855.前世ぶりの、女子トーク。
『怪盗イルジメ』ことオカリナさんを、俺の執務室に呼び出し、詳しく話を聞くことができた。
その中で、ハナシルリちゃんの大親友だったということが判明し、衝撃の展開となったのだった。
今二人は、楽しそうに歓談している。
「それにしても、『怪盗イルジメ』が梨那なら納得よ! 海外ドラマが大好きだったもんね。特にアジア圏のドラマが好きだったよね。イルジメという名前は、そこから来てるんでしょ?」
「そうよ。どうせなら、ドラマで見た好きなキャラになりたかったのよ」
「弱い人を助けるために、義賊働きをするなんて、正義感が強い梨那らしいよね」
「本当はあまり目立つ事はしたくなかったんだけど、簡単に命が失われちゃう世界だから、ほっとけなかったのよね……」
「子供たちを保護して育てているのも納得よ。子供が大好きだったもんね」
「そうね。特に小さな子供たちは、いてくれるだけで癒されるもの」
「さすが幼稚園の先生ね。前世では幼稚園の仕事に熱中しすぎて、出会いがなかったけど、こっちでも出会いがないわけ?」
「ぶぅ、痛いとこ付くわね。そうなのよ……。十年も怪盗をやってたから、恋愛に気持ちが向かなかったのよね。そもそも出会いがなかったし。異世界に来てまで、出会いに恵まれないなんてね……もう笑うしかないわね」
「せっかくのナイスバディーが、宝の持ち腐れね」
「まぁそう言わないでよ。でも、この体は結構気に入ってるのよね。瑠璃はいいわよね、まだまだこれからだもん。私早く結婚しないと、もういい歳なのよね。今後の展開としては、どうすればいいわけ?」
「そうね……焦りは禁物よ。敵は手強いからねぇ……じっくり攻めを落とさないといけないのよ」
「まぁそうね。今更焦ってもしょうがないし、悪魔が暗躍しているらしいから、恋愛してる場合じゃないしね」
「ねえ、ビャクライン公爵領に来ない? 私まだ四歳だからさぁ、勝手な行動ができないのよね。なるべく梨那と一緒にいたいんだけど、あたし動けないからさぁ……。考えたんだけど、私の先生にならない? 個別教師として採用してもらうように、両親に頼むからさぁ」
「そうねぇ……。そうしたいところだけど、王都に子供たちもいるし、お店もあるからねぇ……」
「それは大丈夫! 今まで通り王都の屋敷に住んで、子供たちの面倒みながら、私の先生になれるわ!」
「なにそれ!? もしかして……転移の魔法道具とか?」
「そう! グリムが貸してくれるわ! ねぇグリム」
突然、ハナシルリちゃんが、俺に話を振ってきた。
断れるはずもなく、首肯した。
渡そうと思っていたから、いいんだけどね。
「それはすごい! だったら問題解決ね!」
オカリナさんは、俺とハナシルリちゃんを交互に見て、目を輝かせた。
「そうよ、いい方法でしょ! それから毎日夕方から、秘密基地でみんな特訓してるのよ。それにも参加できる時に参加してよ。なんてったってレベル52なんでしょう。元迷宮攻略者だし。戦っている梨那が想像できないけどね。子供の頃はどっちかって言うと、私が体を張って、梨那が口で言い負かすって感じだったのにね」
「ふふ、小学生の頃の話でしょう。でも訓練に参加するのも面白そうね。子供たちと夕食を一緒に取りたいから、あまり長くはいれないと思うけど」
「子供たちって、何歳くらいの子がいるの?」
「連れてきた子たちのほかに、成人してる子が三人いるの。三人とも女の子よ。二十歳の子が全体をよく見てくれているの。商会のほうも見てくれているわ。あと十六歳の子と十五歳の子がいて、十六歳の子がお花屋さんを中心に見てて、十五歳の子がどうしてもやりたいって言うからクレープ屋さんを始めたのよ。食品店のほうは二十歳の子が見てくれてるの。それから未成年の子が十三人いて、十四歳の男の子と女の子、十三歳の女の子、十二歳の男の子、十一歳の男の子、十歳の女の子、九歳の女の子、八歳の女の子、七歳の女の子、六歳の男の子、五歳の男の子、三歳の男の子、二歳の女の子という構成よ。なんかうまいことばらけてんのよね」
「さっきみんなで話してた時に、人数だけ聞いた時はピンとこなかったけど、年齢で言われるとすごいわね。なんかイメージできちゃうわ……。めっちゃ大家族じゃない! 二歳の子までいるわけね……」
「そうなのよ。どうしても私が引き取る必要がある子だけに限定しても、こんな人数になっちゃったわけ。もう背負うものが大きすぎて、怪盗が続けられなくなったのもわかるでしょう」
「そうね。もし梨那に何かあったら、子供たちがまた不幸になっちゃうものね。それにしても……ルセーヌちゃん達は姉で通用するけど、ちっちゃい子供たちには母親状態じゃない、完全なビッグマミーね」
「ハハハ、そうなのよね。もう気持ち的にはどっぷりお母さんよ。年嵩の子たちには姉のようなつもりで接してるけど、小さな子たちは自分でも姉って感じじゃなくなっちゃってんのよね。でも子供たちが大きくなったら、姉で通用するんじゃないかしら。美容には、がっちり気をつけるつもりだし。ところでアンチエイジングの魔法薬とかさぁ、魔法道具みたいなものってないの?」
「もう、なに急に現実的な話しちゃってるわけ? ……まぁ二十九歳だもんね。私は四歳で、もどかしいけど、二十九歳だったらちょっと焦るかもね……」
「そうなのよ。ちょっと焦り出してるのよね……」
「そうね……私は今んとこ必要ないけど、アンチエイジングも考えとかないとね。ニアちゃんやサーヤさんたち妖精族って、十五歳を超えると十年で一年分くらいしか外見が成長しないのよ。私たち人族には、アンチエイジングは重要課題ね……」
「前に一緒にパーティー組んでた『コボルト』の子も、そんなこと言ってたわ。ずっと会っていないけど、多分彼女は見た目が変わってないわよね。会ったらショックを受けそう……。今までは、あまり真剣に取り組んでなかったけど、アンチエイジングに使えそうな薬草とか真剣に探そうかしら……」
「そうね。がんばりましょう!」
二人の様子を見守っている俺とニアと『魚使い』のジョージを置き去りにして、二人は女子トークに花を咲かせている……。
……これいつまで続くわけ?
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