859.焼きそばと、オムライス。

「ところでさぁ、梨那、クレープすごく美味しかったんだけど、他にどんな料理を子供たちに作ってあげてるの?」


『先天的覚醒転生者』で、見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが、前世で親友だった『怪盗イルジメ』ことオカリナさんに尋ねた。

 女子トークはいつまでたっても、終わらないらしい……。


「そうね……瑠璃が好きなメニューだと……『ラーメン』『餃子』『焼きそば』『オムライス』って感じかな……」


「なにそれ!? 食べたい! それでお店やればいいのに! 絶対大繁盛よ!」


「子供たちにも、お店やりたいって言われたんだけどさぁ……『ラーメン』とか『餃子』とか『焼きそば』って、基本この国にはないみたいなのよね。お店をやって評判を呼んだら……もし異世界人がいたら、わかっちゃうと思うのよね。私と同じように異世界から来た人がいるなら、会ってみたいっていうと気持ちはあったんだけど、その人がいい人とは限らないじゃない。下手した子供たちまで危険にさらされると思うと、踏み切れなかったのよ。クレープぐらいなら、なんとなくいいような気がしたのよね。小麦粉の料理は、この世界でもメジャーだし、この世界の人がたまたま思いつくっていうのもあり得るかなぁ……なんて思ってね」


「なるほどね。そういうことだったんだ。でも、たまたまクレープを思いつくって、難しいと思うけどね。ちなみにねぇ、私は苦労して『カレーライス』を作ったのよ!」


「ええ! カレー作ったの! すごいじゃん! 私も考えたんだけど、香辛料を手に入れるのが大変だし、いまいちどんな香辛料が必要だったか覚えてなかったんだよね。いつも固形のカレールウ使ってたからさぁ。さすが瑠璃ね!」


「私もねぇ……苦労したのよ。香辛料を探すのは、確かに大変だったの。そうだ! 今度『フェアリー商会』でカレー専門店を展開するのよ。テスト販売のお店は、ついこの前、この『コロシアム村』でオープンしたのよ!」


「なにそれ! 絶対食べたい!」


「じゃぁ今日の夕食は、カレーね。いいわよねグリム?」


 ハナシルリちゃんが、俺に確認してきたので、当然、首肯した。

 断ることなんてできないよね。

 久しぶりにカレーを食べたいという気持ちは、抑えられないだろうからね。

 それに他のみんなも、『カレーライス』で文句を言う人は今のところいないからね。

 いまだに全く飽きていないようだ。


 ただ……俺的には、オカリナさんの話を聞いて、『ラーメン』『餃子』『焼きそば』が食いたいんですけど……『オムライス』もいいなぁ……。


「じゃぁさぁ、私は『焼きそば』を作ろっか? 麺だけなら魔法カバンに入ってるから」


 おお、オカリナさんが中華麺を持っているらしい。

 まるで俺の気持ちを察してくれたかのように、『焼きそば』を作ってくれるようだ。


「ほんと! やったー! お願い」


「本当は、『ラーメン』と『餃子』も作ってあげたいけど、スープから作んなきゃいけないし、『餃子』も餡から作らなきゃいけないから、また今度ね。『焼きそば』ならすぐできるし、ルセーヌに食べさせたかったから持ってきたのよ。ルセーヌがお世話になってる人たちに、ご馳走するかもしれないと思って、麺だけはいっぱい作って持ってきたのよね。あと……『オムライス』は材料があるだろうから、作ろうと思えば作れるわよ」


「やったー! 『オムライス』も食べたい!」


「わかった。任しといて」


 おお、『オムライス』も食べれるようだ。

 晩御飯が楽しみになってきた。


 もう晩御飯の準備をする時間帯なので、俺はオカリナさんをキッチンに案内した。


 いつも食事の準備を行ってくれている『フェアリー商会』の『おもてなし特別チーム』の調理担当のスタッフたちには、『カレーライス』の準備と、オカリナさんの手伝いをお願いした。


 ちなみに『焼きそば』に使うソースや『オムライス』に使うケチャップは、オカリナさんも独自に開発していたようだが、俺が開発したものも見せて、自由に使ってくれるように提供した。






