929.農業と戦闘に使える、スキル。

 ヘルシング伯爵領選抜メンバー三十人は、驚くべきことに全員『コウリュウド式伝承武術』スキルを身に付けたようだ。


 この選抜メンバーは、皆貴族の子弟で元々『コウリュウド式伝承武術』を学んでいたので、今回スキルとして発現したのだろう。

 それにしても、全員に発現するなんて、凄すぎる。


 この三十人は、女性十五人男性十五人とちょうど半々の割合で構成されている。


 三十人もレベル35になったのだから、もう『銀牙騎士団』を発足させても良いのではないだろうか。

『銀牙騎士団』は、『ヴァンパイアハンター』とその従者のみで構成する最強軍団という触れ込みにする予定だが……その状態になるには、何年もかかるだろう。

 ここにいる候補生たちは、まだとても『ヴァンパイアハンター見習い』とも言えない状態だが、『従者』もしくは『従者見習い』くらいの認定はしても良いのではないだろうか。


 そう思って、エレナ伯爵に話を振ってみた。


「早く発足させたい気持ちもあるのですが……今の実力では、まだまだです。『セイリュウ騎士団』の皆様と比べると雲泥の差ですし……かといって、これ以上のパワーレベリングはもったいないので、じっくり育ててあげたいと思っているのです」


 エレナ伯爵はそう答えたが、少しジレンマも感じているようだ。


「確かに、おっしゃる通りではありますが……人は環境が育てると言いますし、まずは発足させて騎士団を稼働させながら育てていっても良いのではないでしょうか。自覚も持つでしょうし。団長の適任者が育つまでは、エレナさんが騎士団長を務め、キャロラインさんが副騎士団長になってはどうでしょう? 普通は、領主が騎士団長を兼務することはありえないことだと思いますが、ヘルシング伯爵領らしくて面白いんじゃないでしょうか」


 俺は、つい思いつきでそんなことを言ってしまった。

 でも結構アリだと思うんだよね。

 領主が騎士団長を兼ねるという事は、常識的にはありえないんだろうけど、当面の間ということならいいんじゃないだろうか。

 どっちみちエレナさんが陣頭指揮しそうだし。


 ふとエレナさんを見ると、なぜか目をうるうるさせて、頬を赤らめている。


 ん……この反応……どうして……?


「……そこまで思ってくださるとは……。確かにヘルシング伯爵領らしさというのは大事ですね。さすがは領政顧問です。素晴らしいアイデアをいただきました。早速、『銀牙騎士団』を発足させます! でも……決してグリムさんが好きだから、言うことを聞くわけじゃありません! 良い意見だと思ったから、従ったまでです。好きな人に従順な女ってわけじゃありませんから!」


