928.綺麗なお姉さん衛兵隊長と、美人近衛隊長。

 ピグシード辺境伯領選抜チームでリーダー格の二人は、揃ってレベル37まで上げたようだ。

 『イシード市』の衛兵隊長で元近衛隊長のマチルダさんと、現近衛隊長であるクレアさんだ。


「お二人ともがんばりましたね」


 俺は、労いの言葉をかけた。


「ありがとうございます。本当はレベル40までは上げたかったのですが、アンナ様に止められました」


「グリムさん、ありがとうございます。少しでも役に立てるように、そしてシャリア様たちに追いつけるように、これからも精進します」


 マチルダさんとクレアさんは、爽やかな笑顔で答えた。


 二人とも、ある種の達成感のようなものがあるのだろう。

 いい顔をしている。


 クレアさんは、セイバーン公爵家長女のシャリアさんと次女のユリアさんとすごく仲が良いから、彼女たちと並べるように強くなりたいという気持ちが強いようだ。


 なぜか二人とも、じーっと俺の方を見つめている……。

 なんだろう……?

 黙って見つめられると、落ち着かないんだよね。


 クレアさんは、この世界で最初に出会った人族の女性で、かつ、めっちゃ美人なので、今でもドキドキしちゃうんだよね。

 金髪ショートのスラットした美人で、近寄りがたい雰囲気があるのに、話すと素朴な感じなのだ。


 そしてマチルダさんは、なぜか最近、俺に艶っぽい視線を向けてくることがある。

 いつも毅然とした感じなのだが、何かに感動した時とかにそんな表情になるのかもしれない。

 今日は魔物を倒しレベルアップした高揚感で、そんな表情になっているのだろう。


 それにしても……いつも控えめでかつ毅然とした、いかにも女性武官といった感じの人に、たまにこんな視線を向けられるとギャップがすごい。


 いつも朴訥ぼくとつな感じで控えているが、実はかなりの美人さんだから、オシャレな格好をしたら、それだけで超絶なギャップ状態かもしれない。


 明るい茶髪をポニーテールにしていて、背の高いモデルのようなスレンダー美人なのだ。

 三十二歳という事だったので、軍服を脱いで女性らしい服装になったら、綺麗なお姉さん状態になることは間違いないだろう。

 そして仕事をしているときの鋭い眼光から、優しい感じの眼差しになっちゃったら、多分ギャップ萌えでやられる男性陣が続出するのではないだろうか。

 独身ということだし。


 そう考えると……彼女が隊長をしている『イシード市』の男の衛兵たちは、既にマチルダさんに魅了された状態になっているのかもしれない。


 密かに恐ろしい人だ……。

 俺も気をつけねば……なんのこっちゃ!


 今回の選抜メンバーは、今後創設される女性だけの騎士団『華麗なる騎士団ブリリアントナイツ』の候補生でもある。


 今からとても楽しみなのだが……俺的には……アイドルユニットとしてデビューさせたいくらいだ……。


 ダメだ……思考が暴走している……なしなし!


 いやでも……領民からすごい人気になるかもしれない……。

 領の広報担当として活動するという建前なら……ありかな!


 このメンバーのブロマイドとかを作った方がいいかもしれない!

