909.屋台一番グランプリ、結果発表!
翌日の朝、俺は『領都セイバーン』の領城南門前の式典広場にいる。
昨日まで行われていた食のコンテスト『美味い屋台決定戦! 屋台一番グランプリ』が終了し、コンテストの結果が発表されたのだ。
このコンテストは、あくまでセイバーン領の主催である。
『フェアリー商会』は、その委託を受けて運営を行っていたのだ。
それ故に、領のイベントとして、式典広場で結果発表が行われた。
もちろん発表のアナウンスをしてくれたのは、あの絶叫アナウンサーことマスカット子爵家の次男シャイニング氏だ。
コンテストに参加した屋台店主や商会の人たちはもちろんだが、多くの領民が集まってくれていた。
そして発表された結果に、大歓声が起こっていた。
気になる第一位は……
俺の予想通り、というか狙い通り……『カレーライス』だった!
俺や仲間たちは、発表の瞬間、全員ガッツポーズをした。
これはかなり嬉しい!
セイバーン公爵領の人々にも、美味しさが認められたということである。
もちろんビャクライン公爵家長女で、見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんもガッツポーズをしていた。
彼女が再現したメニューだし、公式には開発したということになっているからね。
もちろん溺愛オヤジのビャクライン公爵と、シスコン三兄弟たちも大喜びだった。
ビャクライン公爵は喜びのあまり、大事な愛娘のハナシルリちゃんを空中に放り投げてしまい、慌ててキャッチしていた。
そして密かに、アナレオナ夫人に肘鉄を食っていた……残念。
『カレーライス』の人気は物凄く、開発者ということになっているハナシルリちゃんの名前が、かなり広く知れ渡っていた。
そしていつもビャクライン公爵が言っているように、戦士の料理で、食べると力が漲る的な話も、完全に信用されてしまっている感じだった。
誇大広告的な感じで……正確な情報では無いのだが、まぁいいだろう。
一応スタッフには、質問された場合には直接的な効能は否定しつつ、そう思えるほど美味しいものだと伝えるように指示してある。
食べた人はみんなリピーターになるようで、昨日の最終日にはイベントの終了以降、屋台がなくなってしまうのかという問い合わせが殺到していた。
昨日、そんな報告を受けたので、しばらく屋台を継続することに決めた。
通常の屋台広場に出店することにし、そう案内をしてもらったのだ。
本当は、イベント終了と同時に屋台を全て撤収しようと思っていたのだが、あまりの人気ぶりに、延長することにしたのである。
お客様への感謝の意味も込めてた。
ただ各屋台を運営しているスタッフたちは、今回のイベントの為に一時的に来ているスタッフたちなので、ずっといるというわけにもいかない。
まぁほとんどのスタッフは、『コロシアム村』のスタッフだから、何とかならなくもないけどね。
だいぶスタッフが増えてきていて、育成も進んでるからね。
『コロシアム村』に急遽作ったスタッフ育成用の研修施設では、現在多くのスタッフが研修中なのだ。
ちなみに、『正義の爪痕』の『魔物化促進ワイン』の製造施設に囚われていた五十人の女性たちも、『フェアリー商会』で働いてくれることになったので、そこで教育を受けている。
五十人中四十人は奴隷だったが、奴隷紋を消してあげたので、みんな喜んでくれていた。
恩返しの為にも、『フェアリー商会』で頑張ると張り切ってくれているのだ。
また領都での通常の雇用も進んでいるので、教育しながら勤務してもらえば、屋台の運営ぐらいは何とかなる感じだ。
コンテストの順位は、セイリュウ七本槍にちなんでか七位まで発表された。
なかなかに面白い結果だった。
俺の予想とは、少し違っていたんだよね。
改めてまとめると……
第一位 カレーライス フェアリー商会
第二位 かき氷 フェアリー商会
第三位 とんかつ フェアリー商会
第四位 濃厚タレ漬けあとひき焼肉 ニクマツリ商会
第五位 クレープ フェアリー商会
第六位 とろけ肉と味しみ卵の豊潤スープ オッカア
第七位 ツナマヨ フェアリー商会
……という結果になっていた。
