951.降りて来た、家族。
俺は、リリイとチャッピーを両腕に抱きかかえ、『フェアリー商会』本社になっている屋敷の中庭にやってきた。
静かに、この子たちと過ごすためだ。
八歳には消化しきれないような内容の真実を知り、いろんな感情とともに懸命に飲み込んだ二人を、ゆっくりさせたかったのだ。
改めて二人に、心の整理をする時間を作ってあげたかった。
だから、俺もそっと見守るだけにして、二人の自由にさせてあげようと思っている。
二人をベンチに座らせ、俺は少し離れたテーブルセットのところに腰掛けた。
二人は、手をつないで並んで腰掛け、呆然としている。
呆然としたまま、大粒の涙が溢れ出ている。
俺の気遣いを察して、黙ってリリイとチャッピーを送り出してくれたニアやサーヤ、さっきまで一緒にいたサリイさんたち、ローレルさんたち、アグネスさんたちも、気がかりなようでそっと後をついて来ていた。
中庭への通用口のところで、そっと見守っている。
「ばあちゃんに会いたいのだ……。ばあちゃんは、ずっとリリイのことを守ってくれていたのだ。お父さんとお母さんにも、会ってみたかったのだ……。あ、会いたいのだ……」
リリイは今まで抑えていた感情を、吐き出した。
チャッピーが、横から抱きしめてあげている。
リリイは空を見つめたまま、涙をぼろぼろと流している。
そんなリリイとチャッピーを慰めるように、暖かい空気が二人の周りを渦巻いたような……妙な感覚がした……。
これは……?
何か聞こえるような……。
もしかして……精霊たちが集まってきているのか?
俺は、精霊を見る目の使い方で確認した。
目を細め、焦点をぼやかすと……
間違いない!
数多くの精霊が、ここに集まってきている。
まるでリリイとチャッピーを慰めるかのように……。
すごい数の光のつぶつぶが集まってきている!
リリイとチャッピーの周りを、渦巻いている。
なんだ……?
光の渦の一部が広がって、道のようなものができた。
そして一際輝く二つの光の粒が、他の光の粒たちにエスコートされるように、リリイたちの方に向かっている。
一際輝く二つの光の粒は、仲良く寄り添うように、ローリングしながら飛んでいる。
ん……なにか……聞こえる気がする……
「泣いてるよ」
「泣いてるね」
「あの子がいいの?」
「あの子にするの?」
「悲し気だけどぽかぽかだよ。あの子ならサムサムに負けない。ずっとぽかぽかだよ。ずっと見てたから大丈夫だよ」
「「「そうだね」」」
「きっと大丈夫だよ」
「今度は、大丈夫だよ」
「うん、ありがとう」
「きみも決めたの?」
「うん、ずっと見てたから。ぽかぽかの宿主に巡り合えた。あの子なら大丈夫」
「「「そうだね」」」
「きっと大丈夫だよ」
「うん、ありがとう」
「じゃあ行くね」
「うん、行こう」
「「みんなありがとう」」
「「「きっと大丈夫だよ」」」
綺麗な光を眺めながら、そんな精霊たちの会話を聞いていたら、一際光っていた二つの光が、リリイとチャッピーに入っていった!
そして、一瞬、リリイとチャッピーが光った!
これは……
前に『植物使い』のデイジーちゃんに、『植物使い』スキルが発現したときの感じに似ている……。
リリイとチャッピーは、呆然としている。
なんだ!?
精霊たちがさらに集まり、強く光りだしている。
精霊を見る目の使い方を止めても、空中がキラキラ光っているのがわかる。
これは、こっそり二人の様子を覗いている他のみんなにも、見えているはずだ。
え!?
二人の前に……人間の映像のようなものが現れた!
優しそうな感じのおばあさんだ。
「ばあちゃん!」
リリイがそう言って、ベンチから飛び上がった。
「ばあちゃんなの?」
リリイが改めて問いかけた。
「おばあちゃん……」
「母さん、なぜ……?」
サリイさんとローレルさんが、呟くのを『聴力強化』で強化された聴力が拾った。
彼女たちにも、見えているようだ。
俺は、リリイたちの下に駆け寄った。
それに釣られるように、サリイさんたち見守っていた人たちもついて来た。
「リリイ、ごめんね。突然一人にしちゃって。今まで偉かったわね。でも、もう寂しくないわね」
立体映像のような優しい老婦人が、声を発した。
やはりリリイと一緒に暮らしていたひいおばあさんのケリイさんのようだ。
「ばあちゃぁぁぁん」
リリイは、おばあさんに泣きながら抱きついたが、実体がないみたいで抱きつくことができなかった。
「ごめんねリリイ、おばあちゃんはもう死んじゃってて、肉体がないから抱きしめてあげられいの。あなたに備わった特別な力によって、魂の世界から一時的に来ているだけなの……」
「ば、ばあちゃんは……幽霊なのだ?」
リリイが、泣きながら尋ねた。
「そうね……成仏しているから、ちょっと違うけど。似たような存在ね。あなたの力で、少しの間だけお話しできるのよ。これからは、リリイに備わった力のおかげで、時々お話ができそうね」
おばあさんは、優しく微笑んでいる。
「おばあちゃん……」
サリイさんが、思わず声をかけた。
「サリイ、ありがとうね、リリイを見守ってくれて。立派になったわね。そんなあなたの姿を見れて、ほんとに嬉しいわ」
「お、おばあちゃん、うぅ……」
サリイさんは、地べたに崩れ落ちて嗚咽した。
「母さん……」
ローレルさんも、涙を溢れさせている。
「ローレル、この子たちを頼んだわよ。また、あなたと話ができるなんてね……ほんとに嬉しいわ……私の愛する娘……」
「母さん……」
ローレルさんは、言葉を詰まら、泣き崩れた。
「そうだ! リリイ、お父さんとお母さんを強く呼んでみて。顔は覚えてないからイメージできないだろうけど、心で強く呼んでみなさい」
おばあさんは、リリイに優しく語りかけた。
「うん」
リリイは頷くと目を閉じた。
集中しているようだ。
……すると、一瞬空から二つの光が落ちてきたような気がした……。
次の瞬間、リリイの前には、二人の男女が立っていた。
どうやら、お父さんとお母さんの霊が降りてきたようだ。
優しそうなお父さんと美人のお母さんだ。
「ロリイ!?」
「ロリイ……」
サリイさんとローレルさんが驚きの声を上げた。
どうやらリリイのお母さんは、ロリイという名前らしい。
「兄様!」
「ダグラス様……?」
今度はアグネスさんとタマルさんが、驚きの声を上げた。
リリイのお父さんは、ダグラスさんというようだ。
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