 いや、俺が欲しいだけか……ダメだ……抑えろ自分……。



 それからピグシード辺境伯領選抜チームのみんなは、レベルアップに伴って各自様々なスキルを身に付けたようだ。

 その中で、特筆すべきスキルを身に付けた人がいる。


 それは、クレアさんだ。


 彼女はなんと『加速』というスキルを身に付けたのだ。


 高速で動けるスキルで、『ヴァンパイアハンター』のエレナさんが持っているスキルと同じなのだ。


 つまりこのスキルを使えば、『ヴァンパイアハンター』のように、高速移動ができるということなのだ。


 かなりすごいと思う。

 というか……『ヴァンパイアハンター』になれると思う。

 この話をしたら、エレナさんやキャロラインさんにスカウトされてしまいそうだ。

 まぁ実際は、しないだろうけど。


 そして『加速』スキルは、俺も欲しいと思っているんだよね。


 『限界突破ステータス』の俺は、『加速』スキルがなくても、十分早く動けるのでいいのだが、仲間たちにあったら便利だと思うんだよね。

 『共有スキル』にセットしたいスキルなのだ。

 だがまだエレナさんは、『絆』メンバーになっていないので、『共有スキル』にできていないんだよね。

 武術系のスキルなら、俺の『固有スキル』の『ポイントカード』を使って、俺が技を受けることによって『ポイント交換リスト』に載せることもできるのだが、こういう系統のスキルはそれができないんだよね。


 もしかしたら……エレナさんやクレアさんに抱きかかえてもらって、『加速』を使って動いてもらえば、俺が加速状態を体験するから、『ポイント交換リスト』に入るかもしれないが……とても恥ずかしくて、そんなお願いはできない。


 ただでさえエレナさんには、俺がドMなんじゃないかと誤解されている感じなのに、抱きかかえて欲しいなんて言ったら……そういうプレイが好きなのかと、また誤解されてしまいそうだ。


 まぁいずれ秘密を打ち明けて、エレナさんやクレアさんも『絆』メンバーになる時が来そうだから、そこまで待つとしよう。


 あと、クレアさんとマチルダさんには、『コウリュウド式伝承武術』スキルも発現した。

 普段から『コウリュウド式伝承武術』の稽古をしているので、『通常スキル』としての『コウリュウド式伝承武術』を身に付けることができたのだろう。


 これは非常に大きい。

 奥義技を身に付け易くなるし、このスキルには『剣術』『槍術』『斧術』『弓術』『盾術』といった武術が含まれているので、自分が持っていない武術のスキルも身に付けたことになるのである。



 次にヘルシング伯爵領選抜チームの結果の報告を受けた。

 総勢三十名の大部隊なのだ。

 発足準備中の『ヴァンパイアハンター』とその従者からなる『銀牙騎士団』の候補生が選抜されているのである。


 騎士団候補生は、本当はもっと大勢いて、現在学校を作って育成中なのだが、その中から実力のある者を三十人選んだとのことだった。

 選ばれたメンバーだけに、元々みんなレベル20以上はあったようだ。


 そして、今回、揃ってレベル35を達成したと報告してくれた。


 エレナ伯爵の判断で、レベル35になった者から抜けさせて、全員のレベルを揃えたそうだ。


 それ以上一気に上げてしまうのは、やはりスキル取得の観点などからもったいないと判断したとのことだ。

 この後は、じっくり鍛錬しながらレベルを上げていくという方針にしているとキャロラインさんが教えてくれた。

 領主のエレナ伯爵と執政官のキャロラインさんが、自ら引率して監督したらしい。


 それと、競争意識を持たせる為というのもあり、全員のレベルを揃えたようだ。


 レベルアップに伴って、皆様々なスキルを取得したようだが、特筆すべき珍しいスキルを取得した者はいないようだ。


 『ヴァンパイアハンター』にとって役立つ『加速』スキルを身に付けた者は、一人もいないらしい。


 そういう意味では、クレアさんはやはりレアなケースと言えるだろう。

 『加速』スキルは、レアスキルという認識はされていないようだが、それに準ずるような非常に取得する者が少ないスキルのようだ。


 現に『ヴァンパイアハンター』のキャロラインさんも持っていないからね。


 聞いたところによると、『ヴァンパイアハンター』でも『加速』スキルを持つ者は、非常に少ないらしい。

 昔からそうだったようだ。


 ただ『ヴァンパイアハンター』としての専用の訓練によって、『加速』スキルがなくても加速状態についていける動きが出来るようになるそうだ。


 普通に考えたら……その訓練を通して『加速』スキルが身に付きそうなものだが……そう上手くはいかないということらしい。



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