902.コボルトの作る、名剣。
「あの……『アルテミナ公国』に行きたい事情というのは……?」
俺は、俺たちと一緒に『アルテミナ公国』に行きたいというブルールさんに尋ねた。
単に俺たちに協力するということ以外にも、彼女が行きたい理由があるらしい。
「『アルテミナ公国』には、私の昔の仲間がいるのです。その情報を得て、行きたいと思っていたところなんです。悪魔が根城を作っているなら、仲間たちも巻き込まれる可能性があります。行って、直接状況を確かめたいのです!」
ブルールさんが、そう答えると……オカリナさんが顔色を変えた。
「仲間たちって……もしかして……?」
「そうよ。あなたが思っている通りよ!」
オカリナさんの質問に、ブルールさんが被せるように答えた。
「え、あの子たちの居場所……知っているの!?」
「ハートリエルは、『アルテミナ公国』に確実にいるし、シュキも多分いるわ。私も最近、偶然に知っただけなんだけどね。ハートリエルは、『冒険者ギルド』の副ギルド長らしいから、確実にいるはずよ!」
「え、ほんとに!? あの子ったら……『冒険者ギルド』の副ギルド長になってるの……?」
「ハートリエルの使いの子が、わざわざこの里を探し出してやって来たのよ。その子は、『ブラウニー』族の子だったわ。話を聞いてもらいやすいように、同じ妖精族の『ブラウニー』族の子を選んだんだと思うんだけど。そしてその依頼の内容というのが、『魔剣 カミツキ丸』をグレードアップさせたような武器を作ってほしいという依頼だったのよ」
「カミツキ丸……それって……。あの武器を使うのは、シュキ以外に考えられない……。という事は、二人は一緒にいるっていうことよね!」
「そうなるよね。だから『アルテミナ公国』の『冒険者ギルド』に行けば、多分二人に会えると思う。そして、『カミツキ丸』をグレードアップさせたような剣を作ってほしいという依頼も気になるのよ。『カミツキ丸』は十分強力な武器だし、普通に使ってたくらいじゃ傷まないはずだから。何かあったのかもしれない……。使いの子に聞いたけど、詳しい事情まではわからないみたいだったのよね」
「そうね……少し気になるわね。これは……私も『アルテミナ公国』に行かなきゃだわ!」
……そんな二人の話が一段落したところで、オカリナさんとブルールさんは、俺たちにも説明してくれた。
それによると、以前オカリナさん達が組んでいた迷宮攻略者パーティー『
そのうちの一人である『ハーフエルフ』のハートリエルさんという人は、なんと『冒険者ギルド』の副ギルド長になっているらしい。
そしてわざわざブルールさんの里を探し出して、武器の製造を依頼してきたということのようだ。
その武器というのが、もう一人の仲間である鬼人族のシュキさんが使っていた『魔剣 カミツキ丸』という名前の武器の強化版のようなものらしい。
オカリナさんよれば、『魔剣 カミツキ丸』は簡単に言うとハサミを巨大にしたような武器とのことだ。
両刃の剣で、状況に応じてハサミのように開ける特殊な剣らしい。
持ち手のところを開いて、ハサミのようにエックス状に広げることができて、敵を切断できるのだそうだ。
斬りつける剣と、挟んで切断する大鋏の使い方ができるようだ。
この武器は特殊らしく、おそらくシュキさん以外は使わないだろうとのことだ。
それ故に、シュキさんも一緒にいるのではないかと予想したらしい。
「もう依頼された武器は、出来上がってるのよ。だからすぐにでも旅立てるの」
ブルールさんはそう言って、魔法カバンから大きな一振りの剣を出した。
大剣サイズの大きな剣だ。
持ち手のところが丸くカバーされていて、本当にハサミの持ち手のようになっている。
大きな鞘を外して見せてくれたが、普通に見た限りでは大剣だ。
持ち手のところが、独特なだけで剣の部分はよくある広幅の大剣に見える。
だがブルールさんは、魔力を通して、剣を展開させた。
すると大剣が縦に割れて、持ち手の所も割れて連動するようにエックス形状になった。
まさにハサミを開いた状態である。
そしてハサミの刃のところの上半分の部分が、ギザギザのノコギリ形状になっている。
「カミツキ丸と似てるけど、刃の上方をギザギザにしたのね」
