961.領都で、いろいろ。

 秘密基地『竜羽基地』での特殊馬車製造を終えた俺は、『領都セイバーン』を訪れた。


 まず最初に『フェアリー商会』の『セイバーン支店』に出向いた。


 人材の採用もだいぶ進んでいて、かなりの人数になっている。


 もともとユーフェミア公爵が声をかけてくれていた貴族の子弟や傍系の人たちが、かなり採用できた。

 サーヤの話では、優秀な人材が多いようなので、今後が楽しみである。


 一般の人を対象にした採用面接会にも多くの人が集まり、かなり採用できた。

 『領都セイバーン』での人材の採用は、順調である。


 あとは各市町での採用を順次進めていって、そこでの事業を軌道に乗せていこうと思っている。


 また専用の歌劇団を作るための人材採用の面接会も一度行っていて、候補生を採用することができた。

 思っていたよりも多く集まり、五十人ぐらい面接に来ていた。


 吟遊詩人の採用なら、容姿端麗な方が注目を浴びていいわけだが、歌劇団の場合は役者としての採用なので、いろんなタイプの人がいたほうがいい。

 そんな観点で採用したのだ。


 今後本格的に、領都常駐の歌劇団を立ち上げていく予定である。


 そのためにも必要な専用の劇場は、大きなものにしたい。

 それには、まとまった土地が必要なのだが、約束通りマリナ騎士団長が手配してくれた。

 『上級エリア』の『北ブロック』に、まとまった土地があったようだ。


 ベストの大きさとは言えないが、何とか劇場を作れる大きさということなので、その土地を『フェアリー商会』で購入して劇場を作ろうと思う。


 俺は、セイバーン支店に集まってくれた新規採用のスタッフたちと、劇団の候補生たちと顔合わせをし、激励した。


 幹部候補のスタッフは、やはり貴族の子弟が多かった。

 皆洗練された感じで、仕事ができそうなオーラを出しまくっていた。

 そして女子の割合が、かなり高かった。


 サーヤの話では、面接には男性貴族もかなり来ていたらしいが、前に報告をあげてくれた通り『フェアリー商会』への就職ではなく、シンオベロン家の家臣になりたいという希望の者が結構いたようだ。


 その者たちには、俺が家臣を募集していないことを告げて、『フェアリー商会』に入るかピグシード辺境伯領に仕官することを勧めたとのことだった。

 何割かは、ピグシード辺境伯領への仕官を検討してくれそうだったらしいので、少し期待できる。

 もちろん『フェアリー商会』への就職を希望してくれた人も、かなりいたようだ。



 次に俺は、『下級エリア』の『東ブロック』に出かけた。


 いわゆる下町エリアの一つだが、ここには『マットウ商会』の工房があるのだ。


 『マットウ商会』を引き継いだので、当然この工房も引き継いでいる。


 この工房では、装飾品や壺などの工芸品を作っている。


 職人たちは、劣悪な環境の中でこき使われていた。

 奴隷も数多くいるので、今日は奴隷契約を解除してあげるために来たのだ。


 大きな工房で、職人が四十三人もいたが、そのうち三十二人は奴隷だった。


 俺は、早速奴隷契約を解除してやった。


 みんな涙を流して喜んでくれた。


 働きに見合った正当な賃金も払われていなかったので、今後の賃金を説明したら、さらにみんな号泣していた。


 装飾品にしろ、工芸品にしろ、商品の出来を見ると素晴らしいものだった。

 みんな腕がいい職人なので、これから楽しみだ。


 この工房にも見習いを入れて、高級な装飾品以外にも屋台などで売れるような安価な装飾品も作れるようにしたい。

 一般の人が手に取れるような装飾品を、増やしていきたいんだよね。


 大きな焼き窯もあるので、『フェアリー商会』の飲食部門などで使う器なんかを作ってもいいかもしれない。

 もちろん販売用の陶器も作れるし。



 次に俺は、『下級エリア』の『西ブロック』を訪れた。


 ここも下町の一つなわけだが、ここには『フェアリー商会』で養鶏場を作る予定なのだ。


「来てくれたのねぇ、ありがとう。早速、案内するね」


 出迎えてくれたのは、『屋台一番グランプリ』で、六位に入賞していたオッカアさんだ。


 表彰式の時に仲良くなって、彼女の依頼で、ここに養鶏場を作ることになったのだ。

 下町の貧しい家の子供たちを雇用する為の養鶏場なのである。


 その用地の確保は、オッカアさんが引き受けてくれていたのだが、早速候補地を見つけてくれたのだ。


 オッカアさんは、この『西ブロック』の下町の屋台組合の役員をしていて、顔役的な存在らしい。


 その情報網を活かして、養鶏場が作れる広さの空き倉庫を見つけてくれた。


 オッカアさんについていくと、倉庫街になっている場所の住宅街寄りに件の空き倉庫があった。


 ここなら養鶏場を作っても、住民に嫌がられることもないだろうし、下町の子供たちも集まって来やすいだろう。


 さすがだ……良い立地である。

 いろいろ考慮して選定してくれたようだ。


「オッカアさん、ありがとうございます。早速、『フェアリー商会』でこの倉庫を購入して、養鶏場を作りたいと思います」


「すぐに取り組んでくれてありがたいよ。働き手の子供たちは、私の方で集めるからね。それから出来上がった卵は、約束通り屋台組合のみんなに買ってもらうからね。それから……卵が多く取れるようになったら、この養鶏場に直売所も作ったらいいよ! 一般の人も買いに来てくれると思うよ」


