922.海から現れた、霊獣。

 『フタコブ島』の人たちとの打ち合わせも終わり、俺たちは引き上げることにした。


 ここを襲っていた海賊たちについては、コバルト城に転移で連れて行こうと思っている。


 この海賊たちのアジトの場所も、いつものように優しく聞き出したところ、素直に白状してくれた。

 決して……どついたり脅すようなことを言ったりしたわけではないのだ……オホン。


 早速、チーム付喪神と『魚使い』のジョージたちの混成チームで、捕縛に行ってもらうことにした。


 コバルト直轄領『ミルト市』の西の方の海岸沿いにあるらしい。

 街道から大きく外れた海岸沿いで、誰も通らない場所にあるようだ。

 この海賊たちは、離れ小島ではなくコバルト領内にアジトを作っていたわけだ。

 領内と言っても広いから、街道から大きく外れて、普段誰も来ないような場所なら、充分アジトにできるだろう。


 コバルト領近海の航路周辺の魔物退治も、まだ完全では無いようなので、引き続きジョージたちに行ってもらうことにした。



 島の人たちに別れの挨拶をして、転移しようと思っていると……なんとなく違和感が……。

 海の方から視線を感じる。


 そちらを見ると……海から何かが顔を出している……。

 しかも結構な数。


 俺は『視力強化』スキルを使って、凝視した。


 なんだろう……?

 馬のような……なんとなくドラゴンっぽい感じも……。

 うーん……タツノオトシゴみたいな顔とも言える……。


 そんなことを思っていたら……突然、水中から上空に小さな物体が飛び出した!


 それは、四十センチくらいの体長の黄色いタツノオトシゴだった。

 宙に浮いている。


 ここからは結構距離があるが、俺と目があったのが分かったのか、何かお辞儀をするような動作をした。


 そして、急激に俺のほうに向けて、空中を滑るように近づいて来た。


 海から顔を出していた大きなタツノオトシゴみたいな生き物たちも、海面を泳いで水しぶきをあげながら近づいてくる。


「あ、何かくるわね。敵?」


 ニアが気づいて、声を上げた。


「いや、敵じゃないと思う。殺気は感じないから」


 俺はニアを含め気づいてるみんなに向けて、声を大きくして伝えた。


「なんじゃ? 見たこともない生き物が群れてくるのぉ……」


 ツクゴロウ博士も、知らない生き物のようだ。


「あの生き物は、もしかして……」


 女海賊のアルビダさんは、何か心当たりがあるのか、そんな声を漏らしたが、言葉は続かなかった。


「ムムム、近づいてくるのは……海に住む霊獣! 我らと共に修羅の荒野を歩みたいと願う霊獣が近づいてくる! その漆黒の感情を吐き出してみよ!」


『陸ダコ』の霊獣『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティーが、突然そんなことを言った。

 相変わらず中二病チックなことを言っているので、いまいち良くわからないが……海に住む霊獣なのか……?


 俺はすぐに『波動鑑定』をしてみた。


 …………オクティーの言っていた通りだった。


 宙を滑走してくる黄色いタツノオトシゴは、タツノオトシゴの霊獣だったのだ!

『種族名』が『スピリット・シーホース』となっている。


 そして、後から泳ぎながらついて来ている大きなタツノオトシゴのような生き物は、『海馬かいま』という『種族名』になっていた。

 五十体くらいいそうだ。


 タツノオトシゴの霊獣は、一直線に俺のところに来るとピタリと止まった。


「あ、あの……こんにちは。私は……タツノオトシゴの霊獣です。名前は……まだありません。最近突然、霊獣になってしまって……自分でも状況が飲み込めていない状態です。ごめんなさい。私が霊獣として覚醒したときには、『海馬』たちが私を守ってくれていました。そして頭の中に声が響いて……『六芒星を形作る六つの島のうちの北側三島の一つに、強き王が現れる』と言われました。そして『強き王に仕えよ』とも言われました。強き王よ、あなたにお仕えいたします」


 タツノオトシゴの霊獣は、突然そんな話をした。


 全く状況が飲み込めないが……“強き王”というのは、今まで仲間になった者たちにも、何度か言われたことがある。


「君は……最近霊獣として覚醒したということなんだね。俺の仲間になりたいってことかい?」


「はい。強き王から……ぽかぽかしたものを感じます。マスターになってください」


 タツノオトシゴの霊獣は、体を前に倒しお辞儀するような姿勢をとった。


「俺は構わないんだけど……頭の中に聞こえた声と言うのは、天声なのかい?」


「ごめんなさい。よく解りません。あの……私を守ってくれていたこの『海馬』たちも仲間に加えて欲しいのですが……」


「うん、それもいいよ。君は……特にやらなければならないことがあるというわけでは、ないんだね?」


「ごめんなさい。よくわからないんです。ただ……強き王にお仕えすることが、私のやることだと思います。よろしくお願いします」


 そう言ってタツノオトシゴの霊獣は、またお辞儀をするように前傾姿勢になった。


「まぁいいじゃない。これも何かの縁だし。なんか楽しくなってきたわね!」


 ニアさんは、またお気楽なことを言っている。


「わかった。じゃあ、これからよろしくね。名前がないと不便だから……シーホンなんてどうかなぁ?」


「シーホン……可愛いです! ありがとうございます」


 タツノオトシゴの霊獣は、俺の思いつきの名前を了承してくれた。

 結構気にいってくれたようで、空中をぐるりと三回転した。


 そして恐る恐る……ニアさんの方を窺うと……やっぱりジト目を向けている……。

 まぁしょうがないか……。

 シーホースだからってシーホンって、安直すぎるもんね。

 でも最近のニアさんを見ている限り、俺のネーミングセンスについて文句言えないと思うんだけどなぁ……ここはスルーしておこう。

 そして、ジト目は受け流す……。


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