901.アライグマの子供、ラスとカル。
鍛治工房の見学を終えた俺たちは、里の中の他の施設を案内してもらっている。
大きなグラウンドのような場所がある。
広いスペースと丸太が組んである特殊な場所だ。
ここは村人たちが戦闘訓練をしたり、犬たちが訓練をする場所とのことだ。
丸太が何本も並んでいるスペースは、犬たちが立体的な動きを身に付ける訓練スペースらしい。
丸太を足場にしてジャンプして、上下に移動するのだ。
何匹かの犬たちが、訓練中だ。
広いスペースを自由に走り回っている犬たちもいて、さしずめドッグラン状態だ。
「ミネちゃーん、見て見て!」
『ドワーフ』のミネちゃんと同じ歳くらいの女の子が、大きな籠を抱えて走ってきた。
青髪をボブカットにしていて、顔つきはなんとなくブルールさんに似ている。
「ウミルちゃんなのです! 久しぶりなのです! 何かすごい食べ物なのです?」
ミネちゃんはそう言って近づくと、籠の中を覗き込んだ。
そして、驚ろきの表情になった。
「もう、食べ物じゃないよ! アライグマの子供だよ! かわいいでしょ。昨日、パトとラッシュが森で見つけてきたの」
ウミルちゃんと呼ばれた少女は、少しほっぺを膨らませた。
俺も覗き込むと、確かに可愛いアライグマの子供が二匹いた。
体色は、珍しいオレンジ色だ。
「まぁ、可愛い! この里って……犬以外も育てるの?」
オカリナさんも少し驚いたようで、ニヤけながらもブルールさんに視線を向けた。
「たまにね。家畜動物以外では基本的に犬しか育てないんだけど、偶然拾って他の動物を育てることもあるのよ。この子たちは、さまよっていたところをパトとラッシュが見つけて、すごく懐いて来ちゃったのよね。多分親が何かの事情でいなくなっちゃったんだと思うんだけど」
ブルールさんが、寝ているアライグマの子供たちの頭を撫でながら、ニヤけ顔で答えた。
「そうなんだ。この子たちも訓練したら、犬たちのように強くなるのかしら?」
「私たちが訓練すれば、その可能性は十分にあるわ」
「それは楽しみね」
「そうだ、紹介するわ。この子は、ウミル。トウショウ叔父さんの娘なの。私のいとこよ」
ブルールさんが、改めて俺たちに少女を紹介してくれた。
「ウミルです。よろしくお願いします。父を助けてくださり、ありがとうございます」
ウミルちゃんは、笑顔で挨拶しペコリと頭を下げた。
ハツラツとした印象の明るい感じの子だ。
「ウミルちゃんは、カラクリ作りが大得意なのです! 犬たちの訓練も得意なのですよ! ミネのお友達なので、皆さんよろしくなのです」
ミネちゃんがそう言って、ウミルちゃんと腕を組んだ。
俺たちも、それぞれにウミルちゃんに挨拶をした。
トウショウさんの娘でブルールさんのいとこということだから、似ているのも納得だ。
「そうだ! ねぇオカリナ、この子たちにも名前をつけてよ! このタイミングであなたが来たのも、何かの縁だもの。パトとラッシュも、あなたが名付け親だし」
「そうだったわね。懐かしいわね。迷宮都市の路地裏で、雨に濡れて震えてたのよね。ほんとにちっちゃな子犬だったわね」
「あの時は、一緒に戦うことになるとは思ってもみなかったけど、今では『魔犬』になって里の犬たちの中でも一番強いのよ」
「すごいわね。このアライグマの子供たちも、凄く強くなったりしてね。ほんとに私が名付けていいの?」
「もちろんよ! お願い」
「ウミルちゃんも、お姉ちゃんがつけちゃって構わないの?」
「いいよ。パトとラッシュみたいないい名前をお願いします!」
「わかった。じゃあ……可愛い名前をつけますか! そうね……やっぱりアライグマと言えば……この名前ね! こっちのおでこに菱形の白い部分がある子がラスで、こっちの子がカルね。ラスとカル、どうかしら?」
「いいわね! 呼びやすいし。ありがとう、オカリナ」
「可愛い名前です。オカリナさん、ありがとう」
ブルールさんとウミルちゃんが、オカリナさんに笑顔を向けた。
それにしてもこの名前……どう考えても、俺が知っている名作アニメに出てくるアライグマのキャラクターから来てるよね。
パトとラッシュの存在を知った時も気になっていたんだけど、オカリナさんが名付けていたとすれば、やはりこれも犬が出てくる名作アニメのキャラクターからとっているのだろう。
まぁそれに気づくのは、俺と『魚使い』のジョージと見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんだけだろうけどね。
将来このアライグマたちが強くなって、犬達と一緒に戦ったらすごいかもしれない。
パトとラッシュに乗って戦うラスとカル……俺的には胸熱な感じだ。
ラスとカルの今後の成長に期待したい!
このアライグマの子供たちは、今後ウミルちゃんが育てて訓練するようだ。
ちょうどアライグマたちが目覚めたので、ウミルちゃんの家でミルクをあげるらしい。
ミネちゃんとリリイとチャッピーは、一緒について行きたいというので送り出した。
俺とニアと『アメイジングシルキー』のサーヤとオカリナさんは、ブルールさんとともに族長さんの家に戻った。
そこには、ブルールさんのお父さんとお母さん、それから弟さん二人と妹さん二人も来ていた。
ブルールさんは、第一子の長女のようだ。
俺たちは挨拶をして、お茶をいただきながら歓談した。
「グリムさん、次の目的地が『アルテミナ公国』だという話を聞きました。私も一緒に、ついています。族長や両親の許可も得ていますので」
歓談の途中で、突然ブルールさんがそんな話を切り出した。
はて……どういうことだろうか?
確かに俺たちは、数日後には『アルテミナ公国』に向かおうと思っているが……。
「え、大丈夫なの!? 里を出るのは大変だって言ってたけど……」
オカリナさんが驚いて、ブルールさんを見つめた。
そんなオカリナさんに、族長さんが話しだした。
「普段は、この里から出ることを禁じております。前に迷宮都市に行かせたのも、二年という限定で許可をしたのです。私も大事な孫を外には出したくないのですが、この子が強く希望しましてね。それに……『大精霊 ノーム』様からも、グリム殿に協力するようにと言われていますので、今回は特別に許可を出したのです。世の中に偶然はありませんでの。そういう運命なのでしょう。この子を筆頭に我ら『コボルト』のカジッド氏族が協力いたします」
族長さんはそう言った後に、俺の方を見た。
「お申し出は大変ありがたいのですが、我々が『アルテミナ公国』に向かうのは、悪魔たちの根城があるという情報をつかんだからです。悪魔と戦いに行くので、非常に危険です。お気持ちだけ受け取ります」
俺はそう言って、族長さんとブルールさんを交互に見た。
「そういう事情なら、尚更私は行きます。どれほど力になれるかは分かりませんが、私にも『アルテミナ公国』に行く事情があるのです。それが結果として、グリムさんのお役にも立つと思います!」
ブルールさんが、決意のこもった目で俺に言った。
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