「そうですね。ありがとうございます。その方向で考えます」


 卵の直売所は、実はオレも考えていて、併設しようと思っていたのだ。

 年嵩の子供たちが、交代で店番をしても良いだろうしね。


 それから俺には、もう一つ考えていることがある。

 その直売所で、卵を使ったお菓子も販売しようと思っているのだ。


 今のところ目玉商品にしようと思っているのは……プリンだ!


 絶対に売れると思うんだよね。


 シュークリームやエッグタルトなんかも、作りたい。


 ただ……プリンにしろシュークリームやエッグタルトにしろ、冷蔵庫がないこの世界では、お持ち帰り商品としては厳しい部分もある。

 屋台販売商品みたいに、その場で食べてもらうかたちでしか販売できないかもしれない。

 直売所にイートインスペースを作って、喫茶店っぽくしてもいいかもしれないけどね。


 あと販売しやすさで考えると、卵を使ったお菓子としてはカステラとかもいいかもしれない。

 カステラなら、冷蔵庫がなくても大丈夫だからね。



 ここに新設する養鶏場では、飼育する鶏も特別な鶏にしようと思っている。


 あの『大王ウズラ』を飼育しようと思っているのだ。

 もはや“養鶏”ではないけどね。


 野生の『大王ウズラ』の群れを、今までにいくつも発見しているので、仲間がめちゃめちゃ増えているのだ。

 その中から、百羽ほど来てもらおうと思っている。


 俺の『絆』メンバーなので、子供たちが世話をするといっても、ほとんど手がかからない。

 逆に何かあったときには、子供たちを守ってくれる存在になるだろう。


 オッカアさんが確保してくれた場所が、思ったよりも広いスペースだったので、中型犬位のサイズがある『大王ウズラ』でも、百羽くらいは余裕で飼育できそうだ。

 周りを柵で囲った飼育スペースと、子供たちの休憩所となる建物とそれと連結した直売所を作る予定だ。

 今ある倉庫は一旦取り払い、更地にして新たに立て直す予定である。


 そんな構想をオッカアさんに話したところ、驚いていた。


 実は、オッカアさんは飼育する鶏の算段もつけてくれていたとのことだ。

 せっかくなので、その鶏も購入することにした。


 二百羽予約していたようなので、そのまま購入することにしたのだ。

 そしてその鶏は、よく卵を産むという有名な品種で、『白レグ』というらしい。

 昔からいる鶏とは違い、他国から輸入されて最近増えている品種とのことだ。

 そんな品種が手に入るのは、逆にありがたいことだ。

 なんでも白い綺麗な鳥らしく、本当によく卵を産むらしい。

 なんとなくだが……俺が元いた世界の『白色レグホン』という品種っぽいやつだろうか……?


 それから、大王ウズラという貴重な鳥を飼育すると、ゴロツキに狙われるんじゃないかとオッカアさんが心配してくれていたが、その点も人を配置して警備するので問題ないと話をしておいた。


 実は、街の巡回警備をする人材は、すでに充実している。


 俺の分身である『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーさんが、すでにこの『領都セイバーン』のゴロツキを一掃してしまっているのだ。


 かなり大量のゴロツキを捕まえて、更生が難しい者とか重い犯罪を犯している者を衛兵に突き出したから、それだけで治安が良くなっている。


 ついこの間、そんな報告を受けたユーフェミア公爵が、驚きつつも大笑いしながら喜んでいた。


 そしていつものように、ナビーさんの叱咤激励で更生するような程度の軽いゴロツキは、『舎弟ズ』になっている。

 少し矯正が必要な者は、『残念B組ナビ八先生』に入っている。


 すでに、『領都セイバーン』には『舎弟ズ』が組織されているのである。


 『下町エリア』の『西ブロック』の『舎弟ズ』たちが、時々巡回してくるので、この養鶏場の安全は確保されるはずである。

 まぁ何よりも大王ウズラや鶏達が、皆俺の『絆』メンバーになっているから、ゴロツキたちが来ても返り討ちだけどね。


「ゴロツキどもが少なくなったと思ったら、捕まえてくれたのはグリムさんの所の人だったのかい。おまけに若い連中が、街の掃除をしだしたんだけど、あれもおたくの指導だったのかい。すごいね……下町の人間を代表して、お礼をするわ!」


 オッカアさんは、俺に話を聞いて感心してくれた。

 そしてお礼だと言って、またもや唇を奪われてしまった……。


 完全に油断していたが……またキスされてしまった……トホホ。


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