934.チートな、脱獄。
俺は、『ペルセポネ王国』近海の沖合にある『監獄島』の上空にいる。
飛竜船の上から、下の様子を眺めているのだ。
無実の罪で捕らえられた『護衛請負専門商会マモリヤス』の会頭とスタッフたちを救出するためである。
一緒に連れてきているのは、元商会のメンバーで、今はピグシード辺境伯領に仕官してくれたケンナさんとヤリンさんだ。
彼女たちには、ここに収監されている人たちの中から、商会のメンバーを識別してもらうために、来てもらった。
少数精鋭で俺の仲間も連れてこようかと思ったが、一旦俺一人で来た。
隠密行動をするので、一人でも充分という判断をしたのだ。
もし助っ人が必要な場合は、俺の『職業固有スキル』の『集いし力』を使って、いつでも呼び寄せることができるからね。
このスキルは、『救国の英雄』としての『職業固有スキル』で、念話が通じる相手をいつでも俺のところに転移させることができるのだ。
そして同時並行で『ペルセポネ王国』の『セイレン市』で、商会メンバーの家族たちの救出作戦も行われている。
そっちは、商会の仕事頭だったヤスさんと俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが向かってくれている。
ナビーも単独任務だ。
できるだけ人数が少ない方が良いと判断した。
そしてナビーは、俺の分身なので俺の持っているスキルを全て使えるから、ナビーも『集いし力』を使える。
だから必要な状況になれば、仲間たちをいつでも転移で呼び寄せることができるのだ。
この同時並行の救出作戦で使うのは、『箱庭ファーム』の魔法道具だ。
『箱庭ファーム』は、専用の亜空間に、魂のある生き物も一時的に入れておける道具なので、救出した人たちに一旦入ってもらって運ぼうと思っている。
こういう密かな救出任務には、最適の道具なのだ。
だからスムーズに見つけることさえできれば、救出に要する人手はほとんど要らないのである。
ナビーたちのほうは、バラバラにいるメンバーの家族たちを効率よく探すことがポイントであり、その鍵を握っているのはヤスさんだ。
半日あれば、なんとかすべての家族を見つけ出せるということだった。
俺のほうは、半日も時間がかからないので、こっちの任務が終わったら、状況次第で応援に向かおうと思っている。
こっちの任務は簡単だ。
お昼の休憩時間には、犯罪奴隷たちがみんな施設の中に入って休憩するので、そこを急襲して救出するつもりだ。
急襲すると言っても暴れるわけにはいかないので、いつものように『隠れ蓑のローブ』を使って姿を消し、密かに近づいて『状態異常付与』スキルで、全員に『眠り』を付与しようと思っている。
その後ゆっくり、ケンナさんとヤリンさんに人相を確認をしてもらい、商会関係者を『箱庭ファーム』に入れるという段取りだ。
『監獄島』の要所には護衛兵が立っているが、あえてそのままにして、建物の内部で邪魔になる兵士だけを眠らせようと思っている。
わざと護衛兵をそのままにしておくことによって、島に侵入者がいなかったということと、誰も出ていかなかったはずだと証言させるのだ。
これがうまくいけば、知らない間に何人かが煙のように忽然と消えていたという状態になるはずである。
そのような、まさに神隠しにあった状態と思わせることを狙っているのだ。
できれば脱獄したのではなく、原因不明で突然消えて、全く訳がわからないという状態になってくれるといいと思っている。
それでは……早速ミッションスタートと行きますか!