第二位のかき氷は、意外だった。
かなり喜ばれるだろうとは思っていたが、まさか第二位に入ってくるとは思っていなかったのだ。
やはりこの地方は暑いから、かき氷が受けたようだ。
それにシロップも『練乳』『野イチゴ』『ブルーベリー』『レモン』と四種類用意したので、一人で何種類も食べる人が結構いたのだ。
そんなこともあり、数が稼げたのだ。
このコンテストの順位付けは、あくまで売れた数だからね。
商品と一緒に渡される投票札を、購入した人が投票所で投票してくれるという形式なのだ。
投票札にはあらかじめ商品名と屋台名が書いてあるので、それを投票所にもっていくだけで良い。
投票率を高めるために、投票してくれた人には飴をプレゼントするという方法をとったので、飴欲しさにほとんどの人は投票してくれたようだ。
この飴も、かなり評判が良かった。
今後は、商品として販売しようと思っている。
『わたあめ』や、この『べっこう飴』などを集めた飴の屋台を作ってもいいかもしれない。
子供たちに喜ばれそうだ。
そういえば……『かき氷』の屋台では、スタッフが「急いで食べると頭が痛くなる」という話を告知しながら販売していたのだが、みんな初めて食べるので実感がなかったらしく、普通にがっついて食べて、頭が痛くなる人が続出していたようだ。
やはり、一度経験しないとわからないよね。
第三位の『とんかつ』は、順当だろう。
めっちゃ美味いからね。
上位入賞を目指していたから、予想通りという感じだ。
やはり衣のサクッとした感じと、中のジューシーな感じが受けていたようだ。
サイズを小さくして、コロッケサイズのミニカツにして提供したのだが、『串カツ』にしてもよかったかもしれない。
後から『串カツ』というアイデアを、思いついたんだよね。
『とんかつ』の屋台は、『カレーライス』の屋台と同じように、このコンテスト用の特別な出店で、屋台事業のメニューに加えるつもりは基本的にはないのだ。
でも『串カツ』は、いいかもしれない。
今後検討してみようと思っている。
第四位は、『ニクマツリ商会』というところが出している肉串なのだが、確かに美味しかった。
そして、あとをひく味だった。
この肉串も、かなりリピーターがいたんだと思う。
秘伝のタレに漬け込んだ熟成肉は、濃厚な味わいで非常に柔らかい肉だった。
屋台で提供される焼き串は、硬めのものが多いのだが、特筆すべき柔らかさだったのだ。
『ニクマツリ商会』は、領都で生肉の販売をしたり、食堂を出したり、屋台を展開しているという肉に特化した商会らしい。
肉のプロ集団と自負しているとのことだ。
契約している猟師も大勢いるようだ。
第五位は、『クレープ』だ。
やはり甘味の少ないこの世界では、大受けだった。
あの柔らかい生地と生クリームが、なんともいえない美味しさだしね。
一人で何個も食べる人が、かなりの数いたようだ。
もっと上位に入ってもおかしくないと思ったが、基本的には肉とかの方が人気があるのだと思う。
第六位の『とろけ肉と味しみ卵の豊潤スープ』は、スープの美味しさとともに煮込んだ柔らかい肉と味の染み込んだゆで卵が最高に美味かった。
この屋台は、個人での出店でオッカアさんという肝っ玉母さんのような感じの人が運営していた。
ただ、子分みたいな若い衆がいて、大勢手伝っていた。
『フェアリー商会』の屋台もそうなのだが、このコンテストで上位に入賞するためには、数を販売しないといけないので、お客さんを待たせずにスムーズに提供するために、かなりの人手が必要となるのだ。
本当に一人で切り盛りしている屋台は、なかなか大変だと思う。
まぁコンテストだからしょうがないけどね。
そしてギリギリ第七位に滑り込んだのが『ツナマヨ』だ。
もうちょっと上位に入るかとも思っていたのだが……。
見た目の派手さがなかったのかもしれないね……。
まぁそれでも、食べた人は皆美味しいと言ってリピーターになっていたようなので、今後根付いていくだろう。
マヨネーズの魅力は、充分伝わっていたようだ。
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