914.コバルト領から、逃げてきた人々。

 老人、子供、女性ばかりが守っている村のような場所の簡易砦は、襲いかかる海賊たちに突破されそうになっている。


 そこで、状況はよくわからないが、まずは襲っている海賊たちを無力化することにした。


 俺は、『アルシャドウ号』自身でもあるエメラルディアさんに声をかけて、船着場のあたりに着水してもらった。


 ツクゴロウ博士がいち早く船から飛び降りて、海賊たちに襲いかかった。


 砦を襲っている海賊たちは三十人ほどだが、今回もほぼツクゴロウ博士の一人舞台になってしまった。

 八割がたツクゴロウ博士が倒してしまったのだ。


 俺と『魚使い』のジョージもすぐに駆けつけて、『状態異常付与』スキルで『麻痺』を付与して無力化したが、何人も残ってはいなかった。



 砦の柵の間から槍を突き出している老人や、弓を構えた女性が警戒しながら俺たちを見ている。


「あなた方に危害を加えるつもりはありません。事情は存じませんが、危ない状況だったので海賊たちを無力化しました。何が起きていたのか、説明してもらえませんか?」


 俺は、両手を挙げて戦う意思がないことを示しつつ、大きな声で語りかけた。


 戦闘に参加していた年嵩の子供たちや大人の女性、老人たちが集まって、何やら話をしている。


 上半身裸で色黒の痩せた老夫が近づいてきて、柵越しに話しかけてきた。


「危ないところを助けてもらって、すまんですのぉ。海賊どもが、若い衆の留守を狙って襲ってきたのですじゃ。ここの若い衆は、近くで悪さをする海賊を懲らしめに行ったのですが、その隙をつかれたみたいでのぉ。ところで、あなた方はなぜここに来たのですか?」


 老夫は事情を説明してくれたが、まだ警戒しているようだ。

 その後ろには、人々が集まり不安げな表情で俺たちを見ている。


「私たちは、王家直轄領となったコバルト領の領政官である第一王女のクリスティア様の遣いで来た者です。悪さをしている海賊を討伐することと、海賊を襲う海賊と言われている海兵隊のような働きをしている海賊団に会うために来ました。ここは、その海賊を襲う海賊のアジトではないのでしょうか?」


 俺がそう説明し質問を投げかけると、老夫は表情を曇らせた。


「やはり……コバルト領から来たのか……。帰ってくれ! あんたらに迷惑はかけてないじゃろ! そっとしといてくれ!」


 老夫は、俺たちを怒鳴りつけた。

 一気に態度が硬化してしまった。


「コバルト侯爵は息子に殺され、コバルト家は取り潰しになりました。領内にはびこっていた不正も、今一掃されているところです。あなた方は、コバルト侯爵領の領民だったのではありませんか? もし酷い目にあって不信を抱いているなら、今はもう大丈夫です。王家直轄領として、立て直しているところですから」


「そんな話が信じられるか! 今まで国が何をしてくれたと言うのだ!? どれほど領民が苦しんだことか……ここにいる者は皆、コバルト領で虐げられていた者ばかりだ! ここで肩を寄せ合って、生きているんだ。そっとしといてくれ! さっさと帰ってくれ!」


「そうだ、そうだ!」

「さっさと帰れ!」

「「「帰れ!」」」


 老夫の言葉に、他の人々も同調し、一気に険悪な感じになった。

 どうやらここの人たちは、コバルト侯爵領でひどい目に遭って、逃げてきた人たちのようだ。


 そして子供たちが、俺たちに石を投げつけてきた。


 もちろん避けられるし、当たっても大したことはないのだが……子供に石を投げられるって……かなりショックだ。


 メンタルが相当やられる……。

『限界突破ステータス』の俺は、落ち込んでも気持ちを持ち直すのは早いのだが……やっぱりショックだよね。

 リアルに石を投げられる経験なんてないからね。

 しかも子供から……。


 俺は、暫し言葉を失ってしまった。


「コラ! 坊主ども、石を投げるのをやめんか! ワシらは話に来たんじゃ。何も取って食おうと言ってるわけじゃない。話を聞きたいだけじゃ。もう少し話をしようではないか!」


 ツクゴロウ博士が、石を避けることもせずに当たりながら柵に近づいて、子供たちに語りかけた。


 その様子を見て子供たちは、大人たちの後ろに隠れてしまった。


「わしらの話など聞いてどうするのじゃ!? もう何も期待してないし、関わりたくない。そっとしておいてくれ……」


 先程の老夫が、人々を代表する感じで再度答えた。


「皆さんの希望は、ここで暮らすことなのですか? コバルト領が改善されても、戻ってくるつもりはないのですか?」


 俺は、改めて尋ねてみた。


「改善されたとしても、一時的なものじゃよ。時が経てば、同じことが繰り返される。もう信じられんのじゃよ。わしらは、ここで静かに暮らしたいのじゃよ」


「それは……全員の総意でしょうか? ここで幸せに暮らしていけるのでしょうか? 我々が現れなかったら、命を落とした人が出たのではありませんか? 安全にここに永住できるのならいいと思いますが、そうでないのなら……子供たちの為にも戻ってはどうでしょう? 皆さんが罪に問われることがないように、私の方で話をします……」


 俺の問いかけに……島の人たちは、また集まって話をしている。

 少しは響いてくれたようだ。


 ——シュッ、ズボッ

 ——シュッ、ズボッ

 ——シュッ、ズボッ

 ——シュッ、ズボッ


 そんな時だ、俺たちがいる場所の近くの波打ち際に、矢が降り注いだ。


 中型船が二隻近づいてきている。

 まだかなり距離があるが、船から矢を射ったようだ。


 どうやら、もともとここにいた男衆が帰って来たらしい。



 俺たちは、敵でないことをアピールするために、男衆が近づいてくるまで何もせずに、武器をしまって立っていた。


 それでも船を降りた男たちが、すごい形相で俺たちに向かって突進してくる。


 四十人くらいいるようだ。


 状況的に見て……多分俺たちがここを襲った海賊の一味だと思っているのだろう。


 剣をさざし、矢をつがえて、完全な臨戦態勢で俺たちを取り囲んだ。


「争うつもりはありません。話し合いに来ただけです」


 俺は、笑顔を作り、ゆっくり声を発したが……全く響いてない感じだ。


 海賊たちは、臨戦態勢のままだ。

 今にも斬りかかってきそうな殺気だ。


「お頭様、本当です。この者たちが、海賊たちに襲われていたわしらを助けてくれたのです。危ないところだったですじゃ」


 先程の老夫が、そう言って説明してくれた。


 するとスラッとした細身の海賊が一歩前に出て、手をかざした。

 それを合図に、他の海賊たちは武器を下ろした。


 どうやら……この細身の優男がお頭らしい。

 ん……待てよ……もしかして……女なのか?


 たぶん……男装している女性だ……。

 この胸の感じ……微妙に隠しきれていない……。

 絶対に女性だと断言できるほど大きいわけではないが……。


 俺は気になったので、『波動鑑定』をかけてみた。


 すると……やはり女性だった。


 名前は、アルビダ=シレーヌ、女性で年齢は十七歳となっている。

 てか……十七歳!?

 しかもお頭なのか!?


 でもレベルが35あるから、お頭でもおかしくないか……。

 この中で、腕っ節が一番強いのかもしれない。


 他の海賊たちも……よくよく見ると……あと四、五人は女性っぽい海賊がいる。

 全員男の格好はしているけどね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る