952.二つの、使い人スキル。
「リリイ、お母さんよ。大きくなったね。ごめんね、一緒にいてあげれなくて……」
「リリイ、立派に育ってくれてありがとう。お父さんだよ。愛する娘……リリイ……」
降霊されたかのように現れたリリイの両親の霊が、リリイに声をかけ、寄り添った。
やはり立体映像のようなかたちで、実体がないので触れることができない。
「お母さん……お父さん……」
「「リリイ」」
両親の霊は、しゃがんでリリイを抱きしめるような形になっている。
実体はないが、暖かいオーラのようなものに包まれている感じが、見ていてもわかる。
「リリイは、『死霊使い』のスキル精霊から選ばれて、宿主になったんだよ。今、スキル精霊が私に話しかけてくれているの。その力を使えば、魂の世界にいる人を一時的に呼び降ろすことができるそうよ。現世に残された人たちの心を、救うことができる力だって。成仏できないで死霊となっている魂を、救うこともできるそうよ。死霊型のアンデッドを使役したり、浄化することもできるって。多くの人、多くの魂を救って欲しいって言ってる。リリイならできる、だから選んだんだって」
最初に現れたリリイのひいお婆さんであるケリイさんが、リリイに話して聞かせている。
どうやら『死霊使い』のスキル精霊が、ケリイさんに話しかけているらしい。
そのこと自体もすごい驚きだが、それ以前にリリイが『死霊使い』スキルのスキル精霊に選ばれて、『死霊使い』になったようだ……。
『使い人』のスキルは、意志を持ったスキルと言われていて、そのスキル精霊が宿主を選ぶという話だったが、リリイが選ばれたらしい。
しかも……『死霊使い』スキルにだ……。
『死霊使い』スキルは、ピグシード城で弾き語りをした後、突然襲って来た吟遊詩人ジョニーさんが宿していた『使い人』スキルだ。
ジョニーさんは、『正義の爪痕』に捕まり、人格を書き換えられ道具にされてしまった被害者だった。
そして、吟遊詩人のアグネスさんとタマルさんの弟子になっているギャビーさんとアントニオくんのお兄さんでもある。
ギャビーさんとアントニオくんも、俺が助け出すまで『正義の爪痕』に監禁されていた被害者だった。
ジョニーさんが残した手紙には、自分が死んだら『死霊使い』のスキル精霊が離れ、新たな宿主に宿るかもしれない、そうなればその宿主が狙われる可能性もあるので、保護してほしいというようなことも書かれていた。
それがまさか今になって……リリイに宿るとは……
まだ詳しくはわからないが、ケリイさんの話によれば、『死霊使い』スキルは、死霊型のアンデッドを使役したり浄化するだけでなく、死んだ人の霊を一時的に呼ぶことができる降霊術のようなことができるらしい。
それだけで、すごい能力だ。
まぁ呼び出すには、何かの条件はあるんだろうけどね。
「グリムさん、どうぞこれからもリリイのことをお願いします」
「リリイを助けてくれて、ありがとうございます」
「これからも娘をお願いします」
突然、俺のところにリリイのひいおばあさんとお母さんとお父さんの霊が瞬間移動して来て、お礼を言ってくれた。
「はい、リリイは、私の大事な家族ですから、大切にします」
「本当にありがとう。グリムさん。私たちは、あまり長くいれないので……もう去ります。どうぞよろしくお願いします……」
「ばあちゃん、もう行っちゃうのだ?」
「ごめんねリリイ、あなたの『死霊使い』のスキルレベルが1だから、それほど長い時間はいれないの。でもあなたの力を使えば、いつでも話ができるから安心しなさい。でも死んだ私たちより、生きている人たちを大切にするのよ。だから呼び出すのは、時々にしなさいね、ふふ。またね、リリイ……」
ケリイさんは、優しく諭すようにリリイに言った。
「わかったのだ」
おばあさんとお母さんとお父さんの霊は、光の粒子が分散するように、ゆっくりと薄まり消えていった。
リリイとチャッピーもそうだが、集まってきたみんなも、呆然としながら消えゆく様を見つめていた。
そして自然と涙が流れていた。
みんなしばらく、そのままたたずんでいる。
俺は、もう一つだけ気になることを確認しておく……
リリイに『死霊使い』スキルが発現したことは、『波動鑑定』でも確認したが、さっき光の粒がチャッピーにも入っていた。
チャッピーを『波動鑑定』で確認する。
やはり……。
チャッピーにも『使い人』スキルが発現していた。
それは……『猛獣使い』というスキルだ。
『死霊使い』スキルもそうだが、この『猛獣使い』というスキルも『十二人の使い人』という英雄譚の中に出てくるスキルだ。
獣型の動物を使役できるスキルのようだ。
確か……『死霊使い』スキルと『猛獣使い』スキルは、『使い人』たちが敵味方に分かれて戦っていた時に、激しい戦いを繰り広げていた因縁のある『使い人』だったはずだ。
物語では……最終的に『死霊使い』が勝って『猛獣使い』は瀕死の状態になっていた。
十二人の使い人が全員揃い、協力をして最終決戦を戦うときには、パートナーのような感じで、信頼を寄せて協力して戦ったと語られていた。
そんな二つの『使い人』スキルが、リリイとチャッピーに宿ったのだ。
やはりこの子たちには……特別な使命のようなものがあるのかもしれない。
俺は、ここに集まっているみんなに、リリイとチャッピーに『使い人』スキルが発現したことを説明した。
もちろんリリイとチャッピー本人たちは、自分にスキルが発現したことはわかっている。
今度、リリイとチャッピーと一緒に、この二つの『使い人』スキルについて、ゆっくり検証する時間を作ろう。
リリイに発現した『死霊使い』スキルは、だいぶ特殊な『使い人』スキルのようだし、チャッピーに発現した『猛獣使い』スキルも、わからないことが多いからね。
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