916.お頭は、貴族令嬢。
ニアは、俺の『救国の英雄』としての『職業固有スキル』の『集いし力』によって、俺の下に転移してきた。
そして俺との事前の打ち合わせとは裏腹に、超残念な感じの登場になっている。
もっとも、妖精女神らしからぬ軽口とドヤ顔、そして残念ポーズも、俺がそう感じているだけで……やはりこの島にいる人々も、気にならないようだ。
この世界の人たちは、今までも、気にしていない感じだったからね。
驚いていた島の人々は、ニアから言葉が発せられると、皆跪いて神に祈るようなポーズをした。
毎度のことながら、俺としては違和感しかない。
なぜこんなに羽妖精を崇めるのだろう……?
「これでグリムの話を信じてくれるかしら? 私たちは、あなたたちの事情を聞いて、できれば力になりたいと思っているのよ。危害を加えるつもりはないわ。そのつもりなら、すぐに一捻りだからね。言っとくけどね……私の相棒のグリムは、私よりも強いから」
ニアは、明るい軽口で話しているが……途中から微妙に脅しているように聞こえなくもない……。
みんな、言葉を失ったまま呆然としている。
お頭も、呆然と俺を見つめている。
というか……俺を見てはニアを見て、また俺を見るという感じで交互に見ている。
多分……気持ちの整理をつけているのだろう。
そして……ニアに向けて跪いていたのだが、その状態のまま隣にいる俺のほうに向きを少し変えた。
「グリム様、失礼いたしました。なんとお詫びしていいか……」
お頭は気持ちの整理をつけて俺に謝ってくれたが、言葉に詰まってしまった。
言葉が続かないようだ。
放置しておくと、いじめてるみたいで可哀想なので、ここは助けてあげよう。
「いいんですよ。私があなたの立場でも、同じように疑ったでしょう。ここの人たちを、守らなければいけませんからね。気にしないでください。これでやっと話ができそうですね?」
俺は、そう言って微笑んだのだが……ちょっと嫌味に聞こえてしまったらしく……
「すみません。本当に申し訳ありませんでした」
「「「申し訳ありませんでした」」」
「「「すみませんでした」」」
「「「ごめんなさい」」」
「「「うえぇぇん……」」」
お頭と他の海賊、島の人たちが一斉に俺に土下座してしまった。
子供たちの中には、泣き出してしまった子もいる。
そんなつもりではなかったのだが……。
どうも調子が狂っちゃうなぁ……。
まぁ行き違いがあったが……というか、かなり警戒されてしまったが……冷静に考えれば、これが普通なのかもしれない。
今までが、逆にスムーズすぎたのだろう。
隣に羽妖精のニアがいてくれたから、人々が話を聞く態勢になってくれていたんだよね。
今回、ニアがいなかったことで、改めてその存在の大きさを知ってしまった。
羽妖精サイズで体は小さいけど、存在はめちゃめちゃ大きかったのだ。
まさに……小さな巨人だね。
でもこのことは、ニアには言えないなぁ……。
言ったら、絶対調子に乗っちゃうからな。
「さぁ、それじゃぁまず……この島の人たちやお頭たちのことを、きっちり話してちょうだい。どういう事情でここに住むことになったのか……いいわね?」
ニアが空中でくるっと一回転して、またドヤ顔をしながら言った。
「はい、分りました」
そう言って……お頭が話し始め、補足をするように他の何人かも話し出した。
ニアを呼んでほんとによかった。
一発で雰囲気が変わった。
なんとなく……ニアさんの存在って、水戸のご老公の印籠のような感じだな……。
登場すると……みんなが「ははぁ」とひれ伏す感じで、話を聞いてくれるのだ。
まぁそんな事は、どうでもいいが……。
お頭を始め何人かが、この島に住むに至った経緯を話してくれた。
まずは驚いたのは、お頭である女海賊のアルビダさんについての話だ。
彼女は、あえて話さなくても良いと思える身の上話を、正直に話してくれたのだ。
それによると……なんと彼女は『ペルセポネ王国』の上級貴族、それも侯爵家の長女ということだった。
『ペルセポネ王国』は、セイバーン公爵領の東隣に位置する国で、東小国群の一つである。
