860.予想通りの、反応。

 楽しく、そして美味しい夕食が終わり、みんな大満足のようだ。


 ほとんどのメンバーは、いつものように『カレーライス』を食べて、更に『怪盗イルジメ』ことオカリナさんが作ってくれた『焼きそば』と『オムライス』を食べていた。


 ほぼ全員が、この3つのメニューを食べていたから、普通の食事量で三人前を食べていることになる。

 いつも思うが、この人たちの胃袋は尋常じゃない。


 そんなこともあり、オカリナさんが持ってきていた麺のストックは、完全になくなってしまったようだ。


 焼けたソースの香ばしさが魅力の『焼きそば』と、濃厚なケチャップに包まれたご飯とふわふわの卵の絶妙な組み合わせが魅力の『オムライス』は、甲乙付け難い感じで皆に大絶賛されていた。


 この二つも『屋台一番グランプリ』に出店してはどうかという意見が、当然のごとく出たが、今回はやめておくことにした。

『焼きそば』は、特に屋台に向いているし、人気が出るとは思うが、スタッフの手配も大変なので今回は見送ることにしたのだ。


 数ヶ月後に開催されるであろう王都での式典の時にも、食の祭典をやる予定なので、その時に出店すればいいんじゃないだろうか。


 食べ終わった後は、いつもみんなで歓談するのだが、今はその歓談タイムなのだ。



 ここで最初に話題を作ったのは、四歳児のハナシルリちゃんだ。


「ちちうえ、ははうえ、オカリナさんに私の先生になって欲しいの。きっと私にとって必要な人だと思うの!」


 ハナシルリちゃんが、父親のビャクライン公爵と母親のアナレオナ夫人に向かって、四歳児らしい可愛い口調で言った。


 突然のことに、ビャクライン公爵もアナレオナ夫人も少し驚いている。


「ハナや、どうしたんだい? オカリナさんに、先生になって欲しいのかい?」


「そうなの! オカリナさんから学ぶことが、いっぱいあると思うの! きっと大切なことなの!」


 ハナシルリちゃんはそう答えつつ、どちらかと言うと母親のアナレオナ夫人に訴えかけるような視線を向けた。

 まぁ決定権は、アナレオナ夫人にあるからね。


「ハナ、それは反対しても、ダメなことなのね?」


 アナレオナ夫人は、勘がいいので、今まで何度かあったハナシルリちゃんが頑として譲らない時の予感的なことだと分かったようだ。


 まぁ今回の場合は、実際には予感ではなく、親友のオカリナさんと一緒にいたいという思いから来ているだけなんだけどね。


「そうなの! 絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、先生になってもらうの!」


 ハナシルリちゃんは、両手の拳を強く握り、背伸びをするような感じで、決意を込めて……それでいて四歳児っぽく言った。


 中身が三十五歳と知っている俺は微妙だが、他の人たちは、四歳のいたいけな子供が一生懸命自分の考えを主張しているという感じに映るだろう。


「あぁそうなのね。こうなったらもうダメよね。……でもハナ、オカリナさんの都合も聞かないといけないわよ」


「わかってるの。でもオカリナさんは、きっと先生になってくれるの!」


 そう言ってハナシルリちゃんは、オカリナさんの方を見た。


「あの……もし私のようなものでよろしいければ、誠心誠意務めさせていただきます」


 オカリナさんは、申し訳なさそうな感じでそう言って、頭を下げた。


「あら、オカリナさん、いいのかしら?」


 アナレオナ夫人が、驚いたように逆に聞き返した。


「はい。私も何か直感のようなものを感じます。お許しいただけるのであれば、全力を尽くします」


「いやぁ……それはすごいよ! あなたのように元攻略者で、怪盗として一度も捕まらず活躍していた人に教えてもらえるなら、ハナはさらに強くなれる。ハハハハハ」


 ビャクライン公爵は、オカリナさんが引き受けてくれた事がかなり嬉しかったらしく、上機嫌で笑っている。


「でも……王都に住んでるのに、ハナシルリの先生になってもらうのは大変じゃないかしら?」


 アナレオナ夫人が、冷静に問題点を指摘した。


「その点は、私がお役に立てると思います。オカリナさんにも、転移の魔法道具を貸し出そうと思います。今後、『特命チーム』や我々の活動に協力してもらうためにも、渡そうと思っていましたので」


 俺は、すかさず助け舟を出した。


「まぁそうね! 転移の魔法道具があるなら、距離は問題なくなるものね。……じゃぁオカリナさん、ほんとにお願いしていいかしら?」


「はい。喜んで受けさせていただきます。特別な事情がない限りは、毎日午後にハナシルリちゃんの下に伺いたいと思います」


「そんなに来てくれるのね。それはありがたいわ。これから是非よろしくお願いしますわ」


 アナレオナ夫人は喜んで、オカリナさんの手を握った。


「いやぁ、よかった、よかった!ハハハハハ」


 ビャクライン公爵も豪快に笑って、満面の笑みを作った。


「『怪盗イルジメ』が先生なんて、羨ましいなぁ……。私も時々その講義に参加しようかなぁ……」


「いいですなぁ! 私も実は参加しようかと思っています」


「私も参加します」


「僕も参加します」


「ぼくも……」


 あっちゃ……、事前にハナシルリちゃんが予想していた通り、国王陛下とビャクライン公爵とシスコン三兄弟が、参加を表明してしまった。


「ちちうえ! ハナのお勉強がはかどるには、先生と二人がいいの! ちちうえやにぃに達が参加するのは、ハナとの勉強が終わってからにしてほしいの!」


 ハナシルリちゃんは腰に両手を当てて、怒ってますアピールをしながら、ほっぺを膨らませて、強い口調でビャクライン公爵に言った。


「ハナや……父はわかってるよ……。決して邪魔したりしないから……」


 溺愛オヤジは……父の威厳0%である……残念。


「そうですね……まずは、ハナシルリちゃんとしっかり時間を作りたいので、それが終わってからというか……先程ニア様に聞いたんですけど、夕方から訓練をされているなら、可能な時は参加いたします。その時にでも、いろいろお話しする時間は作れると思います」


 オカリナさんは、優しく諭すように、ビャクライン公爵と国王陛下に言った。


「おお、それはいいね。その時には、いろいろ話を聞かせてもらおう」


 国王陛下が真っ先に反応して、満面の笑みを作った。

 ビャクライン公爵とシスコン三兄弟も、ニコニコ顔で頷いている。


 やっぱりこの人たち、ファンのイルジメさんの話を聞きたいだけなんだよね……。


 まぁハナシルリちゃんの予定通りに事が運んで、よかったけどね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る