896.犬馬車で、パレード。

『光柱の巫女』『神獣の巫女』『セイリュウ七本槍』のお披露目が終わり、式典も終わりかというタイミングで、サプライズして国王陛下と王妃殿下が登場していた。


 集まっていた領民は、まさかの出来事に一瞬静まり返るほど驚いていた。


 ただその後には、凄まじい大歓声が巻き起こっていた。


 この世界では、命の危険が伴う旅をする者は少なく、ほとんどの領民はセイバーン領から出ることはない。

 こんな状況の中、普通なら一生お目にかかることのない国王陛下と王妃殿下を直接見ることができ、皆感動していた。

 涙を流している領民たちもかなりの数だった。


 そして陛下からの言葉を賜って、熱狂から一転、厳粛な雰囲気に包まれていた。


 陛下はわかりやすい優しい言葉で、これから激動の時代になるとしても、皆明るい気持ちで前を向いて助け合って生きていこうというような話をしてくれていた。

 人を恨んだり悪意を増幅させることで、精神波動が下がり魔物化してしまう危険もあるということもやんわりと伝えてくれていた。


 あまり脅すようなことを言うと、そのことで逆に精神波動が下がってしまう可能性もあるので、非常にデリケートな話なのだが、陛下は不安を煽ることのないように、うまく話してくれていた。さすがである。


 そして式典の最後には、領都の人々全員に振舞酒のワインと、お酒が飲めない人にはぶどうジュースを配るということが告げられ、またまた集まった人たちは大歓声を起こしていた。


 この振る舞い酒のワインとぶどうジュースは、魔物化促進ワインを飲まされた人から、魔物化因子を取り除くために振る舞うことにしたものである。


 ワインとぶどうジュースには、『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のカーミラさんがくれた『血晶石ブラッドストーン』の水溶液を混ぜてあるのだ。


 血の浄化作用があり、魔物化因子を浄化することが可能なのだ。


 これでもし『正義の爪痕』が作っていた『魔物化促進ワイン』を体内に取り込んでしまっている人がいたとしても、救うことができるのである。

 魔物化因子を取り込んでしまっている人がいたとしても、本人は自覚していないし、判別することもできないので、無差別に対策ワインやジュースを振る舞うことで救うという作戦なのである。

 今回の式典の大きな目的の一つなのだ。


 この振舞酒とジュースの告知で記念式典自体は一旦終了になったが、集まっている多くの領民たちに向けて引き続き様々な案内の告知がされた。


 絶叫アナウンサーことシャイニング=マスカット氏の腕の見せ所といった感じで、楽しい告知がなされていた。


 その一つは、当然実施中のイベント『屋台一番グランプリ』についてだ。

 明後日まで続くので、なるべくすべての屋台を食べるように案内をしていた。

 それだけの価値があると気合が入った告知だった。

 もちろん投票すると、飴がもらえるという告知も改めてなされていた。


 それから求人募集の案内で、『フェアリー商会』の就職面接会の案内もなされた。


 『フェアリー商会』だけを優遇したかたちで不公平にならないように、事前に三十人以上の求人を募集するところは、式典後に告知するという情報を出していたが、応募はなかったらしい。

 一気に三十人も人を雇うところは、案の定なかったようだ。


 ユーフェミア公爵が情報を流してくれていた貴族の子弟や傍系の者たちや情報にあざとい商家の子弟などからは、領都に作った窓口に多く問い合わせがあった。

 そこですでに、就職面接会は一度実施しているのだ。


 かなりの人材を採用できたが、まだまだ足りないので今度は一般の人々に裾野を広げて、第二弾の就職面接会を行う予定なのである。


 そしてもう一つ、この世界では例がないであろう変わった募集をかけた。

 その募集は、楽器の演奏できる者、歌が得意な者、演技をしてみたい者の募集である。

 領都に劇団を作るための募集なのだ。


 観劇好きのマリナ騎士団長の強い要望もあり、『領都セイバーン』に専用の劇場と劇団を作ることが決まっているので、その人員を確保しなければならない。

 だが、この人員の確保はさらに難しいので、即戦力でなくても、熱意があるものを取ろうと思っている。

 新人発掘オーディションというわけである。



 そんな様々な告知が終わり、何箇所かで振る舞い酒と振る舞いジュースが提供され、『領都セイバーン』は引き続き活気に満ち溢れた状態になっていた。


 そして昼過ぎから改めて、『光柱の巫女』『神獣の巫女』『セイリュウ七本槍』のパレードが始まったのである。

 そこに俺とニアも混ざることになって、一緒にいるのだ。


 パレードで俺たちが乗っているのは、俺が作った『自律型人工ゴーレム 犬馬車』だ。


 先日手に入れた魔法AI 『知性インテリジェンスボール』を組み込んで、作ったものだ。


 ダックスフンドのような形の馬車で、左右四本ずつ合計八本の足を使って、進むことができる。


 車輪も一応四つ付いているのだが、今回は足を使って移動させた。


 屋根の部分にパレード用のオプションパーツを取り付けて、みんなでそこに立って人々に手を振っているのだ。


 ただ人数的に全員だとかなり狭くなるので、『光柱の巫女』、『神獣の巫女』、俺とニアが乗っているのだ。


 『セイリュウ七本槍』は、別のパレード用の馬車に乗っている。

『犬馬車』の後についてきている状態だ。


 その馬車は、元々セイバーン領にあるパレード用の馬車で、純白に金があしらわれた豪奢な馬車なのだ。


 そして、その馬車を引いているのは、カタツムリ型虫馬『デンデン』のデンコだ。


 この子は、『闇オークション』で俺が保護するために落札してきた白い綺麗な『デンデン』で、ビャクライン公爵家長女で見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが気に入ったので、ビャクライン家に預けた子である。

 白くて珍しいし綺麗なので目を引くということで、今回のパレードで馬車を引いてもらうことにしたのだ。



 パレードは、すごく盛り上がっているが、あまりにもスターが多すぎて、逆に特定のコールなどは起きていない。

 みんな俺たちに手を振ってくれたり拍手をしてくれたりと言う感じである。

 思い思いに、パレードしている人の名前を叫んでいる。


 記念式典の時に、俺が『救国の英雄』という事はさらっと触れる程度にしてもらったが、それでも早速それを取り入れた声かけが登場していた。

 『救国の若旦那』とか、『救国の凄腕様』とか、『救国閣下』とか、『救国の相棒』とか、『シンオベロン救国凄腕相棒若旦那閣下』とか全部くっつけたような、わけのわからないものまであった。

 普通にシンオベロンでいいと思うんだけど……。


 面白かったのは、『神獣の巫女』を一人一人紹介するときにハナシルリちゃんに対して、カレーライスを開発した天才児ということも触れられたために、ハナシルリちゃんに対し『カレー姫』という声かけがされていた。

 俺的には面白いからいいんだけど、ハナシルリちゃんは微妙な顔になっていた。


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