854.死ぬ時も一緒の、大親友。
『怪盗イルジメ』ことオカリナさんと、見た目は四歳児中身は三十五歳のビャクライン公爵家長女のハナシルリちゃんが、お互いの前世の名前と思われる呼び名を呼んで、抱きしめ合いながら号泣してしまった。
少しして、二人が落ち着いたので、話を聞くことができた。
予想通り、二人は前世で知り合いだったらしい。
子供の頃からの幼なじみで、大親友だったそうだ。
“二人は一つ”的な感じで、子供の頃から周囲には『ルリリナ』と呼ばれていたらしい。
周りの子供たちに、一目置かれていたという話だった。
なんとなく……話がオブラートに包まれているような気がするが……。
どう考えても、子供たちを仕切ってたガキ大将的な感じだったんじゃないかと思う……。
まぁ突っ込むのは、やめておいたけどね。
オカリナさんの前世での名前は、岡田梨那というらしい。
ハナシルリちゃんは、オカリナさんを見た時から、直感的に何か感じるものがあったのだそうだ。
それで、じーっと見ていたらしい。
オカリナさんは、まさか親友が四歳児になっていると思わないから、あまり意識していなかったようだが、ハナシルリという名前には引っかかっていたようだ。
二人の話で衝撃だったのは、二人は休日に旅行に出かけ、一緒に乗っていたバスの事故で命を落としたらしいということだ。
「死ぬときまで一緒だったよね」と、二人で笑っていたが……微妙に笑えない冗談だと思う。
同じ日に亡くなったにもかかわらず、オカリナさんは二十九年前に転生し、ハナシルリちゃんは四年前に転生したことになる。
やはり俺が予想している通りに、異世界に転生するときに、時間軸は関係ないらしい。
それにしても、親友とこんなかたちで再会するなんて、もう感動なんて言葉じゃ表現できないよね。
二人が、ただただ泣いていた気持ちは、わかる気がする。
ちなみに二人は、同じ年の同級生だったらしいので、オカリナさんは見た目は二十九歳、中身は三十五歳ということになるようだ。
まぁこの範囲では、もうほとんど変わらないだろうけどね。
というか…… 三十五歳に二十九歳を足して、六十四歳が精神年齢だったりするのだろうか……?
うーん……そんなことを考えるのは野暮だから、やめといてあげよう。
オカリナさんは、十四歳の時に前世の記憶を突然取り戻し、その時に『固有スキル』なども発現したらしい。
その十四歳の時というのが、さっき聞いた『魔物流出
十五歳を目前にしたその日、ご両親は迷宮からあふれ出た魔物と戦い、命がけでオカリナさんを守ってくれたのだそうだ。
だが、オカリナさん自身も重傷を負い、生死を彷徨ったらしい。
その時に、前世の記憶を取り戻したのだそうだ。
それからは、さっきも聞いた通りに『迷宮攻略者』になり、その後に王都に移り住み、成り行きから義賊働きを始め、『怪盗イルジメ』として活動していたということになるわけだ。
聞きたい事は色々とあるが、あまり一気に尋ねても大変だと思うので、今後ゆっくり教えてもらえばいいだろう。
俺や『魚使い』のジョージ、ハナシルリちゃんのことも、かいつまんで説明した。
「みんなグリムの『絆』メンバーになってるのよ。すごい『固有スキル』でね、メンバーになった途端に、もうチート状態よ! もちろん梨那も仲間になるでしょう?」
ハナシルリちゃんが、オカリナさんの手を握り、満面の笑みで言った。
「もちろん! せっかく瑠璃と出会えたんだもの、また一緒にいたいわ!」
「そうしましょう! ルリリナコンビ復活ね!」
二人は、大喜びでハイタッチをして抱きついた。
スーパーモデルのような長身のオカリナさんとずんぐりの四歳児のハナシルリちゃんのハイタッチなので、普通なら届かないのだが、ハナシルリちゃんの高レベルから来るジャンプ力で難なくできていた。
普通の人が見たら、びっくり映像でしかないけどね。
オカリナさんは、仲間になってくれるようだ。
もちろん、俺も仲間になってほしいと思っていたので、何の問題もないし嬉しいことなのだが……。
なんとなく……ルリリナコンビというのが……ヤバい予感しかしない……。
最近加入したばかりのハナシルリちゃんは、よく言えば天真爛漫……普通に言えば破茶滅茶なキャラで、台風の目のようになっているのだが……コンビになってパワーアップしたら、一体どうなってしまうのだろう……?