その更に東には、『格闘術プロレス』を継承している『シンニチン商会』のアンティック君の故郷『ヘルメス通商連合国』がある。
『ペルセポネ王国』の北東方向には『アポロニア公国』があり、北には『ヘスティア王国』とも隣接しているのだそうだ。
そして北西側には、俺のホームとも言うべき『大森林』が位置しているのである。
アルビダさんは地図を持っていて、広げながら説明をしてくれた。
『ペルセポネ王国』は、セイバーン公爵領と接し、海に面する部分から北西に斜めに伸びながら……左に大きくカーブするような形状になっている。
細長いロングブーツのような形の国なのである。
まぁロングブーツといっても、カーブの角度は直角ではなく緩やかなのだが。
他に例えるとすれば……『へ』の字の長い方の線を反対側に……左斜め上に向けたような形だ。
ロングブーツに見立てて、隣国との位置関係を説明すると……つま先の部分が南の海に接していて、その甲の部分がセイバーン公爵領との干渉地帯になっている魔物の領域に接している。
反対側の靴底に位置する部分が、『ヘルメス通商連合国』と接している。
そして北西……左斜め上に大きく伸びているブーツの部分の背の部分は、『アポロニア公国』と『ヘスティア王国』に面していて、ブーツの口の部分が西の『大森林』と接している。
正確には『大森林』を取り囲んでいる山脈や魔物の領域に隣接しているという形なのだ。
ちなみに『ヘスティア王国』の西隣にあるのが、これから俺達が向かおうと思っている『アルテミナ公国』なのだ。
この海賊団のお頭となり、女海賊となっていたアルビダさんは、アルビダ=シレーヌといい『ペルセポネ王国』のシレーヌ侯爵家の長女ということだった。
なんと国を捨て、出奔してきたらしい。
王子との結婚話が出て、それが嫌で逃げ出してきたとのことだ。
私設の護衛団だった八人を引き連れて、港で船を購入して、あてのない旅に出たとのことだ。
もう祖国に戻ることは、できないらしい。
ある意味すごい行動力だが、ある意味無鉄砲で無計画とも言える。
まぁそこは突っ込まなかったけどね。
なんでも一緒に来ている八人というのが、騎士並みの実力らしく『シレーヌ八従士』として『ペルセポネ王国』では有名だったらしい。
貴族の私兵同士の交流戦があり、そこで優勝したのだそうだ。
十五人程度で戦う集団戦の大会らしいが、八人でその大会を優勝したことから『八従士』と呼ばれるようになったとのことだ。
『ペルセポネ王国』でも武術大会は大人気らしく、私兵のナンバーワンを決める武術大会が二年に一度行われているのだそうだ。
各貴族が、家門の名誉をかけて参加する熱い大会らしい。
そこで優勝したチームだけあって、みんなレベルは40を超えているそうだ。
アルビナさんがレベルが35だったので、彼女が一番強いからリーダーになっているのかと思ったが、彼女の護衛の方が強かったらしい。
まぁ護衛なんだから、当然と言えば当然だが。
逆に侯爵家の令嬢であるアルビダさんが、レベル35という方がおかしいとも言える。
貴族の令嬢でレベルが高い女子を何人も見ているせいで、感覚が麻痺していたが、アルビダさんのレベル35はかなり異常だろう。
まさか『コウリュウド王国』以外にも、貴族令嬢で腕っ節の強い無鉄砲な人がいるとは……。
この世界の貴族女子は、一体どうなっているのか……?
『八従士』は、女性が五人男性が三人で、皆アルビダさんが幼少期から保護した孤児だったり、売られていた奴隷だったらしい。
それ故、みんな十代だ。
アルビダさんたちは、目的地があったわけではないが、西方向へ向かっていたとのことだ。
『八従士』は、一応の操船技術を持っていて、何とか航行はできたらしい。
コバルト侯爵領の『ミルト市』に補給のために立ち寄ろうと考えていたところ、海賊に襲われていた小さな船団を助けたのだそうだ。
それがコバルト侯爵領『ミルト市』から逃げ出してきた人々……この島にいる様々な年代の人々だったようだ。
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