919.胃袋を、掴む。

「じゃあ皆さん、食べましょう。おかわりもありますから、遠慮せずに食べてください」


 俺は、そう声をかけて、『カレーライス』を食べてもらうことにした。

 みんなが座る椅子とテーブルも、魔法カバン経緯で『波動収納』から取り出し、青空食堂といった感じで準備したのだ。



 ……少しして、村の人々が放心状態になっている。


 みんなお腹が、はちきれそうに膨らんでいる……。

 当然のごとく、『カレーライス』は大絶賛というか……大変な騒ぎになり、みんなおかわりをしまくっていた。

 そして食べ過ぎて、今は放心状態となっているのである。


 みんな幸せそうな顔で、ぼーっとしている……。


「あの……先程は失礼いたしました。妖精女神様の相棒様……しかも『救国の英雄』様とは存じ上げずに、本当に失礼しましたですじゃ。それから……こんな天にも昇るようなものを食べさせてもらい、いい冥土の土産ができましたですじゃ。これで、いつ死んでも悔いはありません……」


 村を代表して、最初に俺とやりとりをしてくれた老夫が俺の前で跪いて頭を下げた。


「どうぞ謝らないでください。警戒するのは、当然ですから。気になさらないでください」


「これは……我々からのお礼です。この島では、貝がよく取れるのですじゃ。もしよければ、焼いて食べてくだされ」


 老夫がそう言うと、子供たちがカゴに入れた貝を持ってきてくれた。


 カゴにはなんと……ホタテ、サザエ、アワビという俺の大好きな貝たちが、てんこ盛りに入っていた!


 飛び上がりそうなほど、嬉しい!

 ホタテも大好きだし、アワビも大好きだし、もちろんサザエも好きだ。

 特にアワビを焼いたものとか、煮たものが大好きなんだよね。


 どうしても今すぐ食べたくなってしまったので、俺はおもむろに調理を始めてしまった。


 せっかくなら島の人たちにも振る舞おうと思い、煮アワビを作ることにした。

 アワビを焼いて食べる事は、普通にしているだろうが、醤油ベースで煮込むことはしていないと思うんだよね。

 醤油がないだろうからね。



 少しして……煮アワビが完成した。

 そして包丁で適度な厚さに切り、盛り付けた。


「皆さん、よかったらこれも食べてみてください。醤油という調味料をベースに煮込んだもので、味がしみて美味しいですよ」


 俺がそう言うと、お腹いっぱいで呆然としていた人たちが再び動き出した。


「ほほほ、なんだこれは? この柔らかさ……この美味しさ!」

「すごい! うまい」

「ぼく、焼いたアワビも好きだけど、このアワビはもっとおいしい!」

「すごい! いっぱい食べれる!」

「お腹がいっぱいなのに、何故か入っちゃう」


 大人たちも感動してくれているが、子供たちもパンパンのお腹をしながら、しゃぶりつくようにして食べている。


 『煮アワビ』……やっぱり受けたようだ。


 そして、ここでなんと、『魚使い』のジョージが、専用の寿司屋台を魔法カバンから取り出した。

 何事が起きたのかと見ている人たちを尻目に、寿司を握りだした。

 それは中トロと大トロの炙りと、今もらったホタテの貝柱の握りだ。


 これまた人だかりで、みんな争うように食べだしてしまった。

 喜んで食べてくれるのは良いのだが……お腹がはち切れてしまうんじゃないだろうか……。

 本当に心配になってしまった。

 もちろん、整腸薬は渡したけどね。


 やっぱり美味しいものを食べると、人は元気になるし雰囲気も良くなる。

 みんな笑顔になって、あちこちから笑い声が上がっている。

 侯爵令嬢のアルビダさんと護衛の『八従士』のみんなも、友達同士のように楽しそうに話している。



 少しして……お腹がちょっと落ち着いた頃、アルビダさん達が俺のもとにやって来た。

 みんなで話し合いをしてきたとのことだ。


 俺たちは、その間、この島の海を満喫していたんだけどね。


「ニア様、グリムさん、ご提案をお受けします。『フェアリー商会』さんで働かせてください。それを通して、受けたご恩をお返しできるようにいたします」


 代表して、アルビダさんがそう言った。


 どうやら、ニアさんの『胃袋をつかむ作戦』は、成功してしまったようだ。

 ただ……恩を返すという大げさな話になっているが……。

 俺たちは、何もしてないけどね。

 美味しいものをご馳走しただけだし。

 まぁログハウスを提供して、土壁は作ったけどね。


「ほんと! それはよかったわ。あーでも……恩返しとか別にいらないから。今までみたいに、海賊に襲われている人を助けたり、困っている人を助けてあげる恩送りをしてくれればいいわ」


 ニアの言葉を聞いて、島の人々は、改めてニアに頭を下げた。


 その後俺たちは、今後の方針を決めるためにも、もう少しこの島の資源についての情報を尋ねた。


 さっき俺たちも少し海に入って確認したが、やはり貝類が豊富でかなりいろいろなものが取れそうだ。

 海藻類も豊富で、ワカメなども獲れるだろう。


 しばらくは、ここにあるものを獲るだけでいい感じだ。

 ただ、資源保護も考えると……将来的にはこの島の周辺に養殖場を作った方がいいかもしれない。



 島の人たちから話を聞いた結果わかったのは、やはり貝類が豊富だということだったが、その中には綺麗な石を持っている貝もあるとのことだ。

 宝石として流通しているものらしい。


 見本として一つ見せてもらったが、それは俺の知っている真珠だった。

 おそらくアコヤ貝の仲間が、多く生息しているのだろう。


 真珠は、この世界でも広く流通している宝石なので、侯爵令嬢のアルビダさんも、ここで取れる品質のものなら高値で流通できるかもしれないと意見を添えてくれた。


 俺の元いた世界では、天然の真珠はかなり貴重だし、綺麗な球体ではなく歪な形をしたものが多いと聞いたことがある。

 ここで獲れるものは、綺麗な球体のものが多いらしい。

 もちろん変わった形状のものもあるようだが、そういう形状のものも、普通に宝石として流通しているのだそうだ。

 綺麗な球体かどうかということよりも、色合いや輝きが重視されるらしい。


 確か……養殖の真珠は、核になるような異物を敢えて入れて、真珠を形成させるとテレビで見た記憶があるが、そんな技術を磨いて真珠の養殖をしたら、収益性の高い事業になりそうだ。

 そして、面白そうだ!


 個人的には、宝石の中でも真珠って結構好きなんだよね。


 それから……魚も豊富で様々なものが漁れるだろうとのことだ。

 少し船を出すと、トビウオがたくさんいるエリアもあるらしい。

 トビウオを漁って、アゴだしでラーメンを作りたいなぁ……。

 今後本格的にラーメンをリリースしようと思っているのだが、アゴだしを使ったさっぱりした醤油ラーメンを作りたいと思っていたんだよね。


 多分イカなんかも漁れるだろうから、スルメを作ってもいいかもしれない。


 干し魚やスルメは、この世界でも海辺の街などではよく作られているようなので、無理に『フェアリー商会』で作る必要は無いかもしれないが、豊富に撮れる漁場があるなら作ってもいいだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る