910.わたあめで、クレーム。

 食のコンテスト『美味い屋台決定戦! 屋台一番グランプリ』において、入賞の第七位までに『フェアリー商会』の屋台が五つ入っていた。


 密かに全てを独占できないかと期待していたのだが、そう甘くはなかった。


 ちなみに『フェアリー商会』からの出店メニューは、以下のようになっていた。


 ○『カレーライス』屋台

 ○『とんかつ』屋台

 ○『ツナマヨ』屋台

 ○『おにぎり』屋台

 ○『ホットドッグ』屋台

 ○『コロッケ』屋台

 ○『フレッシュジュース』屋台

 ○『かき氷』屋台

 ○『揚げカマボコ』屋台

 ○『せんべい』屋台

 ○『アメリカンドック』屋台

 ○『わたあめ』屋台

 ○『クレープ』屋台


 領の集計担当者が密かに教えてくれたのだが、第七位までに入らなかったメニューも全て二十位以内には入っていたとのことだ。

 全てのメニューが、大好評だったと言っていいだろう。

 この世界の人にとっては目新しいものばかりなので、目を引いて購入してくれたようだ。

 そして、味にも感動してくれたようだ。

 あと珍しいメニューであった為に、他と競合することもなく、票が分散しなかったのも『フェアリー商会』には有利だったはずだ。


 全体の出店屋台は、やはり肉関係が多かったので、競合して票が分散していたと思うんだよね。

 そういう意味では、激戦区の肉串の中でランクインしている『ニクマツリ商会』は本当に凄いと思う。


 正確に分析したわけではないが……順位を決めたのは、リピーター票ではないかという気もする。

 一度食べて気に入れば、何回でも食べることができるわけだし、その都度、渡される投票札を提出できるからね。


 一日だけの開催ではなく三日間のイベントだったし、半日前倒しで始めたので実質三日半あった。

 それ故に、リピーターが多ければ、それだけ票が入るということになるのである。

 仮に初日に『カレーライス』を食べて気に入った人が、開催期間中一日一食でも毎日食べてくれたなら、一人で四票入れてくれることになるからね。

 大きく貢献してくれるわけだ。

 まぁこれについては、どこの屋台も条件は一緒だけどね。


 それから改めてわかったことは、やはり屋台の不動の人気メニューは肉関係ということだ。


 肉に関係するメニューを出していた屋台はかなりあり、票が分散していたわけだが、ある程度まとめたなら『カレーライス』も負けていたかもしれない。


 今更だが……『フェアリー商会』の屋台メニューには、定番と言える焼き串がないんだよね。

 焼肉店はオープンしていたんだけど、屋台の焼き串はなかったのだ。

 あえて激戦の焼き串で屋台を出すという発想もなかったんだよね。


 でも、試しにやってみてもいいかもしれないと思ってしまった。

 今回のコンテストに出ていた焼き串の屋台は、皆創意工夫していて独自のつけダレなどを開発していた。

 お客さんの立場としては、味の違いを楽しむだけでもかなり面白かった。


 独自のつけダレを開発して、美味い焼き串を作ってみたいという気持ちが、ちょっと湧き上がってしまったのだ。


 ただ個人的には、豚バラを塩で焼いたシンプルな焼き串が好きなんだけどね。

 まぁこの世界では、猪肉のバラ肉ということになるだろうけど。



 それから、『フェアリー商会』の屋台では、実は少しだけ問題が発生していたのだ。


 それは、『わたあめ』だ。


 クレームが何件か発生したのだ。

 クレーム内容は共通していて、『わたあめ』を購入した人が家に持って帰って、翌日食べようと思ったら小さくなってふわふわで無くなっていたというものである。

 それで怒って、屋台に文句を言いに来たというものなのだ。


 屋台の商品だしその場で食べる前提で考えていたので、時間が経つと『わたあめ』がしぼんで硬くなるという告知はしていなかったんだよね。

 そこまで頭が回っていなかったのだ。


 スタッフの話では、泣きながら小さくなった『わたあめ』を持ってきた子供もいたとのことだった。

 そこで、スタッフの判断で新品の『わたあめ』と交換してあげたという報告が上がってきていたのだ。


 交換してあげたのは、いい判断だと思う。

 事前にそんな注意は、促していなかったからね。


 考えてみれば、俺も元の世界にいたときに、お祭りなんかで『わたあめ』を欲張っていくつか買って、次の日に食べようと思ったら袋の中で小さくなっていたという経験はあったんだよね。

 事前にそのことに、思いが至らなかったのだ。

 少し反省してしまった。

 まぁ大きな問題には、ならなかったけどね。



 表彰式では、第一位から第七位までを獲得した屋台メニューの代表者が壇上に呼ばれ、主催者であるセイバーン公爵領領主のユーフェミア公爵から直々に表彰されていた。

 記念のメダルを首にかけられ、賞金と副賞が授けられていたのだ。


 七つのメダルは、俺が作ったものだ。

 表面に『美味い屋台決定戦! 屋台一番グランプリ』という文字と順位を現す1から7までの数字が入っている。

 裏面は、セイバーン公爵領の紋章が刻んである。

 青く輝く綺麗なメダルなのだ。


 賞金は、第一位が七十万ゴルで、十万ずつ下がっていって第七位が十万ゴルになる。


 食のコンテストであり、入賞による宣伝効果を考えれば、賞金はなくてもいいくらいなのだが、一応賞金をつけてくれたのである。

 大きな金額ではないが、十分な賞金だろう。

 何よりも……入賞するほど売れたということは、それだけすごい売り上げになっているはずだから、賞金はほんとにおまけ的な感じだよね。


 そして今回は、記念すべき第一回大会ということで、特別に副賞をつけるという提案を俺がして、副賞も用意したのだ。

 まぁ実際に用意してくれたのは、『ドワーフ』のミネちゃんだけどね。

 ミネちゃんに頼んで、『ドワーフ銀』の包丁を作ってもらったのだ。


 普通の人にとっては、『ドワーフ銀』の包丁なんて手にすることのできない特別なものと言える。


 ただ、入賞した七組中五組が『フェアリー商会』の屋台だったから、なんとなく自分で作ったものを自分にあげてる気分だった……。

『カレーライス』屋台の分はハナシルリちゃんにあげて、『クレープ』屋台の分はオカリナさんたちにあげて、『ツナマヨ』屋台の分は元々『ツナマヨ』を知っていた『シンニチン商会』のアンティックくんたちにあげてもいいかもしれない。


 残り二本うち一本は俺がもらって、もう一本は最近寿司職人と化している『魚使い』のジョージにあげよう!


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