903.コバルト直轄領の、体制。

 翌日の夕方、俺は秘密基地『竜羽基地』の会議室で打ち合わせをしている。


 国王陛下やユーフェミア公爵をはじめ、いつものメンバーが集まっている。


 夕方の時間帯は、この『竜羽基地』に集まって訓練をしているメンバーが多いので、最近よく会議をしている『コロシアム村』の俺の屋敷ではなく、ここで会議をしているのだ。


 今日は、いくつか報告があるということで、訓練を中断して会議になっている。


 ちなみに、『コボルト』の隠し里からは昨夜帰って来ているが、俺に同行して『アルテミナ公国』に向かうと申し出たブルールさんは、まだ一緒には来ていない。

 少し準備をしてから合流するということで、俺が『アルテミナ公国』に向かう五日後の朝までには来てくれることになっている。


 会議の主な議題は、コバルト侯爵領についての報告だった。


 コバルト侯爵領は、予定通りコバルト直轄領という名前になり王家直轄領となった。

 領政官として第一王女のクリスティアさんが、管理することになるのでクリスティアさんから報告がなされた。


 それによると、クリスティアさんは反乱事件からわずか三日の間に、ほとんどの貴族や役人の尋問を終えたらしい。

 反乱事件の翌日は記念式典で、ほとんどの時間を式典やパレードに使っていたから、実質昨日と今日の二日間しか時間はなかったはずなのに、すごい手際だ。

 反乱事件があった日の夜から、ほとんど徹夜のような状態でやっていたらしい。


 『特命チーム』のゼニータさんやルセーヌさんも協力し、転移の魔法道具を使って各市町の貴族や役人を連れてきて尋問したようだ。


 その結果、家名断絶にならずに残る貴族は、七家門のみになったらしい。

 永代貴族が十五家門、一代限りの名誉貴族が十家門あったようだが、永代貴族の七家門のみが存続を許され、残りは断絶になったようだ。

 名誉貴族は、全滅らしい。

 永代貴族の七家門のうち三家門は、現在の当主が代替わりして引退することと引き換えに存続を許されたそうだ。

 この点、一代限りの名誉貴族は、代替わりという手段が使えないので、全て断絶になったらしい。

 そもそも、ほとんどの名誉貴族がコバルト侯爵に擦り寄って、金品などの見返りに爵位をもらったような品性の無い者たちだったようだ。


 尋問を担当したクリスティアさんも、思っていた以上に酷い行状の貴族が多くてショックを受けたとのことだ。


 国王陛下は、厳しく断罪したわけだが、他の領主や貴族への警告という意味もあるのだろう。

 前に少し聞いたが、コバルト侯爵領以外にも領政が乱れているところがあるらしい。


 国王陛下は、領主の圧政に苦しむ領民が出ないように、今後各領の状況を精査して、問題があれば先頭に立って介入して、立て直すつもりのようだ。


 領の運営を任せられている領主家にとっては、国王が直接介入してくることは、非常に不名誉なことで、面目を大きく潰すことになるので、通常であればそんな強行手段は取らないとのことだ。

 ただ『魔の時代』に突入した現状では、そんな配慮をしている場合ではなく、一人でも多くの国民を守らなければならないという覚悟のようだ。


 少なくても自国の人々については、不当な扱いで苦しむことがないように、目を配るとのことだ。



 代替わりなどの条件を加えられずに無傷で残った貴族家は、わずか四家門だ。

 奇しくもその四家門は、四つの街の守護だった。


 コバルト侯爵領には、『領都コバルト』を含めた五つの都市と五つの街があるのだが、そのうち四つの街の守護だけは、悪事に手を染めていなかったらしい。


 その四つの街の守護は、『ヒコバの街』のチーバ男爵、『ニコバの街』のギュンマ男爵、『ミコバの街』のイビャラギイ男爵、『キコバの街』のトチュギ男爵ということで、皆男爵位で下級貴族だ。


 『チュコバの街』と『ヒルト市』『ニルト市』『ミルト市』『キルト市』の四つの都市の守護は、摘発されてしまったとのことだ。


 チーバ男爵たち四人の守護が、しばらくの間はそれぞれの近くの都市の守護も兼務して管轄することになったようだ。

 一つの都市と一つの街の両方を守護としてみるので、新たに大守に任命されるとのことだ。


 『ヒコバの街』のチーバ男爵は『ヒルト市』、『ニコバの街』のギュンマ男爵は『ニルト市』、『ミコバの街』のイビャラギイ男爵は『ミルト市』、『キコバの街』のトチュギ男爵は『キルト市』を担当するそうだ。

 『領都コバルト』の近くの『チュコバの街』は、『領都コバルト』の管轄として、領政官のクリスティアさんが担当するとのことだ。


 その他に助かった貴族は、ザイタマ男爵、カナギャワ子爵、トキイオウ子爵の三家門だが、現当主は隠居して、代替わりすることで許されたかたちだ。

 ただ、代替わりした新しい当主が人間性に問題があるとまずいので、次期当主は慎重に決めるようにと陛下が直々に念押ししたようだ。

 ザイタマ男爵が領軍の再編、カナギャワ子爵が領民への支援、トキイオウ子爵が産業育成を担当することになったとのことだ。


 ピグシード辺境伯領への移住希望者に対しては、今まではコバルト侯爵が妨害工作のようなことをしていたわけだが、今後はむしろ支援してくれるとのことだ。

 王家直轄領になったことで、移住を思いとどまる人も増えるだろうが、それでも希望する人に対しては支援をしてくれるらしい。

 元々ピグシード辺境伯領への移住者募集は、国王陛下も承認しているもので、全国的に告知しているのだ。

 それ故に、反対する理由はないし、領民の判断に任せるということのようだ。


 それから今後のコバルト直轄領への俺たちの協力としては、前に話があった通りに取り潰しになった二つの商会を引き継いで、商品の流通が滞らないようにしてもらいたいということだった。

 逆に言うと、それだけやってくれればいいとのことだった。


『フェアリー商会』を頑張ればいいと言うことなのだが、冷静に考えると密かに一番大変かもしれない。

 店舗物件等の資産を無償で引き継げたとしても、悪徳商会だった体質を考えると継続雇用できる人材は少ないだろうから、確実に人材不足になるだろう。

 またもや人の確保が問題になりそうだが、やれる範囲でやるしかない。




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