 ◇






「『焼きそば』はすごく香ばしくて、野菜が美味しくなるのだ! 『オムライス』はふわふわで、ケチャップがいつもより美味しいのだ!」


「『焼きそば』と『オムライス』はリリイとチャッピーみたいなの〜。二人は最強コンビなの〜。毎日食べたいなの〜」


「『焼きそば』氏は、強敵なのです。香ばしさで幻惑し。モチモチの食感で感覚を奪ってくるのです。美味しすぎるのです! 『オムライス』氏は、オムレツさんの中に、熱き血潮のライス氏が潜んでいるのです。オムレツさんとライス氏が結婚した結果が、『オムライス』氏なのです! こんな料理を考えだす『怪盗イルジメ』さんは、美味しい料理で人の心まで盗んでしまうのです! でもミネの心は盗めないのです! 気を強く持って、食べ尽くすのです!」


「これはまた凄いのが来ました! まさか『クレープ』に続いて、こんな食べ物を考えつくなんて……。『焼きそば』は、香ばしさと麺の弾力、野菜や肉とのバランスが精密に計算しつくされています。恐るべき技術です。そして『オムライス』は、ご飯にケチャップをまとわせるという斬新な発想と、それをさらに卵で包み込むという斬新な発想で構築された食べ物です。研究者として見習うしかないです。私も『オムライス』のように、グリムさんを包み込むしかないと思います!」


 リリイ、チャッピー、『ドワーフ』のミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんが、いつものように独特なコメントを言ってくれている。


 この二つの料理は、実はソースとケチャップが最大の決め手なのだ。

 そして、ソースもケチャップも熱を加えると、より美味しくなるんだよね。

 もちろんそのままでも美味しいわけだが、特にケチャップはちょっと熱を加えただけで、更に味が良くなるのだ。


 せっかくなので、そんな解説をみんなにしてあげた。


 ただそんなことを言ってしまった為に、ドロシーちゃんの変なスイッチを刺激してしまった。


「さすが私のグリムさんです! 早くもポイントを的確に分析しているのです! やはりグリムさんを一生の研究対象にして正解です!」


 そんなことを言いながら、俺の周りをぐるぐる回り、上から下まで舐めるように見ていた。


 俺は、苦笑いするほかなかった。


 最近……言葉だけじゃなく、行動までおかしくなってきている気がする……。

 ドロシーちゃん大丈夫かなぁ……?

 これ以上、重症化しないことを祈るほかない……。


 そして、他の女子たちも、俺が提供した料理じゃないのに、そんな解説をしてしまったがために、皆大きく頷きながら、俺の方を見ていた。

 なんか俺が作った料理みたいになってしまい……オカリナさんに申し訳ない感じになってしまった。

 この結果は、意図していなかったのだが……。


「父上、グリム兄上が言っていた通り、やはりソースとケチャップがすごい力を発揮していると思います。素材の力を引き上げ……強くしています。僕もソースとケチャップを食べ続ければ、強くなってレベルが上がるかもしれません!」


「じゃあ僕は……ソースとケチャップを塗ってみます!」


「ぼくは、ソースとケチャップになる練習をします!」


 今度は、ビャクライン公爵家のシスコン三兄弟がそんな感想を漏らした。


 なぜかグリム兄上という呼び名になっている……。

 この子たちは、状況によっていろいろ変わるから、気にするのはやめておこう。


 そして、もうお約束の展開だが……一応突っ込んであげた方がいいんだろうか……。

 まぁ突っ込むと言っても、毎回心の中で突っ込んでいるだけだけどね。


 ソースとケチャップを食べ続けても、強くもならないし、レベルも上がりませんから!

 そして体壊しますから!


 ソースとケチャップを体に塗ったら、カピカピになりますから!

 そしてある意味、ホラー映像になりますから!


 練習しても、ソースとケチャップにはなれないから!

 てか……どんな練習するつもりなのよ!


 このシスコン三兄弟も……だんだんとピントのズレ方が酷くなっている気がする……。

 特に次男のソウガくんと三男のサンガくんがヤバい……。

 まぁそもそも、変な発想を始める長男のイツガくんが悪いんだけどね。


 てか……ビャクライン公爵、いい加減息子たちの変な発想を修正してくれよ!


 そう思って様子を窺うと……ビャクライン公爵は、一緒になって目を輝かせている……ダメだこりゃ!



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