954.久しぶりの、大精霊様。

 午後になって、俺は秘密基地『竜羽基地』に来ている。


 リリイとチャッピーは、親族であることがわかったサリイさん、ローレルさん、アグネスさん、タマルさん達と一緒に『マグネの街』の『フェアリー商会』の本部に残って、話をしながら一緒に過ごしている。


 俺が『竜羽基地』に来たのは、『コボルト』族のブルールさんを案内する為だ。


 ブルールさんは、今後俺たちに協力してくれることになっていたが、俺の『絆』メンバーになってくれることになったのだ。


 親友であるオカリナさんから、『絆』メンバーに加えてもらえないかと頼まれたのである。

 俺としては、特に問題は無いので、本人が良ければ構わないと答えたところ、ブルールさんは二つ返事で仲間になってくれたのだ。

 オカリナさんとしては、親友に隠し事はしたくないし、人格的にも能力的にも間違いないので、俺たちの力になるとも判断したとのことだった。


 俺はブルールさんに、いつものように『絆』メンバーについて説明した。

『共有スキル』が使えることや、念話が使えることである。


 やはり反応はいつもと同じで、『共有スキル』の存在とその数の多さ及びスキルレベルが10であることに衝撃を受け、念話が使える事に感動していた。


 ブルールさんが仲間になってくれたことで、彼女が持っている『通常スキル』で俺が持っていないものを、新たに『波動複写』でコピーして取得することができた。


 それは『嗅覚強化』『土魔法適性』『土魔法——土弾ソイルショット』『土魔法——地面壁グラウンドウォール』『土魔法——地面針グラウンドニードル』の五つだ。


 彼女のおかげで、土魔法がかなり充実した。

 早速、『共有スキル』にもセットした。


「ブルールお姉ちゃんが来てるのです!」


 基地を案内している途中で、『ドワーフ』のミネちゃんが楽しそうに走ってきた。


 しかも、びっくりなゲストを連れている。


 それは……なんと『土の大精霊 ノーム』のノンちゃんだった。


「みんな、久しぶりなのじゃ」


「ノ、ノーム様!」


 ブルールさんが、驚いて跪いた。

 ノンちゃんに会うのは、はじめてのはずだが、土の大精霊であることが即座にわかったようだ。


「そなたが『コボルト』族のブルールじゃなぁ。そうかしこまらなくても良いのじゃ。グリム君に力を貸してくれるそうじゃなぁ。しっかり頼むのじゃ」


 ノンちゃんは、軽いトーンで言っているが、ブルールさんはめっちゃ緊張している感じだ。


「か、かしこまりました……」


 やはりガチガチだ。


 大精霊という神に等しい存在だし、妖精族は特に崇拝しているようだからね。


 それにしても……相変わらず女の子の外見なのに、老人っぽい口調なのは、違和感しかない……。


 ノンちゃんは、見た目は五歳くらいの小さな女の子なんだよね。

 小麦色の肌で、茶髪のほんとに可愛い女の子なのだ。


「ノンちゃん、急にやってくるなんて……何かあったんですか?」


 突然訪れるなんて、何か特別なことが起きたのかとすごく気になってしまった。


「心配はいらないのじゃ。ここらで一つ話をしておくべきだと思って来ただけなのじゃ。リリイとチャッピーにも、『使い人』スキルが発現したようじゃしのう」


「もう知っているんですね。さすが大精霊様です」


「当然なのじゃ。まさかあの二人が、スキル精霊に選ばれるとはのう……まぁ納得と言えば納得じゃが。あの子たちは、素晴らしいからのう」


「その件で、いらしたのですか?」


「まぁそれもあるのじゃが、他にもいろいろあるから一つずつ行くのじゃ。まずは……ミネちゃんの件からじゃなぁ。ミネちゃんも、グリム君の『絆』メンバーに入れて欲しいのじゃ。ミネちゃんの属するノームド氏族は、大精霊の神殿を守る特別な氏族だから、『絆』メンバーにするのを見送っていたようじゃが、ミネちゃんは良いのじゃ。特別な子じゃからのう。それに、もう嫁に行ったようなものなのじゃ。それ故、遠慮せずに『絆』メンバーにしてやって欲しいのじゃ」


