921.鰹節を、作ろう!

 『フェアリー商会』の仲間になってくれることになった『フタコブ島』の人たちに、サーヤは安全面についても出来る限りの手を尽くすという話をしてくれた。


 そこで俺の方から、フタコブ山のそれぞれの山頂を縄張りにしている『陸ダコ』と『黄色テナガザル』が妖精女神の使徒になったので、今後何か危険があれば助けてくれるという話をした。


 島のみんなは、またもや信じられないといった表情になっていた。


 事業としては、しばらくは豊富な海産物をとって、『フェアリー商会』で販売するという形にするが、長期的なことを考えて貝類などの養殖もするという方針をサーヤが説明してくれた。

 特に真珠がとれる貝については、非常に有望な事業になるので、力を入れるつもりだ。


 『フェアリー商会』のスタッフは、始業前に必ず勉強する時間をとっていて、文字の読み書きなどを習うという話もしたので、子供たちを含め不思議な顔をしつつも、喜んでくれていた。


 この『海運・海産部門』のリーダーは、アルビダさんとなり、海賊団の副長のカイヘインさんとアルビダさんの護衛の『八従士』が幹部となって、運営していくことになった。


 村については、正式に『フタコブ村』という名称にして、あの代表のような役割を果たしていた老夫が、村長になってくれることになった。

 彼はリョウシンさんと言い、腕の良い漁師らしい。


 そして島にいる女性たちも、海女をしていた人たちがいて、その人たちを中心に他の女性に海女の技術を教えていた。

 すでに腕のいい海女さん集団ができているようだ。


 この村で留守番をしている人たちには、みんなで決めた役割分担が存在していた。


 海で魚を漁る『漁師班』と、潜って貝などを獲る『海女班』と、山に入って獣を狩る『狩人班』と、近場で山ぶどうや里芋を採る『採取班』という役割分担になっていた。

 子供たちは皆、『採取班』を手伝っているとのことだ。


 『漁師班』には、魚を漁ってもらう事はもちろんだが、干物も適宜作ってもらうことにした。


 それから、俺がどうしても欲しいと思っている食材……鰹節も作ってもらおうと思っている。

 鰹を煮た後に、水分を飛ばして燻すことを繰り返して作る新節や裸節なら大体の作り方が分かるので、ここで作ってもらおうと思う。

 鰹以外にもサバ、マグロ、アジなども同様に加工できたはずだ。

 またイワシやトビウオやその他小魚を煮干しにして、多様な煮干しを作っても良いだろう。

 煮干しも含めた削り節の種類を充実させられる。


 今後の料理の幅も、だいぶ広がりそうだ。


 なんとなく……本格的にやると……すぐに人手が足りなくなりそうな気がするが……。


 『海女班』については、貝などを獲るとともに、乾燥わかめなども作ってもらうことにした。

 おそらく海苔も採れると思うので、楽しみだ。

 まぁ海苔については、川海苔の生産が軌道に乗っているので、無理に作らなくてもいいかもしれないけどね。

 ただ海苔は産地により風味も違うし、種類があった方がいいと思うんだよね。


 将来的には貝類……特に真珠を作ってくれるアコヤ貝などの養殖の担当にもなってもらう予定だ。


 『狩人班』には、今まで通りみんなが食べる分の野生動物を狩ってもらう。

 それから、今後この島の人たちがミルクを飲めるようにヤギを連れてくる予定なので、その世話も担当してもらうことにした。

 卵が食べれるように『大王ウズラ』たちも連れてこようと思っているので、その世話もしてもらうことになる。


 『採取班』については、村人が食べる分の山ぶどうや里芋などを今まで通り採ってもらう。

 そして、山ぶどうのワインを、本格的に生産してもらうことにした。

 今作っているものを、飲ませてもらったが、熟成が足りなくても充分美味しかったし、搾りたての山ぶどうジュースは絶品だった。

 おそらく素晴らしいワインができるだろう。


 話によると山ぶどうは、かなり広範に自生しているようなので、採ろうと思えばかなりの量が採れるらしい。


 本当に商品として流通させれる量の、山ぶどうワインが作れる可能性があるのだ。


 俺が冗談半分で、「将来的に、味が良い有名なワインになるかもしれない。『自由の旗海賊団』にちなんで、『自由の旗』という名前のワインにして、世の中はあっと言わせよう!」と言ったら……海賊団の荒くれ男たちが、めっちゃ感動し、目をうるうるさせて、猛烈にやる気になっていた。

 何人かは、すぐに山ぶどうを採りに行こうとして、周りの者たちに止められていた。


 海の男たちは……やはり熱い男が多いようだ。


 サーヤとともに具体的な話をしたせいか、海賊団の人たちも島の人たちも、みんな目を爛々と輝かせて、めっちゃやる気な顔になっている。


 この表情を見ている限り、すごくうまくいきそうな気がする。



 ただ……やはり心配なのは人手だ。

 ちょっと本格的にやっただけで、足りなくなりそうだ。

 人的な規模を考えると、テスト生産の場所にするか、将来的には作る物を絞るというかたちにせざるを得ないだろう。


 ただなんとなく……今一瞬ビジョンが見えた気がする……。

 ……可愛いオレンジの『陸ダコ』たちと『黄色テナガザル』たちが、一緒に働いている姿が見えたような……。


 多分人手が足りないと言ったら……ニアさんが『黄色テナガザル』たちを動員するかもしれない。


 強制だと可哀想なので、そうなる前に『黄色テナガザル』たちや『陸ダコ』たちが島の人たちと仲良くなって、自主的に手伝ってくれる感じになるといいんだけどなぁ……淡い期待……。



 今まで海賊働きをしていた人たちについても、船を出す仕事がないときには、各班に入ってもらって島の仕事をしてもらうことにした。

 ただ、状況に応じて……今まで通り人を助ける海賊として動く事は、自由に行って良いということにしてある。


 また今後、必要に応じて海運事業として、商品の海上輸送をしてもらう可能性もあるという話もした。


 ただ俺たちの商会の場合、普通に船で運ぶ必要はあまりない。

 転移が使えるからね。


 どちらかと言えば、買い付けるために船で出かけるという感じが多くなるだろう。

 もっとも……行くとしても、『フェアリー商会』の支店のない場所になるから、結構遠くにはなってしまうんだよね。


 そんな話をしたら、海賊団副長のカイヘインさんが情報を提供してくれた。


 それによると、最近の『ミルト市』は豊漁で、干し魚が大量にあり、値崩れして漁師たちが困っているということだった。

 まとめて買い取ってあげれば漁師たちも喜ぶし、値段も安くしてくれるだろうというのである。


 この豊漁の原因は、魔物が近くの海に現れることが多くなり、魚が追い込まれるようなかたちで逃げてきて、港近くに群れているからということらしい。

 海兵隊が仕事をしない結果、豊漁となっているのは皮肉な話だが、逆にそのせいで値崩れして漁師たちの生活が苦しくなっているというのは問題である。


 この話を聞いて、サーヤは早速仕入れの手配をするようだ。


 コバルト領では、取り潰しになった二つの総合商会を『フェアリー商会』が引き継いでいるので、各市町に支店がある。

 これから本格的に稼働させるのだが、継続雇用で採用できるスタッフもある程度いるだろうから、そういうスタッフに声をかけて、仕入れさせるつもりなのだろう。



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