933.無実の仲間の、救出依頼。

 俺の提案を受け、元『護衛請負専門商会マモリヤス』の皆さんは、二人を除き『フェアリー商会』に入社してくれることになった。


 除かれた二人……若い双子の姉妹ユーミンさんとヤーミンさんは、ピグシード辺境伯領に仕官してくれるのだ。


 商会と領の二つの人員が補充でき、俺としては大満足の結果だ。

 『ウバーン市』に足を運んだ甲斐があるというものだ。


 その話が終わった後で、みんなを取りまとめている元仕事頭だったヤスさんが、俺にいい辛そうに相談を持ちかけた。


『ベルセポネ王国』で摘発され捕まった会頭や他のメンバーを助ける方法はないかという相談だった。


 自分たちは今後の生活のメドもついたが、無実の罪で捕まっている他の仲間たちのことが、気がかりでしょうがないのだろう。

 自分たちだけが助かって、知らないふりをして生きていくのが申し訳ないという気持ちもあるのかもしれない。


 その気持ちは、よくわかる。

 俺がその立場でも、申し訳ないという気持ちに苛まれると思う。


 話を聞いたときに、俺も引っかかってはいたのだ。

 本当に無実ならば、やはり助けてあげたい。


 だが……事はそう単純ではない。

 別の国だし、下手に騒ぎを起こせば、国際問題になりかねない。


 どうしたものかと少し考えたが……すぐに、考えてもしょうがないという結論になった。

 まともなやり方で助けてあげることは、かなり難しいだろう。


 領主であるシレーヌ侯爵に事情を説明してみるという手もあるが、その時点で外交問題になりそうだ。


 またそのシレーヌ侯爵は、『フェアリー商会』の仲間になってくれた女海賊アルビダさんの父親でもあり、アルビダさんは家を出奔してきているので、とても複雑な状況だ。


 仮にシレーヌ侯爵が、アルビダさんのように、まともな人間性を備えた人だったとしても、やはり複雑な問題が発生する事は間違いない。


 こういう場合は……いつもの裏技を使うしかない。


 こっそり潜入し、助け出すしかないよね……。


「分りました。なんとか助けましょう。ただ正面切って事を起こすと国際問題にもなりかねないですし、話を聞く限りうまくいくとも思いません。私の仲間たちを使って、密かに救出するしかないでしょう」


 俺は、不安げな表情で見つめているヤスさんにそう答えた。


「本当ですか!? グリム様……ありがとうございます! 妖精女神の使徒様たちが、助けてくださるのですか?」


 ヤスさんは、涙を浮かべている。

 他のみんなも、俺に向かって膝をついて頭を下げた。


「無実の罪で酷い目に遭っている人を、見過ごすわけにはいきませんからね。どうやって救出するか考えたいので、知っている限りの情報を教えてもらえますか?」


 俺はそう言って、情報を聞き出した。


 それによると……捕まったメンバーは、経過した日数から考えて、おそらく『監獄島』と呼ばれている島にいるのではないかとのことだ。


 ヤスさんが言うには、さすがに処刑はされていないだろうから、犯罪奴隷の収容施設である『監獄島』に移された可能性が高いとのことだ。

 犯罪奴隷として『監獄島』に送って労働力にした方が、役立つという判断をするはずだとのことである。


 『監獄島』というのは、『ペルセポネ王国』近海の沖合にある島なのだそうだ。

 この島では、銀やいくつかの宝石が採れるらしい。

 犯罪奴隷たちの収容所になっていて、強制労働として採掘作業をさせているのだそうだ。


 警備は極めて厳重とのことだ。


 ただヤスさんの話によれば、『監獄島』では長時間働かせるために、昼の暑い時間は強制的に昼寝をさせるらしい。

 日が昇ると同時に作業をさせて、昼の暑い時間に二時間程昼寝をさせ、また日が暮れるまで働かせ、その後は施設の中で選別作業などをさせるのだそうだ。

 ヤスさんは、『監獄島』の警備兵をしていたという人に、酒場で聞いたことがあって、覚えていたらしい。


 まだ午前中の時間帯なので、昼の休憩時間には充分間に合いそうだ。


 善は急げで、このまま救出してきてしまうか……。


 そう思っていたら、もう一つ頼まれた。


 ここにいるメンバーの中で、家族がいる者は家族も連れてきたいという話だった。

 救出するときに一緒に、連れてくることができないかというのである。

 俺たちに申し訳ないという気持ちが強いようで、ものすごく言い辛そうにしていた。


 確かに家族のことが心配だろう。

 念のため家族も身を隠しているという事なので、早く連れ出してあげたほうがいい。


 それに、『監獄島』で強制労働をさせている人たちを助けたとしても、その家族に害が及ぶ可能性があるから、家族も助け出さないと危ないだろう。


 突然『監獄島』からいなくなったら、家族のところに探しに行くだろうし、危害を加えられる可能性があるからね。


 そう考えると、思ったよりも大掛かりなことになったが……仕方がない。


「あの……もし時間をいただけるなら、私が全員の家族たちを探してまとめます」


 ヤスさんが、そう申し出てくれた。

 ここにいるメンバーの家族が身を隠しているような場所は、大体察しがつくし、捕まってしまったメンバーの家族の家も把握している。

 仮に家にいなかったとしても、探す手段はあるとのことだ。


「どのぐらいの時間があれば、家族を集められますか?」


 俺はヤスさんに動いてもらう前提で、尋ねた。


「そうですね……長く活動していると、それだけ危険になりますので……半日で何とか集めます」


「分りました。それではこれから救出に行きましょう!」


 俺は、そう声をかけた。


 半日で何とか集めてくれるなら、今すぐ実行が可能だ。

 すぐ動けば、昼の休憩の時に救出し、その家族も危害が及ぶ前に助け出せるだろう。


「え、今からですか!?」


 ヤスさんは、驚きの声を上げた。

 他のみんなも、口をぽかんと開けている。


 俺は飛竜船の説明をして、空を高速で移動するからすぐに着けると説明した。


 本当は、転移の魔法道具が使えれば一番速いのだが、『ペルセポネ王国』には一度も行ったことがないので、転移先として登録されていないのだ。


 それでも、飛竜船を使って移動すれば、時間が掛からずに着くだろう。

 スピードも、目一杯出してもらうし。


 本当は……『高速飛行艇 アルシャドウ号』の方が速いのだが、アルシャドウ号の存在は原則として秘匿しておきたいので、今回は飛竜船にした。

 俺の計算では、飛竜船を使っても充分間に合うからね。

 まだ朝と言っていい時間帯だから、昼までには結構時間があるのだ。


 俺の仲間たちを何人か動員し、少数精鋭のチームを作って、一気に助け出してしまおう。


 救出ミッションスタートだ!


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