888.魔法陣、破壊。

 神獣キリンの『化身獣』となり、化身状態となっているフォウに、『キリンの巫女』なったオカリナさんが騎乗し空を駆け上って行った。

 オカリナさんは『戦巫女発動状態』となっており、『キリンコン』という細長い棍棒を持っている。


「光魔法、太陽光輪!」


 オカリナさんが、突然、ボールを投げるような動作をした。

 フォウに騎乗しながら、スナップスローだ。

 すると、手の先に大きな光の輪が出現し、上空に発射された。


 これは……おそらく『キリンの巫女』としての能力ではなく、元々オカリナさんが持っていた『通常スキル』の『光魔法——太陽光輪』を使ったのだろう。


 光の輪は、オカリナさんが向かう上空で、何かの壁のようなものに当たって消滅した。

 そしてその周辺の雰囲気が少し変わった。

 少し明るくなった感じだ。


 もともと夜空で暗かったのでわからなかったが、上空には漆黒の靄のようなものがかかっていたようだ。


 オカリナさんは、『光魔法——太陽光輪』を連射し、広がっていた靄のようなものを打ち消した。


 すると本来の空が広がり、そこには空中に浮かぶ悪魔がいた!


 ……少し変わった悪魔だ。

 今まで俺が見た悪魔とは、風貌が違う!

 顔が狼のようになっている。

 一瞬、狼の獣人なのかと思ってしまった。

 まぁまだ獣人に会った事はないんだけどね。

 黒いマントをつけているが、見えている腕なども毛で覆われている。


 『波動鑑定』をかけると……『獣の悪魔(中級)』となっていた。


 キリン様が「ここで倒さないと、多くの命が失われる」と言っていたようだから、かなり危険な悪魔なのだろう。

 もっとも悪魔は、どんな悪魔でも危険だから、特殊な悪魔と言ったほうがいいのかもしれない。


 狼顔に角が二本生えていることで中級であることを表しているが、レベルは65で中級悪魔にしてはかなり高い。

 今まで遭遇した中級悪魔は、みんなレベル50台だったはずだ。

 たしか……『赤の悪魔(中級)』がレベル52、『緑の悪魔(中級)』がレベル50、『鞭の悪魔(中級) 』がレベル55、『爪の悪魔(中級)』がレベル59だったはずだ。


「キ、キ、キ、なんだ神獣が力を貸しているのか……? 直接ではないにしても、干渉してくるとはなぁ……。まぁ面白いか……。かりそめの力で……底は知れているだろうが、相手してやるか、キ、キ、キ。わざわざやられに来るとはなぁ、キ、キ、キ」


 『獣の悪魔』は、姿を見られたことに驚くどころか、嗜虐の笑みを浮かべている。


「あんたは、アタイ達で倒す!」

「覚悟なさい!」


 フォウとオカリナさんが、啖呵を切った。


「キ、キ、キ、たまたま上質の怨念を見つけ回収に来て、そのついでに遊ぼうと思ったが、思った以上に楽しくなりそうだなぁ、キ、キ、キ。神獣の力を借りた者たちが敗れ去って、絶望して死んでいく人間たちの魂は、さぞ上質の怨念となるだろう……キ、キ、キ」


 ——パチンッ、パチンッ、パチンッ、パチンッ


 『獣の悪魔』はそう言うと、指を四回鳴らした。


 すると俺たちが戦っている中庭の一画が、赤く光った!

 円形の光が、一瞬地面から浮かび上がったのだ。


 どうも『獣の悪魔』は、召喚魔法陣をもう一つ作ったようだ。

 そこから、すぐに狼顔の強化されたインプとジャキが溢れ出てきた。


 だが、『獣の悪魔』の思い通りにはさせない。

 魔法陣の位置が明確だから、すぐに壊してしまえばいい!


「鉱石召喚! コボルト青鋼あおはがね!」


 『コボルト』のブルールさんが、突然、発動真言コマンドワードと思われるものを唱え、魔法陣に近づき腕をかざした!


 ——シュッ、ドゴンッ


 すると突然、空中に巨大な青い岩石が出現し、魔法陣に落下し突き刺さった。

 中から召喚されていたインプやジャキは、鈍い音を立てながら巨石に押し潰された。


 青くて大きな岩が、召喚魔法陣を押し潰したのだ。

 召喚魔法陣があった地面が、物理的に大きく陥没した状況になっている。

 これでは、魔法陣自体にも影響があるだろう。


 ブルールさんは、突き刺さった青い巨石に手をかざした。

 どうも魔力を流しているようだ。


 すると押しつぶされ魔法陣が、完全に光を失った。

 消え去ったようだ。


 確認しようと近づくと……


「この召喚魔法陣は、破壊しました。『コボルト青鋼あおはがね』の巨大なインゴッドで押しつぶして、魔法陣が傷ついたところに、魔力を流し込んで術式を破壊しました」


 ブルールさんが説明してくれた。

 俺と同じことを考え、素早く実行してくれたようだ。


『コボルト青鋼あおはがね』の巨大なインゴッドを使ったということらしいが、名前からして『コボルト』族で作る特別な魔法金属なのだろうか?

『ドワーフ銀』みたいな感じなのかな……?

 まぁ後でゆっくり尋ねてみよう。


 緊急事態なので、無断で『波動鑑定』させてもらったが、どうも彼女の『種族固有スキル』の『鉱物操作』というものを使ったらしい。

 その中の『鉱物召喚』という技コマンドを使ったのだろう。

 あらかじめ登録してある鉱物や岩石などを、自由に召喚したり、動かして操作することができるようだ。


 ちなみに彼女は、『相棒犬バディドッグ召喚』という『種族固有スキル』も持っている。

 あの大活躍している犬たちは、これで呼び寄せたのかもしれない。


「ナイス! ブルール! 最初の召喚魔法陣の場所を見つけたから、その石借りるわよ! あと……魔法陣破壊の仕上げもお願いね!」


 上空からオカリナさんの声が響いた。


 途端、ブルールさんが召喚した青い巨石が宙に浮かび上がり、中庭の隅のほうに移動した。

 ここからは見えない位置に、魔法陣があったようだ。


 ——ドゴンッ


 その死角となっていた場所に、青い巨石が落下した。


 石の移動について行ったブルールさんが、すかさず魔力を流し込み、魔法陣を完全破壊してくれた。


 これで強化インプと強化ジャキの召喚は、止まるだろう。


 どうもあの巨石を移動させたのは、オカリナさんの『キリンの巫女』しての『職業固有スキル』である『念動術』を使ったようだ。

 『波動鑑定』させてもらったところによると、念の力で対象物を動かすことができるとなっている。

 おそらくサイコキネシスのようなものだろう。

 いろんな物を、念じるだけで思い通りに動かせるなんて……羨ましすぎる!



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