950.告げられた、真実。
「わぁ、サリイお姉ちゃんたちがいるのだ!」
「やったー! うれしいなの〜」
「あれれ、ローレルおばちゃんたちもいるのだ!」
「ほんとなの〜。大好きなの〜」
「アグネス先生とタマル先生まで、集合しているのだ!」
「先生たちに会えて、嬉しいなの〜」
部屋に入って来たリリイとチャッピーが、ここにいる皆さんを見て、驚きの声を上げた。
『アメイジングシルキー』のサーヤに頼んで、二人を転移で連れて来てもらったのだ。
二人の出自にまつわる真実を告げるために、呼んだのだ。
「リリイ、チャッピー、二人に大事な話があるんだ。落ち着いて聞いてくれる?」
俺はそう言って、二人の頭を撫でながら椅子に座らせた。
「うん、わかったのだ」
「いつでもオッケーなの〜」
「だいぶびっくりする話だろうけど、ゆっくり話すから、まずは黙って俺の話を聞いてくれるかい?」
「うん」
「はい」
二人は、いつになく真剣な俺の雰囲気を察してゴクリと唾を飲み込み、コクリと頷いた。
俺は二人に、今聞いた真実をゆっくりと丁寧に話して聞かせた。
○今から七年前に『アルテミナ公国』でクーデターがあり、当時の国王や王妃が殺害されたこと。
○その娘が、実はリリイであること。
○リリイが一緒に暮らしていたおばあさんと呼んでいたケリイさんは、実はリリイのひいおばあさんで、リリイを連れて逃げ出し、隠れ住んでいたこと。
○公国では、リリイは死んだと思われていること。
○『フェアリー商会』の幹部で元冒険者のサリイさんは、リリイのお母さんの姉で伯母にあたること。
○『狩猟ギルド』のギルド長をしてくれている元冒険者のローレルさんは、亡くなったリリイの母親の母親つまりおばあさんの姉にあたる大伯母であること。
○ローレルさんの妹であるリリイのおばあさんも、リリイを助けるために、お母さんと一緒に命を落としたこと。
○サリイさんとローレルさんは、公国の監視対象になっていたので、リリイとひいおばあさんに会いに行くことができず、使いの人が時々物資を届けていたこと。
○不可侵領域の家にリリイがいなくなったことに気づいたサリイさん達は、必死に探して俺のところにいるリリイを見つけ出したこと。
○そして公国の監視がある中、『コウリュウド王国』の『マグネの街』にやって来て、リリイを見守るために『フェアリー商会』に入社したこと。
○国を出たサリイさんに対して、公国が特に問題視した様子を見せなかったので、ローレルさんも仲間とともにリリイを見守るために『コウリュウド王国』にやって来たこと。
○吟遊詩人のアグネスさんは、本当の名前をトワイライト=アルテミナといい、リリイの父親である前公王の妹でリリイの叔母にあたること。
○アグネスさんも七年前のクーデター事件の時に命を狙われ、その当時からパートナーだったタマルさんと一緒に国を出て、名前を変えて吟遊詩人として生きてきたこと。
○たまたまピグシード城でリリイとチャッピーを見かけ、リリイが自分の姪だと気づき、見守るために『フェアリー商会』に入ったこと。
○タマルさんは、チャッピーの父親の妹でチャッピーの叔母にあたること。
○チャッピーの村である『バディード村』は、亜人の村の中で中心的な村で、由緒ある村であること。
○その村長の孫であるチャッピーは、由緒ある出自で、『アルテミナ公国』で有名な英雄譚『英雄女王と月光の勇者タマ』に出てくる猫亜人の勇者タマの直系の子孫であること。
○今までサリイさん、ローレルさん、アグネスさんたちが、親族だとリリイとチャッピーに名乗らなかったのは、二人の幸せを考えて見守るためだったこと。
○二人が大人になって知りたいと思ったときには、教えてあげようと思っていたこと。
○隠していたその真実を明かしたのは、これから俺たちが『アルテミナ公国』に行くと知り、リリイとチャッピーが危険にさらされるのではないかと心配したからであること。
○ここに集まっている人たちは、リリイとチャッピーの血縁者とその友人で、二人を大事に思ってくれている人たちであり、リリイとチャッピーはみんなに愛されているということ。
○そして、リリイとチャッピーとずっと一緒にいられるように、俺の『絆』メンバーになってくれたこと。
……そんなことを、ゆっくりと二人に話して聞かせた。
途中二人は、驚きの声を上げたり、大粒の涙を流したりしていた。
「リリイ、ごめんね……今まで名乗り出なくて……うぅ」
「ほんとにごめんよ、リリイ……びっくりしただろう?」
「リリイ、本当に驚かせてごめんなさい。でもやっとあなたを、思いっきり抱きしめられるわ……」
サリイさん、ローレルさん、アグネスさんがそう言って、涙を浮かべながら、順番にリリイを抱きしめた。
リリイは、嗚咽しながら泣いている。
言葉は出ないようだ。
「チャッピー、ごめんね。今まで本当のことを話さなくて。私はあなたの家族よ、大好きよ」
タマルさんもそう言って、チャッピーを強く抱きしめた。
チャッピーは、只々泣いている。
二人が落ち着くまで、俺たちは、静かに見守った。
というか……他のみんなも泣いていたし、俺の涙腺はあっさりと決壊していた。
ニアやサーヤは、涙を流す程度で抑えていたけど、心がおじさんの俺は、こういうシーンに弱いので、嗚咽してしまっていたのだ……。
大人の俺が聞いても混乱するような内容だったが、二人はよく理解してくれたようだ。
リリイとチャッピーも、ここに集まっている人たちが元々大好きだったから、今はびっくりしているかもしれないが、血の繋がった家族とわかって嬉しいはずだ。
ただこの嬉しい真実の知らせは、同時に悲しみの記憶も喚起してしまう。
リリイは、ずっと一緒に住んでいた亡くなったひいおばあさんのことを思い出しただろうし、ほとんど記憶にない父親や母親やおばあさんという亡くなった人たちにも、思いを馳せただろう。
チャッピーは、最近まで一緒に暮らしていた両親や祖父や村の人たちのことを思い出したに違いない。
おそらく今の二人の涙には、喜びだけではなく、深い悲しみの涙も混ざっているのだと思う。
「リリイ、チャッピー、これからは、ここにいる皆さんと会いたいときに、いつでも会っていいし、いっぱい甘えていいからね」
俺は、二人の頭を撫でながら、そう声をかけた。
二人は、コクリと頷いた。
「ここにいる皆さんは、リリイとチャッピーが『アルテミナ公国』に行くことを心配してくれているけど、どうする?」
俺は、二人の意思を確認した。
八歳とまだ幼いが、しっかり自分の意思を持っているし、幼いなりの判断ではあったとしても、その気持ちを尊重してあげたいのだ。
「もちろん行くのだ! グリムが行くところは、リリイも行くのだ! 故郷なら尚更なのだ。悪い悪魔は、リリイがゴッチンとやっつけちゃうのだ!」
「チャッピーも行くなの〜。ご主人様とはいつも一緒なの〜。リリイとチャッピーは運命の二人なの! 二人で人々をいじめる悪い大人や悪魔をやっつけちゃうなの!」
二人は泣いて真っ赤になった目に、強い決意を宿らせながら、俺の顔を見た。
「よしわかった。じゃあ一緒に行こう!」
俺が二人にそう声をかけると、周りの皆さんも納得したように頷いてくれていた。
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