874.機能マヒの、コバルト侯爵領。

 第一王女で審問官のクリスティアさんの簡単な尋問で職務復帰が認められた兵士たちが、現場の片付けを始めた。

 瓦礫を除去し、亡くなった人たちの遺体を回収している。


 その結果判明したのは、コバルト侯爵の直系の子孫……つまりボンクランドの兄弟姉妹及びその子供たちが全て亡くなったということだ。

 そして驚いたことに、ボンクランドの夫人と子供まで亡くなっていた。


 自分の妻と子供まで殺したのかと思ったのだが、調べによると違っていた。


 ボンクランドは、自分の妻と子供だけは別館に近づかないようにと、厳命していたらしい。

 それにもかかわらず、夫人は親戚が一堂に集まっている別館に、子供を連れて挨拶に行ったようだ。

 それゆえに、共に犠牲になったらしい。


 皮肉なことに、ボンクランドは自分の妻と子供まで殺してしまったことになる。


 ボンクランドはその事実を知らされても、泣いて悔やむようなことはなく、薄ら笑いを浮かべていたようだ。

 やはり、どうしようもないクズだ。


 暗殺されたコバルト侯爵家の直系の血筋は、ボンクランド以外にいなくなった。

 当然、代を遡れば、他の貴族に嫁いだ者など血筋は残っているだろうが、本来家督を継ぐような位置にある者は、すべて死んだということになる。


 ただ、これほどの反乱を起こした以上、コバルト侯爵家は断絶となり取り潰されるとのことだ。


 加担していたと認定されるような領内の貴族家も、同様に取り潰されることになるそうだ。


 それから別館に集められて一緒に殺害された重臣や文官は、ボンクランドだけでなく領主のコバルト侯爵にも忠言し、冷遇されていた人たちらしい。


 ある意味まともな人たちということだと思うが、そういう貴重な人材が、皆命を絶たれてしまったようだ。

 おそらく優秀な人材の中で生き残っているのは、末端の一般の文官たちだけだろう。

 大きな人材損失だと思う。


 現時点の状況だけで判断しても、領運営はままならない状態だろう。

 領主家は断絶となるし、残っている重臣や上級の文官は、ボンクランドが殺さなかったのだから、おそらく問題がある者ばかりだろう。

 罪に問われる可能性が高い。


 国王陛下は、しばらくの間、セイバーン領に依頼しコバルト侯爵領の暫定運営に協力してもらうつもりのようだ。


 本来なら王都から兵士や文官を派遣するところだろうが、かなり距離があるので、隣領のセイバーン領に協力してもらうかたちを選んだようだ。


 セイバーン公爵家は、四公爵家の一つなので、こういう非常事態の対応も、その役割に入っているらしい。


 落ち着くまでは、『セイリュウ騎士団』が中心となって体制を作るそうだ。


 武官である正規軍や衛兵からまともな者を残しても、おそらく役職が下のものばかりで、全体を指揮し運営するのは難しいだろう。

 そしておそらく、近衛隊は全員企みを知りながら加担していたとして、ほぼ全滅だろう。

 全員が投獄される見込みのようだ。


 文官も同様に、まともな者を残しても、下の役職の者ばかりで、領運営を取り仕切るような人材は期待できない状況みたいだ。


 それから、領内のほとんどの貴族は、コバルト侯爵の酷い領政に対し、同調し領民を苦しめていたという事実があるので、詳しい調査の後、厳罰に処される可能性が高いそうだ。


 下手をしたら、半分以上の貴族が取り潰しになる可能性があるようだ。

 見せしめというわけでは無いだろうが、陛下も厳罰を持って臨む考えらしい。


 領内の貴族は、領主の家臣であるので、領主の言うことに従うしかない。

 中間管理職のようなもので、気の毒なような気もするが、主君である領主の間違いを正すこともまた、臣下の務めであるという考え方があるらしい。

 それ故に、厳しく臨むつもりのようだ。


 最終的には領主に従わざるを得ないとしても、異を唱え、止むを得ず従っていた者と、悪政に同調し甘い汁を吸っていた者とでは、罪の程度は雲泥の差だからね。


 領主を実の息子が暗殺し、一族も皆殺しにしたという事だけで国を震撼させる出来事だが、領の半分以上の貴族が取り潰しとなれば、さらに大事だろう。

 ある意味……国を揺るがす一大事になってしまったのだ。


 犯罪組織の襲撃や魔物の軍団の襲来とは違った意味での衝撃が、国中に走るだろう。


「本当に情けない……。人族同士で争っている場合ではないのに……。我が国で、こんなことが起こるとは……」


 国王陛下は、吐き捨てるように独り言を言っていた。


 確かに陛下の立場に立てば、やるせない気持ちでいっぱいだろう。

 そして怒りでいっぱいだろう。


 せっかく建国時の約束に従い、五神獣様方が力を貸してくれているというのに、国内にこんな醜い争いが起こったのでは、顔向けができないという気持ちになるだろう。


 俺が陛下の立場でも、かなり辛いと思う。


 ここは一日でも早くこの領を安定させ、新しい体制を作るしかない。

 起きてしまったことはしょうがないので、それと真摯に向き合い、体制を整備することが大事だと思う。


 ただこの領内の貴族では、どの貴族が信用できるかが、いまいちわからないと思うんだよね。

 当然陛下はある程度の情報は持っていると思うが、俺は、話を聞けそうな人に心当たりがある。


『マナゾン大河』を挟んで、セイバーン領の『セイセイの街』の向かい側にあるコバルト侯爵領の『ヒコバの街』の守護をしているチーバ男爵である。


 チーバ男爵にはまだ会った事はないが、コバルト侯爵領の貴族では、数少ない良識派の貴族のようで、コバルト侯爵の領政に対して問題意識を持ち、領民のために頑張っていた貴族ようだ。


 彼なら、この領内の貴族の中で、どの貴族が力になるかなど詳しい状況を教えてくれるかもしれない。


 そこで俺は、チーバ男爵を呼んで、意見を聞いてみてはどうかと陛下に進言した。


 チーバ男爵の次女が、ピグシード辺境伯領に仕官してくれることになった女侍のサナさんである。


 サナさんは、武術大会に出て、ベスト4に入った実力の持ち主で、その美貌とセクシーさで、観客の圧倒的な支持を得ていた人だ。


『正義の爪痕』との最終決戦の後、ピグシード辺境伯領に仕官することの許可を得るために、一度実家に帰っていた。


 無事に父親の許可を得て、すぐに戻ってきてくれたが、その時にコバルト侯爵領の状況を報告してくれ、チーバ男爵についても少し教えてくれていた。


 話を聞く限り、信用できる人だと思う。


 陛下は、俺の進言を受け入れ、チーバ男爵の話を聞いてみたいと言ってくれた。


 そこで俺は、『特命チーム』のゼニータさんに、娘のサナさんとチーバ男爵をコバルト城に連れてきてくれるように頼んだ。



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