915.集いし、ニアさん。
「私は、この海賊団をまとめているアルビダだ。危ないところを助けてくれたことには礼を言う。だが速やかに出て行ってもらおう。何の目的があって来たのか知らぬが、用件次第では……剣を交えることになるぞ!」
海賊団のお頭は、まるで騎士のような口調と所作で俺たちに礼を言いつつも、鋭い目つきで問い正した。
十七歳の女性とは、とても思えない迫力だ。
もちろん、男のつもりで振る舞っているからというのもあるんだろうけど。
「島の人々には先ほども説明しましたが、我々は王家直轄領となったコバルト領の領政官である第一王女クリスティア様の命を受けてやって来ました。この近海に出没する魔物を退治することと、海賊を捕らえることが目的です。ただ海賊の中には、他の海賊を襲ったり、魔物を退治しているという……本来海兵隊がすべきことを行っている変わった海賊がいるという情報も得ています。その情報を詳しく調査するために来ました。その変わった海賊が、あなた方だと思いますが……話すために来たので、どうか話し合いをお願いします」
俺は、改めて訪れた目的を説明した。
「コバルト領から来たのか……コバルト領の酷さは聞いている。領民が逃げるのも当然の話さ。咎めるつもりなら、ただじゃおかないぞ!」
お頭は、ピリピリしている。
平和的に話したいんだけどねぇ……。
そして口ぶりからして……このお頭は、コバルト領の出身ではなさそうだ。
「領を逃げ出したことを、咎めるつもりは一切ありません。『コウリュウド王国』では他領に移り住むことも、認められています。先ほども尋ねたのですが……ここにいる方々は、コバルト領の領政が改善されたとしても、戻りたくはないということでしょうか? ここに住みたいということで良いのでしょうか?」
俺は、改めて考えを確認した。
「ああ、そうだ。我々は、ここで静かに暮らしたいだけだ。我々は海賊といっても、普通の商船を襲ったりするつもりはない。被害は出さないのだから、ここの事は忘れて帰ってほしい」
お頭が、人々の顔を見て確認しながら言った。
周りの人々は皆、頷いている。
「分りました。そういう希望であれば、無理強いはしません。ただあなた方は、安住の地が欲しいのではありませんか……? 安心して住める土地……子供たちが安全に幸せに笑顔でいられる場所……そのためにここにいるんですよね? でも、本当に安全でしょうか? 先ほども他の海賊が襲ってきていました。申し遅れましたが、私はグリム=シンオベロン名誉騎士爵と申します。ピグシード辺境伯領の家臣です。ピグシード辺境伯領では、広く移民を募集しています。家も用意されていますし、仕事も世話します。移民を考えてみませんか?」
ダメ元で、ピグシード辺境伯領への移民を薦めてみた。
「そんな話を信じろと言うのか? 家も与える……信じられない。そこまでして、人を集めたいのか……。待てよ……確かピグシード辺境伯領というのは……魔物と悪魔に襲われて壊滅的な被害を受けたところだろう。そんな危険なところに、移民を募集するなんて……。笑い話にもならないぞ!」
「心配されるのは、もっともなことでしょう。でも今は安全になっています。これから復興する市町には、魔物を防げるように、新たに外壁も作られます。強い衛兵も育成しています」
「信じる気にはなれないな。市町に残る魔物たちを片付けたという妖精女神様やその使徒たちが守ってくれると言うなら、信じなくもないがな……」
お頭はそう言って、少し呆れたような視線を送ってきた。
絶対無理だとわかっていて、あえて言っている感じだ。
ニアを連れてきておけばよかった……。
ニアさんは、魔物討伐をしているシンオベロン選抜チームの方に行ってるんだよね。
「心配などいらぬぞ。ピグシード辺境伯領の各市町には、妖精女神の使徒となった様々な生き物がいて、陰ながら守っているらしい。ここにいるグリムは、その妖精女神様の相棒の凄腕テイマーなのじゃ! 聞いたことがあるじゃろう!? セイバーン公爵領で『正義の爪痕』という犯罪組織を壊滅させ、亜竜『ヒュドラ』や天災級の魔物も倒したのじゃ。今では『救国の英雄』と言われている。それがこの男なのじゃぞ!」
今までのやりとりを渋い顔で聞いていたツクゴロウ博士が、我慢しきれずにそう言いながら俺を指差した。
「ふん……凄腕テイマー……? 確かに妖精女神様の相棒の凄腕テイマーの話は聞いたことがある。それにセイバーン公爵領でも大きな騒乱があって、人々を救ったという噂も耳にした。確かに『救国の英雄』と言われているという話も聞いた気がするが……。この男がその『救国の英雄』だと言うのか……? まさか……?」
お頭は、一瞬思案顔になったが、すぐに笑った。
全く信じてくれていない。
やっぱりニアがいたら、分かりやすかったんだけどね。
ニアの持っている転移の魔法道具に、この島は登録されていないし、俺の持っている魔法道具にもニアが今いる魔物の領域は登録されていない。
呼ぶに呼べないんだよなぁ……。
いや待てよ……すっかり忘れていたが……呼び寄せる方法があった!
『救国の英雄』で思い出したけど……『職業固有スキル』に『集いし力』というのがあって、それを使えば念話が繋がる相手を俺の下に、呼び寄せることができるんだった。
ちょうどいい機会だ、試してみよう!
(ニア、今大丈夫? ちょっと俺のところに来て欲しいんだけど)
(わぁ、グリム! なに? どうかしたの? 行くのはいいけど……どうやっていけばいいわけ?)
ニアは戸惑いつつも、そう返答した。
(今すぐ動けるようなら、俺の職業固有スキルの『集いし力』を使って、俺の下に転移してもらうけど、いいかな?)
(オッケー、いいわよ! 臨戦態勢で行った方がいい? どんな感じ?)
俺はニアに現在の状況を説明し、スキルを発動させた。
「集いし力……ニア召喚!」
「「「おお!」」」
周りで見ていた島の人たちが、驚きの声を上げた。
「ハーイ! 妖精女神ことニアよ! 相棒のグリムに呼ばれて、ただいま見参!」
驚いている島の人々に向かって、ニアは超ドヤ顔でそう言った。
しかもいつもの残念ポーズだ。
左手を腰に当て、右手人差し指を突き上げている。
残念感が半端ない……。
できるだけ妖精女神らしく、厳かに登場してくれと言ったのに……トホホ。
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