935.情けは、人の為ならず。

 夕方になって、俺は『フタコブ島』に来ている。


 犯罪奴隷として収監されていた『監獄島』から救出した元『護衛請負専門商会マモリヤス』の会頭さんと、一緒に収監されていた商会メンバー十九人を連れて来ている。

 ちなみに彼らの奴隷契約は、俺の『契約魔法——奴隷契約』で、解除してあげた。


 この二十人は、濡れ衣とは言え収監されていた囚人なので、当然『ペルセポネ王国』では指名手配がかかるだろう。


 そこで、外部から人が来ることのないこの島で暮らしたほうが安全だと考え、連れて来たのだ。


 それにここのリーダーは、『ペルセポネ王国』出身で領民から人気があったシレーヌ侯爵家令嬢のアルビダさんだから、みんな安心すると思ったのだ。

 まぁ実際は……憧れの人と一緒にいれるから、大喜びという状態っぽい。


 アルビダさんを含めた海賊団のみんなは、東小国群の情報を集めるために、すでにこの島を出ている。


 連れて来たみんなにとっては、お預け状態だが、いずれ会えるのだからいいだろう。


 俺は、村長となったリョウシンさんに事情を説明し、ここで世話をしてもらうことにした。


 脱獄したかたちとなっている二十人には、ほとんどの人に家族がいて、その人たちも『ペルセポネ王国』の『セイレン市』から連れ出してきている。

 その家族七十三人も、この島に住みたいという事だったので、総勢で九十三人になった。


 元々この『フタコブ島』にいた人たちは、村に残っている人が三十九人、海賊団として活動している人が四十二人で、総勢八十一名だった。

 規模としては、小さめの村程度だったが、今回九十三人が加わり、百七十四人となったことで、かなり大きな村になった。


 この『フタコブ村』の人達は、『フェアリー商会』の社員となってくれて、今後、漁や貝類の養殖や山葡萄のワイン作りなど、様々なことを行っていくことになっている。


 そのうち人手が足りなくなるだろうと心配していたのだが、これで当面人手の心配をする必要はなさそうだ。



 俺は、保護した皆さんをここに連れてくる前に、助け出すに至った経緯の説明と今後の提案をした。


 今後の提案というのは、どうやって生活をしていくかということだ。

 まぁ事実上、『フェアリー商会』への勧誘だけどね。


 本当なら先行して『フェアリー商会』のメンバーになってくれているヤスさん達と一緒に、長距離乗合馬車事業をやってもらうのが一番いい。

 だが、万が一『ペルセポネ王国』の関係者や諜報員などがいて、『監獄島』から消えた囚人だと認識されると面倒くさいことになるので、安全を考え『フタコブ島』で暮らすことを提案したのだ。


 みんな快く了承してくれた。


 この時も、大きかったのアルビダさんの存在だ。


 アルビダさんは、『ペルセポネ王国』の『接海領せっかいりょう』を治めるシレーヌ侯爵家の長女なわけだが、領都である『セイレン市』では、人気が高かったとのことだ。


 『護衛請負専門商会マモリヤス』の人たちは、『セイレン市』の人たちなので、アルビダさんのもとで働けるのなら、ぜひお願いしたいと口を揃えて言っていた。


 そして『フェアリー商会』で長距離乗合馬車事業で働くヤスさんたちや、ピグシード辺境伯領に仕官してくれたケンナさんたちも、少し羨ましそうな表情になっていた。


 本当は、この人たちもアルビダさんのもとで働きたいのかもしれないと思ったが……そこはスルーしてしまった。


 変に俺がそんな言葉をかけたら、本人たちも迷いを生じてしまうだろうからね。


 それにアルビダさんと会ったり交流したいという事なら、いつでもできるわけだし。


 まぁピグシード辺境伯領に仕官してくれた四人の子たちは、頻繁に会う事は難しいかもしれないけどね。


 迎え入れる村の人たちは、『コウリュウド王国』のコバルト領の『ミルト市』の出身だが、快く受け入れてくれた。


 九十三人のうち、二十人はもともと護衛をしていた腕自慢の人たちなので、アルビダさんの率いる『自由の旗海賊団』に入りたいと言っていた。

 残りの人たちは、村に残って『フェアリー商会』の仕事をすることになる。


 俺は、この人たちのために『フタコブ村』を拡張し、ログハウス型の仮設住宅を設置し、ついでに『フェアリー商会』の施設も建ててしまった。

 加工品の作業場や大型倉庫などである。


 前に作った外壁も一度撤去して、今までの三倍くらいのスペースに広げた。


 島の木をいくつか伐採し、地面をならしたりしたので、若干の自然破壊的な感じにはなってしまった。

 俺としては少し胸が痛いが……島全体の面積からすれば、ほんの少しなのでよしとしておこう。



 それから長距離乗合馬車事業で働いてくれるヤスさんたち十六人とその家族は、『コロシアム村』に住んでもらうことにした。

 それはいいのだが、連れ出してきた家族というのが九十九人にもなっていた。

 人数の多い家族ももちろんあったわけだが、それだけではなかった。


 本来は純粋な同居していた家族だけを連れてくる予定だったのだが、親戚や友人など一緒に行きたいという人が結構いて、その人も連れて来てしまったということだった。

 まぁ特別問題があるわけではないけどね。


 最初はヤスさんたちに、長距離乗合馬車事業の起点となっている『領都セイバーン』に住んでもらおうと思っていた。

 だがかなりの大人数になったこともあり、『コロシアム村』の住民になってもらうことにしたのだ。


 『コロシアム村』は、住民を絶賛募集中だし、仕事もいくらでもある。

 家族の人たちも希望するなら、働いてもらおうと思っている。


 それに長距離乗合馬車を稼働させる場所の一つが『コロシアム村』なので、『領都セイバーン』にこだわらなくても仕事ができるのだ。


 今ヤスさんたちは、家族と共に『コロシアム村』の当てがわれた家で休んでいる。

 移住してくる人のための家は、十分に用意してあるので、すぐに入居してもらったのだ。


 みんな元々住んでいた家より良いと、大喜びしていた。


 当面社宅という感じで、ほんの少しだけ家賃をもらい、ゆくゆくは……自分の家にしたい場合は、低価格で販売してあげたいと思っている。



 こんな感じで、今回助けた人たちは落ち着いた。

 無実の罪で捕われた人たちとその家族を助けたことは、俺にとってありがたいかたちで落ち着いた。


 今後の人手不足を懸念していた『フタコブ島』の人材が多く増えたし、女海賊アルビダさんを助けてくれる海義賊の戦力も増えた。

 そして『コロシアム村』の住人も、増えたのだ。

 やはり……『情けは人の為ならず』ということのようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る