ケンナさんとヤリンさんに飛竜船に待機してもらって、俺だけが飛竜船から飛び降りた。
二人は、制圧してから呼びに来る予定だ。
『飛行』スキルを持っているので、自由に空を飛べるのだが、『飛行』スキルは一般には秘匿しようと思っているので、『コロシアム村』での戦いの時に大活躍した『ハイジャンプベルト』を身に付けて、飛び降りた。
これで二人は、魔法道具の力で飛んでいると思うはずだ。
実際、『飛行』スキルを使わなくても、この『ハイジャンプベルト』で十分なのだ。
かなり操作に慣れたので、『飛行』スキルを使うのと同じように、自由に動ける。
俺は、『隠れ蓑のローブ』を使って姿と気配を消し、建物内に侵入した。
本当は『隠密のローブ』の方が高性能なのだが、いつもの癖で『隠れ蓑のローブ』を使ってしまうんだよね。
波動情報を検知される危険がある場合以外は、『隠れ蓑のローブ』で充分だからね。
『隠れ蓑のローブ』と『隠密のローブ』の実際の違いは、波動情報まで誤魔化せるかどうかという程度なのだ。
俺は、牢内で昼寝の態勢になっている囚人たち全員と、牢の見張りの兵士を『状態異常付与』スキルの『眠り』で眠らせた。
もう寝ていた囚人もいたが、念のため全員にスキルを使った。
すぐに飛竜船に戻り、ケンナさんとヤリンさんを抱きかかえて、再度降りてきた。
そして寝ている囚人たち全員の顔を確認して、商会の仲間をドンドン『箱庭ファーム』に入れた。
最後に残した会頭さんは、『眠り』を解除して起こした。
「わぁ、むぐうぅ……」
突然のことに驚いて声を上げそうになったので、俺が慌てて手で口を押さえた。
そしてケンナさんたちの顔を見せて、助けに来たことを小声で伝えた。
そしていくつかの簡単な質問をさせてもらった。
これは、本当に無実かどうかを確認するためだ。
ケンナさんたちやヤスさんを信用しないわけではないが、万が一ということがあるので、確認させてもらった。
俺には、第一王女のクリスティアさんのように『強制尋問』スキルは無い。
だが『虚偽看破』スキルを持っているので、質問をして、それに対する答えが嘘かどうかは判定できるのだ。
いわば嘘発見器のようなことができるのである。
このスキルだけで、かなりの事は判定できるのだ。
そして俺の質問に対する答えを確認して、無実であることを確かめることができた。
これで問題なく救出できる。
俺は、会頭さんに事情説明して、『箱庭ファーム』の中に入ってもらった。
そしてすぐに『監獄島』を脱出した。
映画やドラマなんかで見ていた脱獄ものの気分を味わえるかと思ったが……全く味わえなかった。
そもそも俺が脱獄する側じゃないし……脱獄のやり方がチートすぎて……ほぼスリルがないからね……残念。
◇
ナビーとヤスさんは、無事に任務を果たし、『護衛請負専門商会マモリヤス』のメンバーの家族を連れ出してきてくれた。
大きな問題もなく、スムーズに救出作戦は終了したようだ。
思ったよりも、短時間で終わってくれた。
これには訳があって、逃げ出した人たちの家族は念のため身を潜めているという話だったが、実際行ってみると捕まった人たちの家族も逃げ出して、下町の空き倉庫に隠れていたのだそうだ。
家族同士でお互いに連絡を取り合って、助け合っていたらしい。
そのおかげで、短期間で全ての家族の居場所を見つけることができたようだ。
俺たちは、一旦、セイバーン公爵領『ウバーン市』に戻った。
『ウバーン市』に残っている商会のメンバーが、仲間や家族が戻ってくるのを心待ちにしているだろうからね。
救出に出発する前に、『フェアリー商会』の『ウバーン支店』になる予定の建物を開放して、そこで待ってもらっているのだ。
ユーフェミア公爵が用意してくれた物件で、まだ稼働できていないのだが、居抜きで建物があるのでそこを使うことにした。
俺たちが戻ると、皆キョトンとした顔で出迎えた。
俺とナビーと、ケンナさんとヤリンさんとヤスさん以外誰もいなかったからだ。
肝心の救出がうまくいかなかったと、誤解したようだ。
そこで早速、『箱庭ファーム』を展開し、連れ出してきた人たちを出してあげた。
みんな驚きつつも、お互いに駆け寄り、涙の再会を果たしていた。
少し落ち着いたところで、今後のことを話そうと思う。
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