949.堂々と入国する、作戦。

「旦那様、オカリナさんをお連れしました」


 『アメイジングシルキー』のサーヤが、元『怪盗イルジメ』で『後天的覚醒転生者』でもあるオカリナさんを連れて来てくれた。


 俺がサーヤに頼んで、転移で連れて来てもらったのだ。


 オカリナさんの元攻略者仲間である『ハーフエルフ』のハートリエルさんが、『冒険者ギルド』の副ギルド長をしているだけではなく、レジスタンス組織のリーダーであるという事実が判明した。

 そして、同じく仲間だった『鬼人族』のシュキさんも、レジスタンス組織に入って助けているということがわかった。


 これらの事実を、オカリナさんにも教えてあげようと思って呼んだのだ。


 そのオカリナさんと一緒に、攻略者仲間だった『コボルト』のブルールさんも来ている。


 俺たちと一緒に『アルテミナ公国』に行くために、合流する予定だったが、到着していたようだ。

 サーヤが機転をきかせて、一緒に連れてきてくれた。


 俺は、オカリナさんとブルールさんに今まで聞いた話をかいつまんで説明した。


「ハートリエルがレジスタンス組織のリーダーをしているなんて……驚きました。そして、それをシュキが手伝っていたとは……」


「やはりシュキは、ハートリエルと一緒に行動しているんですね。今から会いに行くのが楽しみです」


 オカリナさんとブルールさんが驚きながらも、笑みを浮かべた。

 詳しい消息が知れて嬉しいようだ。


 二人は、ここにいるメンバーに改めて挨拶をして、ハートリエルさんやシュキさんの話を、もう少し訊いていた。



 そんな話が一段落したところで、年長者のローレルさんが代表して俺のところに来た。


「グリムさん、今後の『アルテミナ公国』での活動に、私たちも協力させていただけないでしょうか?」


「ありがとうございます。それは助かりますが……ただローレルさん達やサリイさん達は、再び『アルテミナ公国』に戻ったら、監視を付けられる可能性がありますよね? それにアグネスさんは、顔を覚えている関係者もいるでしょうから、かなり危険だと思いますが……」


「確かに……その懸念はおっしゃる通りです。今の状況を見る限り、私たちやサリイたちは監視対象から外れていますが、戻れば再度監視対象になる可能性はあります。アグネスさんも、死んだはずの王女だと気づかれる可能性はあります……」


 ローレルさん達は俺の指摘にうなずきながら、考え込んでしまった。

 自分の祖国でもあるし手伝いたいという気持ちと、逆にそれが公国の目をひいてしまうというジレンマを感じているようだ。


「皆さんのお気持ちはよくわかりますが、一旦は私たちに任せてください。いざという時になったら、先ほど説明したように、すぐに呼び寄せることもできますし、転移の魔法道具も貸し出そうと思っていますので、影のサポートメンバーになってもらうのが、一番いいと思いますが……」


