861.密かな、反乱計画。
夕食後の歓談は続いていて、次に話をしたのはユーフェミア公爵だった。
「さっき話した通りに、ダイス、イシカ、ミーネルの三人には、私直属の『特命チーム』に入って活動してもらうけど、まずはゆっくりセイバーン領を楽しみな。ルセーヌたちは、今捜査している案件があるけど、それが片付いてからの参加でいいからね」
ユーフェミア公爵は、『怪盗ジイゲイン』ことダイスくん、『怪盗ゴウエモン』ことイシカさん、『怪盗フウジィコ』ことミーネルさんにそんな言葉をかけた。
『特命チーム』は、コバルト侯爵領内に流出してしまった『正義の爪痕』が作った爆弾の捜索に当たっているが、それもすぐに片付くだろうから、その後の参加で良いという気遣いなのだろう。
「ユーフェミア様、その件でご報告があります」
一緒に聞いていたゼニータさんが、神妙な顔で言った。
ここには『特命チーム』のゼニータさん、ルセーヌさん、そして見習いの犬耳の少年バロンくんとゼニータさんの弟のトッツァンくんも来ている。
コバルト侯爵領内で潜入捜査をしていたが、一旦の報告も兼ねて帰ってきたようだ。
転移の魔法道具を貸し出したので、移動はすぐなんだよね。
「なんだい? 遠慮しないで言ってごらん」
「爆弾を購入したと思われる二つの商会について調査をしたのですが、爆弾は発見できませんでした。倉庫などにも潜入したのですが、ありませんでしたので、もうすでに販売したようです。そして残念ながら、販売先はまだ特定できていません。商会の幹部を何人か拘束し聞き出したのですが、売先を知っているとすれば会頭だけとの事でした。ただその会頭が数日前から姿をくらましているのです。二つの商会ともに同じ状況です。他領であるために表立って捜索もできませんので、爆弾の発見には少し時間がかかるかもしれません」
「そうかい……一歩遅かったか……。しょうがないね……。グリムも報告をあげてくれていたが、いくつかは川賊に渡ったという話だったが、結局川賊は持っていなかったからねえ……。それなりに殺傷能力があるものだから、何者かが悪さを企んでいるのは間違いないようだね……」
「すみません。引き続き捜索にあたります」
「そうだね。他領で、やりにくいだろうが頼むよ」
「かしこまりました」
ゼニータさんとルセーヌさんの特捜コンビの働きで、『正義の爪痕』が作った爆弾のようなものが他にも存在していて、それが『マットウ商会』経由で販売されてしまったという情報をつかんできてくれた。
すぐに爆弾も回収したかったところだが、思った以上に時間がかかっているようだ。
情報を入手してすぐに、川賊対しては俺が動いた。
二つの商会に対しては、ゼニータさんたち『特命チーム』が動いてくれたのだが、一歩遅かったようだ。
この前の『正義の爪痕』との戦闘に比べれば、危険度は少ないかもしれないが、それでも人混みで使われたらかなりの犠牲者が出る可能性がある。
ゼニータさん達の手助けができないか考えてみよう。
次に話をしたのは、『怪盗イルジメ』ことオカリナさんと一緒に来た怪盗の三人だ。
「私たちは、明日一度王都に戻ろうと思います。今後の準備をしておきたいと思いますので」
オカリナさんが、みんなにそう言った。
一旦王都の屋敷に戻って、いろいろ整理をしたいことがあるようだ。
怪盗の子達三人はルセーヌさんと行動を共にするし、オカリナさんもハナシルリちゃんの家庭教師として、ほぼ毎日午後に出かけることになる。
王都屋敷の子供たちの世話や商会のお店の運営について、改めて段取りをしておきたいのだろう。
ここでは言っていないが、さっきの話からすれば、王都の屋敷に戻ること自体は、帰還転移の魔法道具『
それに俺が渡した転移の魔法道具があるから、再度訪れることも、転移ですぐにできるはずだ。
「わかった。焦らなくていいからね。転移の魔法道具があるから、この『コロシアム村』に訪れる事はすぐできる。ゆっくり体制を整えておいで」
ユーフェミア公爵が、笑顔で答えた。
「はい、ありがとうございます。それから先程話に出ていたコバルト侯爵領での爆弾の捜索も手伝おうと思っています。個人的にコバルト侯爵領内にある『コボルト』の里も探してみたいと思っていますので」
オカリナさんが、そんなことを言った。
「『コボルト』の里というと……迷宮攻略者をしていた頃の仲間だった『コボルト』のメンバーを探すのですか?」
俺は気になったので、思わず訊いてしまった。
もしそうだったら、一緒に行ってみたい!
「ええ、ただコバルト侯爵領内にあるとしか知らないので、すぐには探せないかもしれないですけどね。何か情報がないか、あたってみたいと思っています」
オカリナさんは、そう答えた。
◇
コバルト侯爵領、領都コバルト。領城の一室。
「いいか、父上は明日旅立つ。明後日の夜には、晩餐会があるはずだ。そこで確実に起動させろ。貴族が集まっているから、父上が標的だったとはわからないはずだ。うまくいけばセイバーン公爵に賠償金を請求してやれる。クックック」
「ボンクランド様、お任せを。確実に仕留めた後に、例の物を起動させます。実験通りの威力なら、体は粉々になるでしょう。斬り殺されたことは、わからなくなるはずです」
「頼むぞ」
「はは」
「それからお前は、明日父上がこの領を出た後に、例の里へ行け。技術を持つ者を一人でいいから拉致してくるのだ。できるだけ気づかれないようにしろ。どうしても難しい場合や気付かれた場合には、例の物を起動させて混乱させろ。誰が拉致したか分からないようにするんだ。奴らの力は侮れないからな」
「お任せを! 我らの力をお見せいたします」
「それから、近衛隊は明後日の夜、指示した通りに我が兄弟姉妹と邪魔な姻戚供を皆殺しにしろ! ハハハ、明後日の夜には、あのクソ親父が死に、兄弟姉妹供も死に、我がコバルト家は、私と子供たちだけのものになる! ハハハ。私に従わぬ生意気な臣下供も殺せ!」
「はい、しかし……本当によろしいのですか? 一族でボンクランド様しか生き残らないければ、国に疑われるのでは?」
「心配は要らぬ。筋書きはできている。次男と三男が共謀し、領主の座を狙って反乱を起こしたことにする。私は命からがら逃げ延び、近衛隊のお前たちが賊を成敗したことにするのだ。まさかコバルト家の次男三男と思わず、倒してしまったということで通るだろう。他の兄弟姉妹たちや姻戚は、次男と三男が殺したということにすればいい。重臣たちも同じだ」
「わかりました。確実に処理いたします」
「クックック、ハハハ、これでやっとあのクソ親父から家督を継げる。邪魔者供も、一掃できる。やっと私の天下が訪れる! ハハハ。『コボルト
領城に恐ろしい高笑いが響いた。
悪事の企みが、密かに進行していたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます