838.ボール型の、マスコットロボット!?

 工作室には『革ジャングラサンアーマー』と『魔法のショットガン』の外には、めぼしいものはなかった。


 だが魔法の電動工具のような物がいくつかあり、かなり使えそうな感じだ。

 切断用の魔法道具、溶接が簡単にできる魔法道具、インパクトドライバーのような魔法道具がいくつかあった。


 今後のことを考えると、この魔法の電動工具が手に入ったことが、一番の収穫かもしれない。



 最後に、機関室の『魔力炉』を稼働させてみようという話になった。


『魔力炉』を稼働させることは既に経験しているので、大体の手順はわかっている。


 魔力注入用の装置に手を当てて、起動させるための魔力を流し込む。


 機能は損傷していないようで、問題なく『魔力炉』が稼働した。


 すると、この『アンダーゾーン』全体がより明るくなった。

 今までも魔法の照明はついていたが、薄暗い感じだったのだ。

 いわばナイトモードのような感じだったが、今は完全稼働状態という明るさになっている。


 ——ウィーガチャンッ


 ——クルクルクルッ


 なんだ!?

 壁の一部がスライドして、丸いボールが転がってきた。


「ハロー、プロー。ワタシは『勇者力研究所』の『プロダクションゾーン』管理システムです。通称プローです。ようこそ『勇者力研究所』へ」


 丸いボールは、俺の前で止まると突然声を上げた。

 正面にはデザインされた顔が付いていて、スライムみたいな感じで可愛いのだが……。

 声は、機械の音声応答的な感じだ。


 この『勇者力研究所』の管理システムと名乗ったようだが……迷宮管理システムの劣化版みたいな感じなのかな?


 それにしても、俺の大好きなリアルロボットアニメに出てくるAIを搭載したボール型のマスコットロボットに似ている。


「君は、この『勇者力研究所』の管理システムなのかい?」


 俺は、プローと名乗ったボールに話しかけてみた。


「違います。アップグレードが未完了の為、『勇者力研究所』全体の管理はできません。『プロダクションゾーン』の管理のみです」


「『プロダクションゾーン』というのは、ここの事かい?」


「違います。ここは『ビルドアップゾーン』です。『プロダクションゾーン』は、この奥にあります。『プロダクションゾーン』に行きますか?」


 おお、まだ別のエリアがあるのか!?


「うん。頼むよ!」


「了解しました。その前に『所長登録』を行います。『魔力炉』起動時に波動情報を一部取得しました。人造迷宮のダンジョンマスターである情報を読み取りました。所長就任の資格ありと判断します。………登録完了しました。それでは案内します」


 プローは一方的にそう言うと、円形のエリアの奥側……北側にある壁の前に立ち、目の部分から光を照射した。


 すると大きな壁が後ろにスライドし、その後、左右に分かれて開いた。


 このギミックは、上のエリアの『オープンゾーン』から『シークレットゾーン』に移動するときと全く同じだ。


 上のエリアは、上空から見たとしたらメガネの形のような円形を二つ繋げた構造になっていたが、この下のエリアの構造も、ほぼ同じになっているようだ。


 俺たちは、『プロダクションゾーン』と言われているエリアに入った。


 これは……すごい!


 巨大な生産設備が置いてある。


 真ん中は、他のゾーンと同じように円形の空間になっていて、大きな装置がいくつか並んでいる。

 周囲の壁の奥には、他のゾーンのように個室があるのではなく、円形に沿った形状の生産ラインのようなものが置かれている。

 壁自体がガラス張りのようになって、透明なので奥の様子が見えるのだ。


「ここは、何の生産設備なんだい?」


「『マグナ合金』の生産設備です。『マグナ合金』のインゴットも作れますし、決められた形状のパーツを生産することも可能です」


「『マグナ合金』の生産設備が作られていたの! それはすごいわ!」


 『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神で、失われた『マシマグナ第四帝国』の第四皇女だったエメラルディアさんが、声を弾ませた。


「私たちが使っていた頃にはなかったゾーンが、二つもできていたなんて……」


「しかも『マグナ合金』の生産設備まで作られていたなんて……」


 元『癒しの勇者』で吸血鬼の始祖のヒナさんと、『魔盾 千手盾』の付喪神で元『守りの勇者』のフミナさんも驚いている。


「『マグナ合金』というのは、どういうものなのですか?」


 初めて聞く名前なので、当然尋ねた。 


「『マグナ合金』は、『マシマグナ第四帝国』が開発した特殊な合金で、操縦型人工ゴーレムや魔機マギなどの素材として使われています。軽くて硬い特性があり、魔力が通り易く魔力で強化することができます。『オリハルコン』などの魔法金属に似た性質があって、廉価版といった感じです。べつじん28号も基本パーツは、『マグナ合金』でできていると思います。あと帝国を滅ぼした機械の殲滅兵の素材も『マグナ合金』です」


 エメラルディアさんが教えてくれた。


 さらに詳しく訊いたところ『マグナ合金』は、『魔鋼』に『魔芯核』と『コバルト』と『チタン鉄鉱』さらには『魔砂土』という魔素を多く含んだ特殊な砂土を混ぜて作られるらしい。


『魔鋼』は現代でも作られていて、『魔芯核』と鋼を合わせて作る素材だが、それをベースにさらに特殊合金が作れるようだ。


『魔鋼』が強化されたものが、『マグナ合金』なのだろう。


 そして『魔鋼』自体もかなり優秀な素材だが、『マグナ合金』は『オリハルコン』などの超優秀な魔法金属と『魔鋼』の中間くらいの性能を持つらしい。


 この『マグナ合金』に、さらに『オリハルコン』などの魔法金属を少量加えると『マグナ超合金』というものができるとのことだ。


『オリハルコン』を加えた『マグナ超合金O』は、『オリハルコン』にかなり近い性能になるようで、貴重な『オリハルコン』を少量使うだけで、同程度の性能の『魔法合金』ができてしまう画期的な技術らしい。

 実用化するのに、何百年も要した極めて難しい技術だったようだが、帝国末期にようやく完成したのだそうだ。


『メカヒュドラ』の黄金のボディは、『オリハルコン』を大量に使って作っているのかと思ったが、どうも『マグナ超合金』の『オリハルコン』バージョンである『マグナ超合金O』で作られていたようだ。


 エメラルディアさんによれば、いくら一点物の特殊な魔機マギであっても、あれほど大量のオリハルコンを使ったとは考えにくいとのことだった。



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