897.海賊島改め、付喪島。

 翌日、俺はコバルト侯爵領近海に浮かぶ小さな島、通称海賊島を訪れている。


 この島は、小さな島と言っても『コロシアム村』の三倍くらいの大きさがある。

 一昨日の反乱事件の際、首謀者の次期領主だったボンクランドに加担していた海賊団のアジトがあった島である。


 チーム付喪神によって制圧されているので、今は無人だ。


 アジトと言っても、島全体ではない。

 もともと海賊たちが使っていたスペースは、船を発着する桟橋周辺だけで、島全体の十分の一程度のようだ。

 ほとんどが手付かずの自然といった感じの島である。


 アジトとしていた桟橋周辺のスペースには、大きな屋敷があって、畑も作ってある。

 家畜が飼育されていて、今日訪れたのはその家畜たちを引き取るためでもあるのだ。


 畑と家畜の世話は、十人ほどの若い男がやっていたとのことだった。

 その人たちは、海賊に捕まり、奴隷のように働かされていたので、すでに保護してある。

 皆コバルト侯爵領の沿岸部の市町に住んでいた領民だったので、落ち着いたら住んでいたところに帰してあげる予定だ。


 その辺のことは、『アメイジングシルキー』のサーヤに頼んである。

 本人たちが希望するなら、『フェアリー商会』で雇用してもいいと思っているのだ。


 コバルト侯爵領においても、『フェアリー商会』の支店を展開することになったからだ。


 反乱の首謀者であるボンクランドに協力していた二つの商会は、会頭と幹部が摘発されており、反乱計画に加担していたことは明らかなので、商会の取り潰しが決定している。


 ただこの二つの商会は、コバルト侯爵領に置いて一、二を争う大きな商会で、全ての市町に支店を持っているほどの大商会だった。

 この資産を有効活用したほうがいいし、働いている人たちには反乱に関与していない人たちもいるので、雇用を維持するためにも『フェアリー商会』で引き受けてくれないかと頼まれたのだ。


 今回の反乱の鎮圧に対する俺たちへの褒賞として、二つの商会の資産を全て無償提供するので、事業の継続と継続雇用できそうな者の雇用を頼まれたのである。


 確かに領内で一、二を争う大きな商会がいきなり二つともなくなると、商品の流通にも影響が出るだろうし、突然職を失う人も多く出てしまうだろうから、どこかが引き受けてくれる方が良いとは思う。


 ただそれは、『フェアリー商会』じゃなくてもいいと思うんだけどね。


 もっとも実際問題として、コバルト侯爵領内には、この二つの商会を引き継げるような大きな商会はないとのことだった。


 この二つの商会は、もともと領主だったコバルト侯爵とズブズブの関係で、甘い汁を独占していたらしい。

 それ故に、総合商会で各市町に支店があるような大規模商会は、他にはないとのことだ。


 そんなこともあり、商会幹部の『アメイジングシルキー』のサーヤたちとも相談の上、引き受けることにしたのだ。


 ただ人材の継続雇用については、反乱計画に加担していないこととそれまでの営業においても非道なことをしていないスタッフだけ継続雇用するという条件をつけさせてもらった。


 働いている人たちにも、酷い人間がいる可能性が高いからね。


 コバルト侯爵領でまで『フェアリー商会』を展開するのは、俺としては精神的に結構な負担なのだが、実際に商会を取り仕切っているサーヤたちが大丈夫ということだったので引き受けた。

 これからビャクライン公爵領や王都でも商会を展開しないといけないので、大変だと思うんだけどね。

 サーヤたちは、もしかしたら本当に『コウリュウド王国』のすべての領で『フェアリー商会』を展開しようと思っているのかもしれない。

 まぁ彼女たちに任せてあるから、彼女たちがやれるならいいんけど。


 今回すべての市町に支店を持つ大きな商会を二つ丸ごと引き継げるのは、積極的な事業展開をするという観点からすれば、ラッキーだったかもしれない。


 しかもすべての資産が無償提供されるというのは、凄いことだ。

 金額に換算したら、おそらく何十億という資産になるのではないだろうか。

 まだすべての資産が明らかにされていないようなので、具体的にはわかっていないけどね。


 今回の反乱計画を鎮圧した褒賞という名目で与えられるわけだが、実際は領民のために商品の流通を維持したいということと雇用を少しでも維持したいということもあってのことだ。

 ある意味『フェアリー商会』がいいように利用されているとも言えるが、その見返りとしてかなりの資産が無償で手に入るし人材も確保できるのだから、一応win winの関係とは言えるだろう。


 ただそもそも冷静に考えると、今回の反乱の鎮圧では、俺たちはそれほど活躍してないと思うんだよね。


 コバルト城で反乱勢力を鎮圧したのは、元『怪盗イルジメ』のオカリナさんと『コボルト』のブルールさんだからね。


 セイバーン城で暗殺を実行した近衛兵たちを取り押さえたのは、シャインとマスカッツたちだし。

 ちなみにシャインとマスカッツたちには、『コロシアム村』で活躍した人たちと同様に『セイバーン青槍勲章』が授与されるとの事だった。褒賞金も出るらしい。


 俺たちが活躍したとすれば、『ヒコバの街』でのヤーバイン将軍の部隊を鎮圧したことと海賊の第二陣を鎮圧したことだ。

 それだけの功績で、何かもらいすぎのような気がしないでもないが、まぁいいだろう。


 あまりそこら辺のことを細かく言うと、まだダメな子を見る目で見られそうなので言わなかった。

 そしてどうせ褒賞をもらうなら、褒賞金というかたちよりも国の負担が少ないだろうからいいだろう。


 まだ詳しくは聞いていないが、二つの商会は総合商会だったので、食料品を始め様々な品物を販売していたはずだ。

 そんな事業をしていた商会の各市町の支店が、そのまま利用できるから、『フェアリー商会』として新たに物件を確保する必要もなさそうだ。



 それから俺たちが今いる海賊たちのアジトだった通称海賊島は、コバルト侯爵領の領地にはなっていないらしく、いわば不可侵領域的な扱いらしい。

 どこの国にも属さない島と言っていいようだ。


 それ故に、この島の海賊たちを制圧した俺たちが自由に使って構わないということだった。


 無理に使う必要はないが、海賊船が停められていた桟橋がある湾が結構広かったので、海産物の養殖場とかにしても面白いかもしれない。

 俺の大好きな貝類とかを、養殖したい感じだ。

 食べる貝だけでなく、真珠の養殖とかもいいかもしれない。


 働いてくれる人さえいれば、そういうこともやりたいんだけどね。



 海賊たちが飼育していた家畜動物は、ヤギが五十頭と、鶏が九十羽、ロバが五頭だった。


 なぜロバが飼育されているのかよくわからないが、どうも桟橋に着いた船から荷物を倉庫まで運ぶ労力だったみたいだ。


 この島は魔物こそいないが、かなりの野生動物がいるようで、家畜動物たちの飼育スペースは頑丈な囲いが作られていた。


 おそらく肉食獣もいるのだろう。


 猪などを狩って、肉も食べていたようだ。


 この島は海賊たちが通称海賊島と呼んでいたらしいが、海賊という名前は微妙なので、『付喪島』という名前にした。

 チーム付喪神が制圧したから、そんな名前にしてみた。


 ツクゴロウ博士が別荘的に使いたいような感じだったので、自由に使わせてあげることにした。

 なんとなくだが……『ツクゴロウの付喪神王国』ができてしまいそうな気がする。

 まぁ王国が作れるほど付喪神を集めるのは、難しいだろうけどね。



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