 エレナさんは、うっとりと俺を見つめながら提案を評価してくれたのだが……途中からいつものような逆ギレ状態になってしまった……。

 もう慣れたけどね……。


 そして、騎士団を発足させると決意したようだ。


「グリムさん、ありがとうございます。私もそれがいいと思います。さすが……私の全て捧げたグリムさんです」


 今度はキャロラインさんが、そう言って頬を染めた。


 感謝してくれるのは良いのだが……全てを捧げられたつもりはないんですけど……。

 微妙に誤解を招くような発言だと思うんですけど……。

 何も捧げられてませんから……。


 そして、そんな話を聞いていた騎士団候補生の三十人が、一斉に俺に対して片膝をついて頭を下げた。


 この三十人は、なぜか俺に対して尊敬の眼差しを向けてくれている。


 最近よく溺愛親父とシスコン三兄弟に殺気を向けられたせいか、その反対の属性の尊敬の眼差しみたいなものにも、敏感になってしまったんだよね。


 なんとなく気分がいいので、一人ひとりの手を握って声をかけてあげた。

 領政顧問の俺なりの激励のつもりである。


 みんな喜んでくれていた。

 それはいいのだが、みんな俺が握った手をなかなか離そうとしてくれなかった。

 女性が手を離してくれないのは、まだ我慢できるのだが……男性陣にもぎゅっと手を握られて、見つめられるのは……微妙な感じでしかないのだ。

 まぁいいけどさ。



 次に、セイバーン公爵領選抜チームも報告をあげてくれた。


 『特命チーム』のメンバーとシャイン=マスカット子爵とその家臣団の美女集団『マスカッツ』で編成されている。


 『特命チーム』のリーダーのゼニータさんとサブリーダーの元怪盗ラパンのルセーヌさんは、レベル40になったとのことだ。


 ゼニータさんは、『セイリュウ七本槍』に選ばれていることもあり、最低レベル40までには到達したかったようだ。


 ルセーヌさんも、『特命チーム』の今後の様々な任務を考えると、騎士団員並みのレベル40まで到達してくれているので、安心できる。


 そして新たに合流した三人……『怪盗ジイゲイン』ことダイスくん、『怪盗ゴウエモン』ことイシカさん、『怪盗フウジィコ』ことミーネルさんは、揃ってレベル35だ。


 三人とも怪盗をやっていただけに、元々レベル30に近い状態だったが、揃ってレベル35で止めたみたいだ。


 これはユーフェミア公爵との打ち合わせで、事前に決めていたことのようだ。

 やはりスキル取得などの機会を十分に活用するために、必要以上にはパワーレベリングしないという方針なのだろう。


 犬耳の少年バロンくんとゼニータさんの弟のトッツァンくんは、揃ってレベル25になった。

 彼らはまだ若く、元のレベルが10台だったから、25で充分だろう。


 スキルは、それぞれいくつか習得したようだが、特別珍しいスキルは習得していないとのことだ。

 ただゼニータさんとトッツァンくんとバロンくんは、『コウリュウド式伝承武術』を身に付けたそうだ。

 日々の鍛錬が、スキル発現に繋がったのだろう。

 またトッツァンくんとバロンくんは、『投擲』スキルも身につけたそうだ。

 嬉しそうに報告してくれた。

 二人はゼニータさんのように、投げ銭を使えるようになりたいだろうから、このスキルはかなり嬉しいだろう。

 地道に練習していたことが、やはりスキル取得につながったようだ。



 それからナルシスト貴族のシャインは、レベル35まで上がったらしい。

 確かシャインの元々のレベルは29だったから、6レベル上がったことになる。

 シャインの性格からすれば、頑張ったのではないだろうか。

 そしてそれ以上は、急いであげる必要もないと思う。


 この辺も、おそらく事前にユーフェミア公爵と打ち合わせをして、目標レベルを決めていたのだろう。


 そして『マスカッツ』のみんなは、最近の特訓でレベル20までは一気に上げていたが、今回さらにレベル25まで上げたとのことだ。

 六人揃って、レベル25になったと喜んでいた。


 今回から正式に『マスカッツ』のリーダーは、赤毛のサンディーさんになって、サブリーダーは緑髪のオーガニーさんになった。

 元々そういう感じだったので、はっきりして良かったのではないだろうか。


 茶髪のクレイディーさん、黒髪のピートニーさん、青髪のロックニーさん、銀髪のストンリーさんも、レベルが上がったことが嬉しいようで、みんないい笑顔をしていた。


 改めて見ても……この六人は、本当に美人集団だ。

 そして、かなり強い集団になった。

 今後がさらに楽しみである。


 スキルについては……貴族として『コウリュウド式伝承武術』を学んでいるはずのシャインに、『コウリュウド式伝承武術』スキルが発現していなかった。


 それを聞いて、俺は思わず吹いてしまった。


 全く以て、シャインらしい。


 なんとなくだが……今まで、それほど熱心には練習してこなかったのではないだろうか。

 まぁ俺の偏見かもしれないが。


 そして、そのシャインから『コウリュウド式伝承武術』の基本の型を教えてもらっている『マスカッツ』のみんなにも、『コウリュウド式伝承武術』スキルは発現していなかった。


 ただこれは、教えているシャインが悪いというのではなく、まだ習いだして間もないからだろう……たぶん……。


 他のスキルは、みんないくつか取得しているようだ。

 いずれも一般的なスキルで、目新しいものはなかったが。


 ただサンディーさんには、『鍬鋤術くわすきじゅつ』というスキルが発現していた。


 これは俺も持っていないし、かなり珍しいスキルなのではないだろうか。


 クワの付喪神クワちゃんがコーチとして指導してくれていたし、『マスカッツ』の中でもサンディーさんが一番クワちゃんと相性が良くて、クワちゃんも気に入っていた。

 もしかしたら、そんなことも影響しているのだろうか……?


 クワやスキといった農具の扱いが上手くなるスキルのようだ。

 農作業に役立つスキルであるとともに、クワやスキを使った戦闘もできるらしい。


 やはり『マスカッツ』は、農業美女集団としても活躍できてしまいそうだ……。



 

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