 ノンちゃんは、突然そんなお願いをしてきた。


 ミネちゃんは妖精族だし『絆』メンバーに誘おうかとも思ったが、ノームド氏族という特別な役割がある氏族の子なので、無理に『絆』メンバーに入れないほうがいいと思っていたのだ。

 ただノンちゃんが認めて、本人もそのつもりなら、俺的には全く構わない。


「もちろん構いません。ただこのタイミングでの話というのは、何か理由があるのでしょうか……?」


「いや、何かあったと言うわけではないのじゃ。ワシが突然現れたからって、そう心配せずともよいのじゃ。今後のことを考えると、そうしておいた方が良いと思っただけなのじゃ。本来なら……ノームド氏族全員を『絆』メンバーにしても良いし、ブルールちゃんのいる『コボルト』のカジッド氏族も丸ごと『絆』メンバーになってもいいくらいなのじゃ。妖精族なら変な考えを持つ者がメンバーに入ってしまう危険もないしのう。でも、それは焦る必要もないから、後からで良いじゃろう。まずは、それぞれの氏族の代表という感じで、ミネちゃんとブルールちゃんを仲間にすれば良いのじゃ」


「分りました。私としても嬉しいことなので、すぐにそうします」


「ありがとなのじゃ。ミネちゃん良かったのう。これで大幅パワーアップじゃからのう。より能力を発揮できるようになると思うのじゃ」


 ノンちゃんは俺にそう言うと、満面の笑顔をミネちゃんに向けた。


「ありがとなのです! ミネはとっても、とっても嬉しいのです! 里のみんなも、ミネはもう嫁に行ったと思っているので、反対しないし、喜んでくれると思うのです!」


 ミネちゃんは、そう言って嬉しそうな笑顔を作った。

 軽く言っているけど……お嫁には来てないと思うんですけど……。

 まぁ突っ込むのはやめておこう。


「それから、今後は『ドワーフ』の里と『コボルト』の里の能力をうまく活用するのじゃ。グリム君がその気になれば、今までにない魔法道具や武器も作れるはずじゃ。自由な発想で、楽しみながらやってみることをお勧めするのじゃ。まずは『コボルド』の里で、専用の剣を作ってみたらどうじゃ? おそらくブルールちゃんから、そんな話があるはずなのじゃ」


 ノンちゃんはそう言って、ブルールさんに視線を向けた。


「はい、後でお話ししようと思っていたのですが……私の叔父のトウショウから話があったのです。グリムさんが特別な素材を持っているなら、それをもとに専用の剣を作ってくれるという申し出でした。亜竜ヒュドラを倒したという話を聞きましたので……。もしヒュドラの鱗などをお持ちでしたら、それを素材に混ぜて剣を打つことが可能なのです。極めて強力な剣になります」


 ブルールさんは、そんな話をしてくれた。


 ありがたい申し出だ。


「はい、あります。ヒュドラの素材もありますし、鱗だけでしたら、私の仲間が『特別竜エキストラドラゴン』になったときに落としていくものが二種類あります」


 俺は、そう答えた。


 亜竜ヒュドラの素材は全てあるし、『ライジングカープ』のキンちゃんと『龍馬たつま』のオリョウが、『種族固有スキル』を使って『特別竜エキストラドラゴン』になって、元に戻るときに大量の鱗を落としていくからね。


「そうですか。それは素晴らしいです。ぜひ一度時間を作っていただいて、再び『コボルト』の里を訪れてください。叔父と一緒に、グリムさん自身が刀を打つことで、特別なものができると言っていました」


「ありがとうございます。近々時間を作って、ぜひ伺いたいと思います」


 突然の嬉しい申し出に、俺は心から礼を言った。


 今からすごく楽しみだ。

 亜竜ヒュドラの素材を使った武器作りもしたいと思っていたし、竜の鱗の使い道も考えていたところなので、本当にありがたい申し出なのだ。



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