 俺のそんな提案を受けて、みんなで話し合った結果、了承してくれた。


「必要なときに、いつでも力になれるように、我々自身のレベルと実力を高めておきます」


 代表してローレルさんがそう言って、みんなが頷いた。


 『アルテミナ公国』に入っても、様々な状況を確認しながら事を進めなければならない。

 また、すぐに悪魔の根城が発見できるとも思えない。

 腰をすえた長期戦になる予感がしている。

 そこで、ここにいるみんなには、その間特訓で強くなってもらって、重要な局面で活躍してもらおうと思っている。

 自分の祖国の事なので、直接関わりたいという気持ちはよくわかるからね。


 ちなみにリリイは、一歳の時に公国を去っているから、顔でばれるということはないだろう。

 チャッピーは、亜人というだけで狙われる可能性はあるわけだが、冒険者の中には亜人も数多くいて、その人たちは公国に狙われているわけではないらしい。

 さすがに冒険者に対して、表立って酷いことはしていないようだ。

 それ故に、冒険者として活動すれば、大丈夫だろう。


 それに、まだリリイとチャッピーが『アルテミナ公国』に行くと確定しているわけではないけどね。


 あの子たちに話をして、危険を伴う故郷に行くかどうかを判断してもらう予定なのだ。


 リリイとチャッピーは、本人が希望するなら連れて行こうと思っているが、それ以外は最低限のメンバーにしようと思っている。

 今までパーティーメンバーとして行動を共にしてきた仲間は、みんな来たがるとは思うが、今回は公国にマークされる可能性もあるので、最低限の人数にすることにしたのだ。

 必要とあれば、いつでも呼び寄せることができるし、仲間たちもそれをわかっているので、大きく残念がるということはないだろう。

 というか……表向き入国するメンバーを最低限にしても、拠点を作ってしまえば、夜にはみんな転移で集まって来て、いつもの大人数になりそうな気がするけどね。

 そんな予感は……100%だ。


 『アルテミナ公国』への入国にあたっては、最初は変装して別人になって入り込もうと思っていた。

 だが、なんとなく長丁場になる予感がするので、別人としてずっと過ごすのは面倒くさいという気持ちになってしまった。


 そこで考えた作戦が、妖精女神とその相棒である俺が、実力を磨くために迷宮で特訓をするというストーリーだ。

 セイバーン公爵領を襲った犯罪組織『正義の爪痕』を壊滅させた俺が、『光柱の巫女』の神託に記された『救国の英雄』であるということは解禁している情報なので、周辺国にも知られている可能性が高い。

 それを逆手にとって、『救国の英雄』が今後の為に、更なる力をつけるべく、効率よくレベル上げができる迷宮で特訓するという筋書きだ。

 英雄譚などでも、勇者が更なる力をつけるために、迷宮にこもって特訓するというストーリーはよくあるらしいからね。


 こういうストーリーにして噂を流せば、グリム=シンオベロン名誉騎士爵として『アルテミナ公国』に入れるわけなのである。


 『アルテミナ公国』の迷宮には、周辺国の王室の人間や貴族たちも訪れたりするようで、決して珍しいことではないらしい。

 国によっては、騎士団や特殊部隊を派遣して、迷宮で訓練させるということも行われているそうだ。


 そんな王族や貴族や騎士たちは、迷宮に挑む為に長期に滞在していても、特に問題視はされないらしい。

 『アルテミナ公国』の公王に、わざわざ挨拶に行かなくても、失礼にはならないということだ。


 サーヤが、『フェアリー商会』に入っている元冒険者たちから、そんな情報を得てくれていたので、偽らないで堂々と入国する作戦に切り替えたのだ。


 最初はニアも、人型になって妖精族とわからないように入ろうと考えていたが、妖精女神のニア様として、俺と一緒に迷宮に挑むというストーリーにした。


 『コウリュウド王国』にも、大きな迷宮があるのに、わざわざ他国の迷宮で特訓をするというのを不自然に思われる可能性もあるので、その点についてもストーリーを用意してある。

 ニアと俺の本拠地であるピグシード辺境伯領からは、『コウリュウド王国』の迷宮都市よりも『アルテミナ公国』の迷宮都市のほうが近いということと、俺のやってる『フェアリー商会』には元冒険者が数多くいて、『アルテミナ公国』の迷宮を勧められたというストーリーにした。

 この話も、噂として流すことにしている。


 俺のパーティーメンバーの中で、入国するときに一緒に入るのは、今のところニアだけだ。

 それに、リリイとチャッピーが希望する場合には加わることになる。

 したがって、多くて四人ということになる。


 ただそれとは別に、同行するメンバーが、何人かいる。


 依頼品を届ける必要がある『コボルト』のブルールさんと、今日は初めて会ったが俺の『絆』メンバーにもなったアイスティルさんだ。

 彼女は、『アルテミナ公国』でレジスタンス活動をしているので、戻る必要がある。

 そこで、道案内を買って出てくれたのだ。


 あと場合によっては、『闇オークション』で保護した狼亜人の親子ベオさんとセレンちゃんも連れて行ってあげようと思っている。

 ベオさんは、離れ離れになってしまった奥さんともう一人の娘さんを探したいという希望があるからね。

 まぁ、安全を考えれば、俺たちが入国して落ち着いてから、呼び寄せたほうがいいだろうが。

 亜人の村の生き残りの人たちは、難癖をつけて捕獲されているようだから、ベオさん達の顔を見て生き残りだと気づかれる可能性もあるからね。


 それから、『アルテミナ公国』出身の冒険者パーティー『美火美びびび』のメンバーとその保護者的な立場の『ヨカイ商会』会頭のメーダマンさんも、一度は『アルテミナ公国』に帰って、今後どうするかを含めて整理をしたいという事だった。

 一緒に行こうかとも思っていたのだが、この人たちには、同時に保護した奴隷にされていた冒険者たちと共に、先に帰ってもらった。

 サーヤに、ピグシード辺境伯領『マグネの街』まで転移で送ってもらったのだ。


 俺たちと一緒に入国すると、もしかしたら公国に目をつけれるかもしれないので、別々に行動した方が良いと考えたのだ。


 彼らは、俺が迷宮都市に行った時に、活動拠点に出来るような物件などを探しておいてくれると申し出てくれたので、密かに合流しようと思っている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る