オカリナさんが、頷きながら言った。
「そうなの。一撃で切断できない場合に、この先端部分を引くようにして切り裂くことができるようにしたのよ。カミツキ丸の強化版で『魔剣 カミチギリ丸』という名前にしたわ。丹精込めて打ち込んだ剣だから、きっと満足してくれると思うんだけどね」
「そうね。きっと喜んでくれるわよ。それにしても……大剣として使うのはともかく、このハサミとしての使い方は、普通にはできないわよね。使い方が難しいし、腕力もいるからね」
「そうなのよね。やっぱりシュキ以外には、使えないだろうね。それから……これはグリムさんに差し上げます。我々『コボルト』族が丹精込めて作る鍛造剣です。『青鋼剣 インパルス』といいます。一打ち一打ち、念を込めて打ち込んだ逸品です。そうやって作った剣は皆『青鋼剣 インパルス』という名前が付くので、一点物というわけではありませんが、普通では手に入らない逸品ですよ。グリムさんは、おそらくもっと良い剣をお持ちだと思いますが、普段使いの剣にするとか、お仲間に差し上げてもいいと思います。もし気に入ってくれて、お仲間の分も欲しい場合は、言っていただければお作りします!」
ブルールさんはそう言って、俺に豪奢な剣を渡してくれた。
柄のところも鞘のところも、メタリックな青色がベースになっていて、金や銀の装飾が施された見事な剣だ。
サイズは、オーソドックスなサイズの剣である。
確かに、普段使いの剣にいいかもしれない。
俺の公式な普段使いの武器は、鞭ということになっていて『魔法鞭』を使っているが、今後は剣を装備してもいいかもしれない。
今までは剣を使う必要があるときは、『
今後は、この剣を普段使いの剣にしよう。
「ありがとうございます。私の普段使いの剣にさせてもらいます」
「それはいいわ! 実はこの剣は、ある意味特殊な剣なんですよ。『コボルト』族が認めた者にしか授けない特別な剣なんです。鞘に犬顔の紋章とインパルスという文字が刻印されているでしょう? この剣を所持していると、剣に詳しい者なら人族でもある程度わかると思います。『コボルト』のインパルスと言えば有名ですから。それに妖精族の中では、広く通用すると思います。この剣を見せれば、妖精族の『コボルト』が認めた者だということを理解すると思います。また『コボルト』族の中では、他の氏族の里に行っても厚遇を受けられると思います」
「そんな有名な剣をいただいて、光栄です。ありがとうございます」
「いえ、いいんです。そうだ、使いこなせるようになると、斬りつけた時に電撃や衝撃を同時に出すことができるようになります。複雑な魔術式を組み込んでいるわけでは無いのですが、一打ちずつ念を込めて打ち込んでいるので、魔力と念の通りがいいのです。まぁ本当は、人の個性に馴染みやすいといったほうがいいかもしれません。使い込むほどに体の一部のように感じられると思います。そういう状態になると、念による衝撃波や電撃波が出せるようになるんですよ」
「それはすごいですね! 魔術式を組み込んだ魔剣ではないのに、そんなことができるんですね! 使うほど馴染んで、すごい剣になると言うわけですね」
「おそらくグリムさんなら、すぐに使いこなせると思います。斬りつけた相手を電撃で痺れさせて行動不能にすることもできますし、衝撃を発生させて弾き飛ばすこともできます。それがインパルスの名前の由来でもあるんです」
「なるほど、対人制圧戦でも使えそうですね。ありがとうございます。大事に使わせていただきます。それから多分仲間の分も追加でお願いすると思いますので、その時はよろしくお願いします」
俺は、お礼を言った。
そして、鞘から剣を抜いてみた。
剣も青く煌めいている。
本当に見事な剣だ。
どちらかと言うと、儀礼用の装飾された剣のようにも見える。
というか……そう言えば、みんな信じるのではないだろうか。
兎にも角にも、素晴らしい逸品を手に入れてしまった。
俺の仲間たちもそうだが、ビャクライン公爵とか国王陛下とか、セイリュウ騎士のみんなが見たら、絶対に欲しがりそうだなぁ……。
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