932.嬉しい、返事。

 ピグシード辺境伯領に仕官してくれたケンナさんとヤリンさんの紹介で、彼女たちが働いていた『護衛請負専門商会マモリヤス』の人たちと会うことができた。


 そして彼らの事情を聞き、三つの提案をした。


 一つ目は、事業を起こすなら事業計画を聞いた上で、資金援助をするというものだ。


 二つ目は、『フェアリー商会』に入社しないかというものだ。


 三つ目は、ピグシード辺境伯領に仕官しないかという勧誘である。


 みんなで相談したいというので、俺たちは席を外し待っている。



 少しして……話し合いが終わったようで、取りまとめているヤスさんを先頭に、俺たちのほうに歩み寄ってきた。


「グリム様、ぜひ『フェアリー商会』さんで働かせてください。先程の長距離乗合馬車事業というのは、とても面白そうで興味をそそられました。市町を結ぶということで、比較的短期間で帰って来ることができますし、途中に休憩所のようなものを作るというお話も聞き、素晴らしい事業だと感じました。我々の今までやってきたことが活かせるようですし、ぜひお願いしたいと思います」


 そんな嬉しい返答が来たが、一応確認を入れておく……


「ありがとうございます。ぜひお願いします。ただ……本当は独立して商売をやりたかったのではないのですか? もし私たちに気を遣って『フェアリー商会』に入ると言っているのでしたら、そんな気遣いは無用ですよ。自分たちで独立して商売をやるなら、快く応援しますから」


 俺は、そう言ってみた。


「はい、ありがとうございます。そう考えないこともなかったのですが……果たしてこの街でどれだけ需要があるかは分かりませんし、やはり新たな商会を切り盛りしていくのは、大変なことだと思います。都合の良い話ですが……私たちの今までの経験を活かして、充実感を持って働けて、それで安定した収入を得られるのであれば、そのほうがいいという皆の結論でした。『フェアリー商会』さんの評判も知っていますし、直接お話も聞かせていただいて、信頼できる素晴らしいところだと確信しました。この『ウバーン市』でも『フェアリー商会』ができると評判になっていて、働きたいと言っている人たちの声をよく耳にしていました。ケンナとヤリンのお陰で、お声掛けいただいた我々は、本当に幸運です」


「そうですか。わかりました。それでは、これからよろしくお願いします」


「はい、グリム様。それから……こちらの二人は、ピグシード辺境伯領に仕官したいという希望なのですが、お世話いただけますでしょうか?」


 そう言ってヤスさんは、若い女性二人を前に出した。


 実はオレもさっきから気になっていたのだが……双子なんだよね。

 一卵性の双子で、そっくりな顔をしている。


「「はじめまして」」

「ユーミンです」

「ヤーミンです」

「「よろしくお願いします」」


 双子ならではの見事なハモリで挨拶してくれた。


 そんな二人に話を聞くと、二人はケンナさんと同じ孤児院出身で、十九歳ということだった。

 二人とも弓が得意らしい。

 双子なのでそっくりな顔つきなのだが、よく見ると……ヤーミンさんの左目の下に泣きぼくろがある。

 髪色は二人とも青でポニーテールにしている。

 ただ髪色もよく見ると……ユーミンさんが薄い青で、ヤーミンさんが濃い青だ。

 若干の違いではあるが、髪色でも見分ける事はできそうだ。


 二人はケンナさん達に、武術大会に出ないかと誘われた時も、一緒に出場しようかとも思ったらしい。

 だが、得意な武器が弓ということで、武術大会には向かないだろうと考え、思いとどまったのだそうだ。


 そして『ウバーン市』で、弓の腕を活かした猟師の仕事をしようと考えていたとのことだ。

 実際近くの森に行って、狩りをやっていたらしい。


 だが昨夜ケンナさんとヤリンさんが訪れ、いろいろな話を聞いて、もし自分たちでもできるなら仕官したいと思ったとのことだ。


 アンナ辺境伯は弓の達人で、弓のできる人を集めたいと思っているようだから、喜ばれるのではないだろうか。


 どうも、女性だけの騎士団『華麗なる騎士団ブリリアントナイツ』は、全員弓が使えるようにしようと思っているっぽいから、かなりいいと思う。


 現時点で二人とも、レベルが24あるらしい。



 十八人残っていた元『護衛請負専門商会マモリヤス』の人たちから、この二人を除いた十六人は『フェアリー商会』に入社してもらうことになった。


 このうち二人は事務職で、残りの十四人は護衛の仕事ができる肉体派の人たちということである。

 四十代男性がヤスさんを含め三人、三十代男性が六人、二十代男性が三人、事務職をしていたという二人は二十代の女性だ。


『領都セイバーン』に移ってもらって、これから立ち上げる長距離乗合馬車事業の中心メンバーになってもらうことになった。


 まずは『領都セイバーン』と『コロシアム村』を含む『セイセイの街』を結ぶルートと、『領都セイバーン』と大きな港湾都市である『ウバーン市』を結ぶ二つのルートだけでも始めようと思う。


 人材が確保できたおかげで、すぐにでも始められる感じになった。

 『アルテミナ公国』に行く前に、準備を終わらせておこうと思う。


 ピグシード辺境伯領と同じように、街道沿いに休憩できる無人のサービスエリアのようなものをいくつか作り、途中宿泊する場所にはオートキャンプ場みたいなものを作る予定だ。


 利用者数が少ないので、人を配置することはできないが、施設だけでも作っておけば、快適に休憩したり泊まったりできるだろう。



「あのぉ……グリム様……無理なご相談だとは思うのですが……『ペルセポネ王国』で捕まっている会頭や商会の仲間を救っていただく方法はないでしょうか? 間違いなく濡れ衣なのです。さすがに処刑される事はないと思いますが……おそらく犯罪奴隷に落とされて、強制労働させられていると思います。二十人ぐらいは、捕まっているはずです。それを思うと……」


 ヤスさんが言い辛そうに、話を切り出した。


 確かに俺も、少し気になってはいた。


 聞いた話が本当なら、完全に無実の罪で捕われてしまったということだからね。

 できれば、何とか救出してあげたい。


 だが違う国のことだし……普通に考えれば、なかなか難しい。


 下手に動くと国際問題にもなってしまうからなあ……。


 さて……どうしたものか……。





 

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