。
両方とも現れる可能性は高いが、必ずしもそうではないということのようだ。
深く考えてもしょうがないのかもしれない。
「それからのう……最後にもう一つアドバイスなのじゃ。グリム君は、『勇者武具シリーズ』を集めたいと思っておるようじゃが、それはそれで良いことなのじゃ。ただ『勇者武具シリーズ』を全て集めるのは、かなり大変なはずなのじゃ。あまりこだわらずに、広く過去の特別な武具を集めるという考えにして、遺跡探しをした方が良いのじゃ」
「まだ未発見の遺跡は、いくつもあるのでしょうか?」
「それはあるじゃろうのう。でも、どことは言えんのじゃ。それに、ワシも全てを把握しているわけではないでのう」
「分りました。なるべく情報を集めたいと思います」
「それから、『勇者武具シリーズ』以外にも、優れた物はあるのじゃ。できれば……聖なる武具を手に入れられると良いのじゃよ。端的に言えば、聖剣じゃな。グリム君は、魔剣は持っておっても聖剣は持っておらんじゃろう? 聖剣は、悪魔や魔王に特効があるからのう。まぁ見つけようと思って、見つけられるものではないが、これも意識の中に置いておくことが大事なのじゃよ」
「聖剣ですか……?」
「そうじゃ。英雄譚に出てくるような名のある聖剣もあれば、有名とはなっておらぬ埋もれた聖剣もある」
「分りました。意識の中に置いておきます」
聖剣が存在するなら、確かに手に入れたい。
今まであまり意識して考えたことがなかったが、よく考えたら魔王倒す武器は聖剣というのは、テンプレではあるんだよね。
「今、ワシが言った『使い人』の子たちを引き続き保護すること、他の大精霊の神殿を見つけること、過去の偉大な武具を集めることは、いわばフリークエストみたいなもんなのじゃ。できる範囲でやればいいからのう」
ノンちゃんは最後にそう言って、また天真爛漫な笑みを作った。
ノンちゃんのおかげで、今後の行動の指針ができた。
俺は、改めてノンちゃんにお礼を言った。
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