そんな不安がよぎってしまったのだ。
そしてもっと怖いのは……そんな二人の様子を、期待を込めた笑みを浮かべて見ているニアさんだ。
気持ち的には……仲間内に台風を三つ抱えている気分だ……。
オカリナさんが、良識人であることを祈りたい……。
ジョージも俺と同じように感じているらしく、微妙に顔が引きつっている。
そして俺はジョージと視線が合い、お互いに苦笑いしてしまった……トホホ。
「グリムさん、不束者ですが、よろしくお願いします」
微妙に苦笑いしていた俺に、オカリナさんそう言って頭を下げてくれた。
俺の意思確認はなしに、仲間になるということで話が進んでいたが、ちゃんと俺に許可を求めてくれたようだ。
一応、良識人のようで良かった。
「こちらこそ、よろしくお願いします。これから助け合っていきましょう」
俺はそう言って、握手の為に手を差し伸べた。
オカリナさんもそれに応じて握手をしてくれたのだが、なぜか急に顔が赤くなっている。
「梨那、さすがね。『不束者ですが』なんて、グリムのお嫁さんになるつもりね!」
なぜかハナシルリちゃんが、嬉しそうに声を弾ませた。
なんで急にお嫁さんになる話になるのか、わからないが……そもそも、それが合っていたとして、俺の嫁になると公言しているハナシルリちゃんにとっては、ライバルになるんじゃないのだろうか……?
普通は、喜ぶとこじゃないと思うけど……。
「ふふ、瑠璃はどうなわけ? グリムさんて競争率高いわよね?」
なぜかオカリナさんが、普通にハナシルリちゃんの話に乗ってしまっている……なぜに?
今日会ったばかりなんですけど……。
「あとで詳しく説明するけど、競争率はめっちゃ高いし、独占するのは無理よ! でもこの世界の良いところは、共有できちゃうってことよ! 何人でも嫁にできるから大丈夫! みんなでお嫁さん連合を作って楽しく暮らせるから、逆にいいと思うわ! 子育ても助け合えると思うし、最高の環境になると思うのよね! 梨那ともずっと一緒にいれるわけだし!」
ハナシルリちゃんが、勝手にわけのわからない説明をしている……。
言っていることが、おかしいと思うが……。
多分……俺が嫁さんをいっぱいもらう前提の話になっている感じなのだが……どういうこと?
背筋に寒いものを感じるが……ここで突っ込んではいけないと、俺の本能が告げているので、スルーしておこう……。
「やっぱりそうなのね。これほどの男性だもんね。独り占めは難しいよね……。まぁ一夫多妻が普通に認められる世界だしね。私は瑠璃と一緒にいられるから、シェアってかたちでもいいけどね。他の人たちも、いい人たちばかりみたいだし」
ハナシルリちゃんの破天荒な話に、なぜか普通にオカリナさんが納得してしまっている……。
どういうことなのよこれ!?
「そうなのよ、それがポイントよ! よくドラマなんかである、正室と側室の争いとか、側室同士の争いとか、そんな感じにはならないわよ! 私のちょっとした予知でも、みんな仲良しよ。グリムの周りの好意を寄せる女子たちは、皆良い子たちばかりなのよ。まぁ変な人が嫁になるのは私が許さないし、ニアちゃんやサーヤさんという長生きな妖精族メンバーもしっかりしてるから、お嫁さん連合は安泰だと思うわ」
ハナシルリちゃんが、更にわけのわからないことを言っている。
まぁ確かに俺の周りの女子たちは、みんないい子たちばかりだけど、誰かを嫁にすると言った覚えは、一度もないと思うのだが……。
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